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第52章 — 小さな影との対峙

霧の立ち込める森の中、私たちは静かに歩を進めていた。

陽の光は木々に遮られ、空は重く沈んでいたけれど、彼が隣にいるだけで、不思議と心は落ち着いていた。


ふと、小さな気配が道の先に現れた。

黒く濁った目を持つ、狼のような魔獣。

それは恐れるほどの存在ではなかったけれど、こちらを睨みつけて唸り声をあげていた。


「僕がやる。」


そう言ってサエルは前へ出た。

刃を抜き、無駄のない動きで魔獣を制した。

刹那、風が吹き、魔獣は灰となって消えた。


私はその光景を見つめながら、ふと胸の奥に重たい何かが広がるのを感じた。


このまま彼は、何度も何度も戦い続けていくのだろうか。

どれだけ傷ついても、どれだけ孤独でも。

その姿に慣れてしまうのが、怖かった。


「サエル。」


私が名を呼ぶと、彼は静かにこちらを見た。

その瞳は何も言わないまま、ただ私を映していた。


「……未来のことを、考えたことある?」


沈黙が流れた。

彼は答えなかった。けれど、それが答えのように感じられた。


彼の歩む道は、あまりにも過酷で、冷たくて。

私たちが出会ってからずっと、彼は何かを守るようにして戦っていた。

でも、その「何か」は、彼自身ではなかった。


彼は自分を守ろうとしない。

誰かの光であり続けることを選んで、己を蝕みながら進んでいる。

そんな背中を見るたび、私は自分の無力さを思い知る。


「私は……きっと、あなたの未来を変えることなんてできない。

でも、あなたの隣で、ちゃんと見届けたい。」


それは祈りだった。

いつかこの手が、彼の歩む道に温もりを灯せるようにと願う祈りだった。


風がまた吹いた。

けれど彼は、私の隣に立ち、静かに歩き出した。


そして私も、その後を追った。

この小さな旅路の中で、彼の痛みも、沈黙も、すべて抱きしめていけるように。



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