第51章 — 隣にいるということ
〜アーリアの視点〜
彼の背中を見つめるのが、いつの間にか私の日常になっていた。
言葉は少ないけれど、その沈黙の中に、彼のすべてが詰まっている気がした。
サエルはただ前を見て歩いていた。
何も言わず、振り返ることもなく。
けれど、私は知っている。彼は私の存在をちゃんと感じてくれていることを。
彼の歩く道は、血と灰に染まっている。
それでも私は、その隣を歩きたいと思ってしまった。
なぜだろう。
あの目の奥に見える、深い孤独。
痛み、後悔、そして何よりも…優しさ。
彼がふと立ち止まって、私を振り返った。
その瞳に映った私は、小さくて、弱くて、それでも何かを守ろうとしている姿だったかもしれない。
「アーリア……疲れてないか。」
その一言が、まるで祈りのように胸に届いた。
彼が誰かを気遣う言葉を口にするたび、私はもっと彼の力になりたいと願ってしまう。
「ううん、大丈夫よ。……サエルの隣にいられるだけで、強くなれる気がするの。」
本当の強さは、たぶん彼がまだ知らないもの。
でも、私は見てきた。
傷つきながらも誰も巻き込まないように戦う姿を。
何もかも背負いながら、沈黙の中で耐えるその姿を。
私は彼にとっての「光」なんて大それた存在じゃない。
けれど、もし少しでも彼の心を照らせるなら――
私は、何度でも手を伸ばす。
「サエル……あなたがどこへ向かおうとも、私は共に歩く。」
その言葉に驚いたように、彼の目が揺れた。
彼が何も言わなくてもいい。
この沈黙の中に、確かに私たちは繋がっている。
そう信じられるのが、今の私の強さだと思う。
彼の背中を見つめながら、私は微笑んだ。
これからも、歩いていこう。
この手が、彼から離れないように。
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