表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/65

第49章 — 小さな灯火(ともしび)

彼はどこへ向かっているのか、自分でもわからない。

だが、行かねばならない場所があることだけは確かだった。


その旅路には地図も道標もない。

足元には灰と記憶だけが残り、背には静かな絶望が貼りついていた。


それでも、彼の両手には守るべきものがあった。

冷たい風に吹かれようと、絶えず揺らめくその小さな光を、

彼は手のひらで包み込むようにして守っていた。


アーリア。


なぜ彼女が自分についてくるのか、彼にはわからなかった。

問いただすことも、理解しようとすることもなかった。

だが、ただ一つ、彼の中で確かな想いがあった。


――守らなければならない。


理由など必要なかった。

彼女を見ているだけで、心の奥に暖かい何かが灯る。

それはこの世界のどこにも存在しないはずの、

優しさや安らぎに似た感覚だった。


彼女がそばにいるだけで、何かが変わる。

重さが、痛みが、孤独が。

ほんの少しだけ、薄れていく気がした。


戦いの後、二人きりで歩く夜道。

月は雲に隠れ、風は冷たい。


だが彼の中には、小さな火が揺れていた。

それは彼女の存在そのもの。

そして、彼はその火が消えることを何よりも恐れていた。


アーリアが無言で彼の隣を歩くと、

彼はふと立ち止まり、空を見上げた。


「……お前がいるだけで、いい。」


それが本心だった。

世界がどうあろうと、過去がどんなに壊れていようと――

今、彼の歩む理由は彼女だった。


誰にも届かない祈りのように、

彼の想いは静かに夜空に溶けていった。



---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ