第49章 — 小さな灯火(ともしび)
彼はどこへ向かっているのか、自分でもわからない。
だが、行かねばならない場所があることだけは確かだった。
その旅路には地図も道標もない。
足元には灰と記憶だけが残り、背には静かな絶望が貼りついていた。
それでも、彼の両手には守るべきものがあった。
冷たい風に吹かれようと、絶えず揺らめくその小さな光を、
彼は手のひらで包み込むようにして守っていた。
アーリア。
なぜ彼女が自分についてくるのか、彼にはわからなかった。
問いただすことも、理解しようとすることもなかった。
だが、ただ一つ、彼の中で確かな想いがあった。
――守らなければならない。
理由など必要なかった。
彼女を見ているだけで、心の奥に暖かい何かが灯る。
それはこの世界のどこにも存在しないはずの、
優しさや安らぎに似た感覚だった。
彼女がそばにいるだけで、何かが変わる。
重さが、痛みが、孤独が。
ほんの少しだけ、薄れていく気がした。
戦いの後、二人きりで歩く夜道。
月は雲に隠れ、風は冷たい。
だが彼の中には、小さな火が揺れていた。
それは彼女の存在そのもの。
そして、彼はその火が消えることを何よりも恐れていた。
アーリアが無言で彼の隣を歩くと、
彼はふと立ち止まり、空を見上げた。
「……お前がいるだけで、いい。」
それが本心だった。
世界がどうあろうと、過去がどんなに壊れていようと――
今、彼の歩む理由は彼女だった。
誰にも届かない祈りのように、
彼の想いは静かに夜空に溶けていった。
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