第44章 ― 空の修道院での審判
エゼリアの空の修道院は、眠ることのない森と浮かぶ丘に囲まれてそびえ立っている。聖十字教団の重大な審問と会議は、常にこの神聖な場所で行われてきた。
そして今、ジョアナは残された十人の聖騎士たちをここに招集した。
その呼びかけに応じ、各地から集った聖騎士たちの名は以下の通りである。
ヴェリッド・サロン(炎の盾)
イレン・ヴェルハルト(ミスラの眼)
セルカ・ドンマーレ(天の刃)
ベルカン・ノルド(沈黙の剣)
エステル・ラザロ(光の審判)
アガスト・メルロス(鉄の律法)
ノワ・リーヴァル(灰の祈り)
ラデン・クヴァルス(獣の咆哮)
マリュス・エインフィル(神託の盾)
ルーメ・ナダレス(流星の舞)
彼らは皆、国家や種族を越えて選ばれた者たち。
人間、エルフ、そしてドワーフ――信仰によって結ばれた十一の盾だった。
会議の場には、聖十字教団の最高権威であるヘルモール・グランスタイン大司教の姿もあった。
ジョアナは、一人静かに歩み出て、戦いの全てを語った。
エリアスの死、神の顕現、そして――サエルという名の“刻印者”。
「……私とエリアスでは、彼に触れることすら叶いませんでした。
あの者は、悪魔の八つの封印を完全に保ったまま、神を斬り伏せる力を持っていました。
そしてなお、自我を保ち、人としての言葉を話していたのです。」
沈黙が場を包んだ。
誰もが言葉を失い、ただ彼女の声に耳を傾けるしかなかった。
ついに、ヘルモール大司教が重く口を開いた。
「――十一人の聖騎士全員が力を合わせれば、その者を討てるのか?」
ジョアナはわずかに目を伏せ、答える。
「いいえ。彼は戦う理由を持っていません。
彼の望みは、ただひとつ……『故郷に帰ること』だけです。」
その言葉に、会議の空気が一変した。
驚愕、動揺、恐れ、そして…どうすべきかという葛藤。
それでも誰一人、否定する者はいなかった。
なぜなら、彼女の言葉には嘘がなく――
彼の歩みに、敵意がなかったことを、誰よりもジョアナが知っていたのだから。
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