第38章 ― 女神、地に立つ
空が裂けた。
金色の亀裂が雲を貫き、まるで大地の罪を暴くように光が降り注いでいた。
魔法陣の中心に立つエリアスの身体は、ゆっくりと崩れていった。
まず、皮膚に亀裂が走り、肉が光に包まれた。
そして――
彼は灰になり、風に溶けていった。
その灰は落ちずに、天へと昇る。
聖なる光に導かれるように。
> 「エルバラトフ」――完全に発動した。
—
そして、彼女が現れた。
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戦の女神ヴァルサ
その存在は説明不要だった。
身長は三メートルを超え、強靭な肉体と優美さを併せ持つ。
白銀の髪は腰まで流れ、まるで戦の風に舞う生きた金属のよう。
紅い瞳は、魂の奥底まで見通すような神性を宿していた。
鎧は黄金と黒鋼の交織で、肩には古代の獣の骨が装飾されていた。
背中には、儀礼の槍と巨大な戦斧が十字に背負われていた。
歩くだけで空気が重くなる。
地面は沈み、風は止まり、
魔物さえもその存在にひれ伏す。
彼女は「霊」ではなかった。
重力そのもののような存在だった。
—
口を開く。
> 「この子の純粋な信仰により、私は地を歩むことが叶った。」
「エリアス・ヴェレンハルト。汝の魂は真に聖なるものであった。」
> 「私は三十分、この世界に存在する。
その全てをもって、汝の犠牲に報いよう。」
> 「敵を討ち、汝の名を称えん。
戦の終わりには、汝の魂を我が神域へと連れ帰る。
永遠なる安らぎの地へ。」
—
ゆっくりと顔を上げた彼女の視線が、ジョアナに向けられる。
その目には、雷鳴のような怒りと深い失望があった。
> 「ジョアナ・ベルフォード。」
> 「なぜ、あの子を止めなかった?」
「なぜ、年若き魂に全てを背負わせた?」
> 「その姓に、貴女は相応しくない。」
ジョアナは何も言えなかった。
胸を刺すその一言は、どんな刃よりも鋭かった。
—
次に彼女は、ゆっくりと顔を向ける。
今度は――彼を見た。
右目を封印されたまま、静かに立つ男。
鎖を外し、何も語らぬ者。
> 「穢れし存在よ。」
> 「人類は苦しんでいる。」
「そして、今や“刻まれし者”は十一人。」
> 「かつて誰一人として、完全に滅ぼされた者は存在しない。」
> 「貴様……未だに“覚醒”していないというのか?」
—
空が震えた。
風が止まり、大地が息を飲んだ。
戦の女神と“刻まれし者”の視線が交錯する。
> ただ視線が交わるだけで、世界がきしみ始めた。
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神が剣を抜く――
その瞬間が、近づいていた。
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