表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/65

第36章 ― 解き放たれし戦舞


ジョアナは、血に濡れた地面に立ち尽くしていた。

槍の柄を握る手は震えている。

しかし、その瞳には決意の光が宿っていた。


「……あれが限界なら、まだ間に合う」

「でも――まだ“こちら”も出し切ってない」


隣では、片腕のエリアスが唇を噛んでいる。


「やるのか?」

「命を削ることになるぞ」


ジョアナは頷いた。



二人は同時に詠唱を始めた。


> 「デイ・ヴォルンタス・デイ――その名の下に」

「聖十字に選ばれし我、神託の力を解き放つ」




大地が震え、空が軋む。


魔法陣が浮かび上がり、光の柱が二人を包む。


ジョアナの鎧には、黄金の刺繍が浮かび、

槍は雷のような光を帯びた。


エリアスの片腕の先には、浮遊する聖なる文字。

彼の瞳は完全な白に染まり、

神の声を宿した者の姿となる。



アリアは、息を呑んで見ていた。


「……これが、聖騎士の“真の姿”……?」


二人の存在感が、彼と並ぶほどに膨れ上がっていた。

それほどまでに、彼らは神に近づいたのだ。



彼は、静かに腰の鎖を外した。

地面に落ちた鎖が重く響く。


> 「動く。」




たった一言。

それだけで、世界の空気が変わった。



次の瞬間、激突。


ジョアナの雷槍が彼の肩をかすめ、

彼の剣が返すようにジョアナの脇腹を裂いた。


だが、彼女は倒れない。

血を流しながらも、前を向いたまま。



エリアスの詠唱が終わり、

空から無数の光の刃が降り注ぐ。


彼はそれを、左右の剣で払いのける。

まるで風を裂くかのように。



その戦いは、美しく、残酷だった。


剣と槍が交わり、魔法と祈りが衝突する。


一歩も譲らず、数秒ごとに空が揺れ、

地が割れる。



だが――その中で、彼は微かに笑っていた。


疲れも見せず、

痛みも示さず、

ただ“戦っていること”を楽しんでいた。



ジョアナの槍が彼の胸をかすめた瞬間、

反撃の剣が彼女の肩を深く斬り裂く。


彼女は呻きながらも倒れず、地に膝をつく。



エリアスが前に出る。


「ジョアナ……下がれ!」


彼は最後の魔法を詠唱しようとするが、

その瞬間――彼の片腕が切り落とされた。


「――ッ!」


さらに追撃の一撃が足に走り、

両脚の骨が砕かれた。


地に崩れ落ちるエリアス。

血が溢れ、呼吸が荒れる。



ジョアナが叫ぶ。


「エリアス!」


だが、もう立てない。


彼は、確実に“殺さずに”倒していた。



アリアが駆け寄る。


「やめて!やめてよ!」



彼は、剣を構えたまま彼女を見つめる。

そして静かに言った。


> 「終わった。これ以上は必要ない。」




背を向ける。

再び、棺の方へ歩いていく。



その背中を、誰も追えなかった。


ジョアナは、地に伏しながら、

その場でただ涙をこらえるしかなかった。



> 「これでも――まだ本気じゃないなんて……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ