第32章 ― 空が裂けるとき
夜が、静かに降りてきた。
しかしそれは、ただの夜ではなかった。
星々は異様に動かず、森の木々さえ囁いていた――
「何かが起きようとしている」と。
ジョアナとエリアスは、古い泉のそばで野営の準備をしていた。
しかし、空気は重い。風も止まり、虫も鳴かない。
「……静かすぎる」
エリアスが低く呟いた。魔法陣が彼の足元に浮かび上がる。
ジョアナは頷き、槍にそっと手を置いた。
> 「彼の気配がまだ残っている……
この世界そのものが、彼の存在を覚えている。」
—
遠く離れた場所で、
アリアは焚き火のそばに座っていた。
彼は、大きな岩に背を預け、目を閉じていた。
一言も話さない。
アリアはそっと彼の右目を見た。
封印はまだ閉じている。
しかし、それでも脈動していた。
— 「あの二人……知ってるんでしょ?」
彼は答えなかった。
けれど、彼の沈黙が答えだった。
> 「パラディンたち。」
—
そして――空が、裂けた。
稲妻のような轟音。
だが、光も雷もない。
ただ、圧力。
両方の陣営が、同時に立ち上がった。
森の中央、
地面が崩れ、巨大な獣が現れた。
皮膚は灰色、骨が露出し、胸には失われた時代の紋章。
— 「これは……古代戦争時の召喚獣」
ジョアナが構えた。
エリアスはすでに魔法詠唱を開始していた。
— 「彼の存在に引き寄せられたんだ」
—
彼は立ち上がった。
まるで何も驚かないかのように。
ゆっくりと、両手を剣の柄へと伸ばした。
「逃げる?」アリアが尋ねる。
だが、彼は答えなかった。
代わりに――
一歩、前に出た。
—
獣が咆哮する。
そして突進。
狙いは彼ただ一人。
しかし――空から光の柱が落ちてきた。
ジョアナが降下してきたのだ。
神聖なルーンを纏い、槍を雷のように構えて。
衝撃で獣は弾き飛ばされた。
地面に降り立ったジョアナは、彼の正面に立った。
言葉は交わされない。
ただ、視線だけ。
—
アリア、ジョアナ、彼。
三者が初めて真正面から向き合った。
空気は張り詰め、
風も止まり、
森全体が息を潜めた。
—
> 「今、選ばなければならない――
戦うのか、逃げるのか、話すのか。」
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