第31章 ― 灰と共に歩む者
日が沈みかけていた。
木々の隙間から射し込む光は、まるで刃のように森を切り裂いていた。
ジョアナは、崖の上にじっと立っていた。
白いマントが風に揺れ、槍は彼女の傍らに静かに突き立てられていた。
「――いた。」
エリアスが呟いた。
ジョアナはすぐには応えなかった。
彼女の視線は、下の森の道に固定されていた。
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そこに、ひとりの男がいた。
棺を引きずりながら歩く者。
その背には太く錆びた鎖。
棺は焼け焦げ、割れ、古代の封印がかすかに光っていた。
彼の隣には、少女がいた。
金髪を編み込み、長い杖を持ち、
その青い瞳には深い悲しみと覚悟が宿っていた。
> 「あの瞳は、彼の全てを知っている。」
ジョアナは見ていた。
彼の周囲の空気が、沈黙を生んでいた。
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「彼が……」エリアスが呟いた。
「――“あれ”だわ。」ジョアナは即答した。
「十一本目の“刻まれし者”。」
目の前の男は、まるで世界そのものが避けて通るような存在だった。
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彼は上を見なかった。
歩みも止めなかった。
だが、少女――アリアだけは、崖の上を見た。
ジョアナと視線が交差する。
その眼差しに宿るのは、怒りでも怯えでもない。
**「来るな」**という静かな警告。
それだけで十分だった。
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男は歩き続けた。
鎖は岩を擦り、棺が大地を引き裂いていた。
アリアはその後ろ姿を追いかける。
ジョアナは動けなかった。
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「追うのか?」とエリアス。
ジョアナは首を横に振った。
「……今は、まだ。」
「なぜ?」
彼女は、地平線の彼方へ消えていく彼の影を見つめながら答えた。
> 「一度、彼の目を見てから――
殺すかどうかを決める。」
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風が吹いた。
それは、預言のような風だった。
> 「まだ、その時ではない。」
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