第30章 ― 結び目の予兆
その道は古かった。
ギルドよりも、聖十字よりも、遥かに古い。
それは、見つかりたくない者たちが踏み固めた道だった。
ジョアナには分かっていた。
その痕跡、
その空気の重さ、
世界が捻れている感覚。
— 近いわ。
彼女は呟いた。
エリアスは問い返す。
— 本当に?
— ええ。でも…何に出会うかは分からない。
ただ、確実に言えるのは一つ。
世界が、彼の周囲で折れ曲がっている。
—
彼らは、葉を落としたまま枯れた木々の森を通った。
鳥のさえずりも、獣の足音もない。
ただの沈黙。
森の中央には、灰の円があった。
その中心に、人間の足跡。
しかし、足跡は深く沈んでいた。
— 何かを引きずっている…
エリアスは言った。
ジョアナは地面に指を当てて言い切った。
— 棺よ。
誰かが、それを背負って歩いてる。
—
さらに進むと、焼け焦げた岩に逆向きのルーンが刻まれていた。
封印が解かれた痕跡。
— 召喚術…しかも中断されてる。
— 本人が止めたのね — ジョアナは冷たく答える。
—
次に見つけたのは、瓦礫と沈黙に包まれた廃村。
奇妙だったのは——
死体がなかった。
すべて…埋葬されていた。
— これは虐殺じゃない。
— 選択の跡よ。
—
倒壊した家の一つに、祈りの輪が残っていた。
その中に何度も書かれた一つの名前:
> 「アリア」
ジョアナの目がその文字を捉えた。
— 誰か…彼と一緒にいる。
— 誰? — エリアスが問う。
— 祈る者。
彼を恐れていない誰かよ。
—
村を離れたとき、風が変わった。
もう、ジョアナは確信していた。
> 「近づいてる。」
「けれど、心の準備はできていないかもしれない…」
—
その頃、アリアと彼は、別の道を進んでいた。
無言のまま。
けれど、空気には緊張が満ちていた。
どこかで、
何かが崩れ始めていた。
> 世界が交わる音が聞こえた。
そして、ジョアナは歩みを止めなかった。
槍と信仰と、静かな葛藤を携えて。
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