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第3章 — 振り返らぬ道
> 時折、彼は思う。
世界は、死ぬことすら忘れてしまったのではないかと。
木々は立ち尽くしているが、もう伸びない。
石は砕けているが、崩れ落ちることはない。
そして彼もまた、歩き続けていた。
棺が地面をかすめる音は、乾いた硝子を爪でなぞるように響く。
その音は、どこの村に入っても変わらなかった。
十字架はなかった。
名前もなかった。
あるのは、空虚な構造物——魂を失った身体のように。
古びた井戸を通りすぎる。
中に水はなかった。
だが、ふとその底に自分の顔が映るのを見た。
だが、それが誰なのか分からなかった。
黒い仮面が顔の下半分を隠していた。
視線は虚ろで、焦点がどこにもなかった。
封印された右目は真実を隠し、左目は残された感情を隠していた。
「俺は……どこへ向かっているのか?」
声に出さなかった。
この場所で言葉は、ただ空に溶けるだけだ。
だが、疑問は歩みと共にあった。
一歩ごとに思い出す。
終わりがどこにあるのか分からない。
それでも止まってはいけない。
たどり着くまでは——止まることはできない。
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