第29章 ― 我々の間にある沈黙
アリアは、彼の数歩後ろを歩いていた。
いつものように。
森は深く、しかし彼はまっすぐに進んでいた。
枝々が道を譲るように、
それは畏敬か、恐れか。
彼が歩くたびに、
鎖が棺を引きずる音が、木々の間に響いた。
一定のリズム。
まるで、心臓が自らの鼓動を諦めたかのように。
彼は一言も発さなかった。
最近の出来事以来、
彼は一言も喋っていない。
それでも、アリアは歩み続けた。
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> 「彼はすべてを示すには十分な“刻まれし者”の素質を持っている。」
その思いが、頭から離れなかった。
彼は強い。
信じられないほど強い。
彼の体は致命傷にも耐え、
そのマナはまるで人間の道具を超えた嵐のようだった。
しかし、彼は…
自分を制御していた。
慈悲ではなく…
集中力だ。
彼はただ、一つの目的を持って歩いていた。
そして、アリアは…
それを知っていた。
彼女は誰にも言わなかった。
彼にも伝えなかった。
だが最後の出来事から、
彼の旅の理由が明らかになり――
世界を壊すつもりはないと理解していた。
> 「彼は、世界に邪魔されず、その“約束”を果たしたいだけだ。」
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もし彼を放っておけば、
彼は世界の果てまで歩くだろう。
棺を引きながら。
仮面を付けて。
割れた瞳で。
しかし、世界は――
決して誰もを放っておかない。
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アリアは、彼の歩みを見つめていた。
彼が足を踏み出す度、
大地に触れる彼の足は、
精密で、柔らかく、
死者の中を歩くもののようだった。
そして――
> 「彼をもっと知りたい。」
彼としてではなく。
人として。
彼が何故ある遺跡の前で足を止めるのか。
何故ある星を見つめ続けるのか。
棺の中に何があるのか。
彼の瞳が時々、
涙を流したがっているように見える理由を。
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> 「彼は私を避けているわけではない。」
「だが、私を受け入れようともしない。」
生きた壁の側を歩くようだった。
堅く、沈黙に満ち、
誰も尋ねられない物語を抱える壁。
でもアリアは、尋ねたかった。
彼が答えなくても。
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遠くで不吉な雷鳴。
だが、雲はなく、雨もない。
彼は立ち止まった。
まるで、何かを――
感じたかのように。
アリアは杖を強く握った。
彼の世界が――
思ったよりも早く、
近づいている。
そして彼女は知っていた――
選ぶ瞬間が迫っている。
> **壁の向こうへ――
それとも、壁の中に留まるか。
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