第20章 ― 灰の上を歩む光
どこかで——遠く、混沌の果てに、
朝の鐘が一度だけ、低く鳴った。
風が祈りを運ぶ空中修道院エゼリア。
約束の石で築かれたその地で、何かが静かに動いた。
聖十字教団の円卓には沈黙が走る。
その沈黙こそが、行動の始まりである。
「ルフテンの町が消えました」
灰にまみれた報告書を差し出しながら、枢機卿が言った。
「生存者はいません。痕跡もない。そこにはただ、灰だけが残されていました」
「……新たな“刻まれし者”が現れたのですね」
静かに、彼女は応じた。
ジョアナ・ベルフォードは静かに立ち上がる。
まるで、それが宿命であるかのように。
その金の髪は儀式用に編み込まれ、
瞳は、聖堂のステンドグラスのように深く、透き通っていた。
彼女は若く、見た目にはどこか儚げであった。
だが——その儚さは、決して折れぬ信念の鎧であった。
祭壇の前に膝をつき、祈る。
「我が身が意志の器となりますように」
「裁きが降りる場所にのみ、剣が届きますように」
白銀の聖騎士の鎧が、一つずつ身に着けられていく。
祝福の油と血で清められた装備。
夜明け前の空のような濃紺のマントが、風に揺れる。
ジョアナ・ベルフォード。
聖十字教団が選びし十二の聖剣の一人、第七剣の名を持つ女騎士。
そして今、刻まれし者の出現が疑われる中——
その灰の地に足を踏み入れるのは、彼女である。
復讐のためではない。
憎しみのためでもない。
彼女が進む理由は——理解し、そして必要であれば浄化すること。
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神聖なる印で飾られた馬に跨り、
ジョアナは修道院の石段を静かに下りていく。
遠く、焼けた大地の向こう側で、
影たちは踊っていた。
そして光もまた、
ついにその影の中を歩むことを選んだ。
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