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第19章 — 静かなる破壊

アリアは彼の腕の中で、静かに風を感じていた。

空を飛ぶという感覚に、まだ心が追いついていなかった。


足元の街、バーンが小さく見える。

彼は翼もなく、詠唱もせず、まるで当然のように宙を翔けていた。


やがて、彼は崖の上に降り立った。

街を見下ろす高台。

彼女を丁寧に地面に下ろすと、無言で前へと歩き出した。


アリアの鼓動は早くなる。

理由は自分でもわからなかった。

だが、空気が変わったことははっきりと感じた。


彼は剣を抜き、空中に印を描き始めた。

赤く輝く紋様が幾重にも重なり合い、この世界の理をねじ曲げていく。


それは見たことのない術式だった。

魔法というより、何か古く、禁じられた力のように思えた。


魔法陣は山の斜面に広がり、やがて街全体を包み込むほど大きくなった。

風が止まり、鳥の声も消えた。


彼は小さく、しかしはっきりと呟いた。


その瞬間、光が世界を貫いた。


爆発音はなかった。

灰が舞うこともなかった。

ただ、街が…消えた。


家も、人も、歴史さえも。

まるで最初から存在しなかったかのように。


アリアの瞳が映していたのは、白い沈黙だった。

それは、美しく…そして、恐ろしかった。


彼女は膝をついた。


「なぜ…」アリアはかすれた声で問う。

「そこにはまだ子供たちも、人々の生活もあったのに…」


彼はゆっくりと振り返る。


そして、長い沈黙の後のように、

氷のように静かで優しい声で語りかけた。

彼はアリアの顔を両手で優しく包み込み、そっと目を覗き込んだ。


その瞳の奥に、アリアは自分の姿を見た。


「…あの人たちは、俺の旅を邪魔した。

そして…君を傷つけた、アリア。」


アリアは言葉を失った。

彼の声には、怒りも悲しみもなかった。

そこにあったのは、ただ冷たい事実だけだった。


――この人は、人ではない。

そのことだけは、はっきりとわかった。


彼は手を差し出す。

まるで世界を無に帰した直後とは思えないほど静かな仕草だった。


アリアはその手を見つめた。

そして…その手を取った。


恐怖もあった。

だが、それ以上に――

彼という存在の真実を、知りたいという想いが勝っていた。


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