第17章 — 斬ることのできぬ真実
輸送団の列は静かに進んでいた。
馬車の車輪が石畳を軋ませる音だけが、乾いた風に溶けていった。
アリアは振り返った。
背後には、主人公が歩いていた。
黒い外套はほこりにまみれ、顔は影に沈んでいた。
彼の右目は封印のままだった。
だが、それでも…空気が重かった。
— 何かがおかしい。
セルヴァは先頭の馬車に乗っていた。
彼女の表情は穏やかで、優雅ですらあった。
だがアリアは気づいていた。
その笑みの下に潜む意図に。
道が二手に分かれた。
そして、罠はその瞬間に閉じた。
木陰から現れた影たち。
それは盗賊ではなかった。
街の守備兵たちと、登録された冒険者たち。
「— 裏切り…!?」
アリアの声が震えた。
セルヴァが馬車から降りてきた。
微笑みを崩さず、ただ事実を述べるように言った。
「ごめんなさいね。最初からこれは、囮だったの」
「なぜ…? 私たちは街を守るために協力したはず…!」
「だからこそ。あなたたちがあまりに力を持ちすぎていた。
支配できない者は、排除するしかないのよ」
主人公は一歩前に出た。
一言も発さず。
ただ静かに、剣を抜いた。
「待って! 話し合いで…」
アリアの声は届かなかった。
空気が震えた。
彼の剣は、血を呼ぶ。
一撃。
二撃。
兵士たちが次々に崩れ落ちる。
封印は解かれなかった。
それでも彼は、戦場の理を塗り替えていく。
セルヴァが叫んだ。
「退け! あれは人間じゃない!」
アリアは震えながらも、目を逸らさなかった。
剣が血を描き、土が罪を飲み込む光景を。
そして知った。
— この男に、真実を突きつけても刃は鈍らない。
— なぜなら、彼は最初から答えなど求めていない。
終わったとき、誰も立っていなかった。
風が草をなで、遠くで鳥が飛び立った。
血の海の中央に、彼は立っていた。
そして、何事もなかったかのようにアリアのほうを見た。
「…行こう」
その背中には、斬られることのない真実が、静かに重なっていた。