第15章 — 街の仮面
> バーンの街は賑わいを見せていた。
市場には声が飛び交い、冒険者たちの笑い声があちこちから響いていた。
だが、彼女にはわかっていた。
その笑顔の多くが仮面に過ぎないことを。
アリアは歩きながら、人々の視線を感じていた。
誰もが礼儀正しく振る舞っているが、
彼の隣に立つ自分を、まるで奇異な存在のように見ていた。
主人公は沈黙したまま。
声を発することなく、ただ街の道を踏みしめて進む。
その目は冷たく、誰も寄せ付けない壁のようだった。
「ねえ、見て。あの男よ…」
「彼女、あんな人と一緒にいて大丈夫なの?」
ひそひそとした声が通り過ぎるたび、アリアの心は痛んだ。
だが彼女は、足を止めなかった。
むしろ、彼の歩幅に合わせるように前を見た。
そのとき、街の中央広場で一人の女性が近づいてきた。
セルヴァと名乗るその人物は、丁寧な微笑みを浮かべながらこう言った。
「ようこそ、バーンへ。市議会の者です。少々、お時間をいただけますか?」
アリアがうなずくと、セルヴァは手帳を取り出し、
とある依頼について語り始めた。
「最近、交易路で物資の消失事件が多発しています。
情報によれば、隠された勢力が関与しているようです。
あなた方のような方々に、調査と護衛をお願いできればと」
主人公は何も言わなかったが、視線だけで了承を示した。
アリアもまた、深く息を吸ってから答えた。
「わかりました。協力させていただきます」
その夜、宿の小窓から見た夜景は、美しく静かだった。
だがその静けさの奥に、アリアは何か不穏な気配を感じていた。
彼の背中は、どこか遠くを見つめているようで、
まるでこの街に留まる理由などないと言っているようだった。
アリアは拳を握った。
自分に問いかける。
— この人について行くべきなのか、それとも…
— それでも私は、この旅の先を見たい。
心の中で揺れる仮面を、一つ、そっと外した夜だった。