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第14章 — 門の言葉

バーンの城壁は、地を裂く傷のように遠くに現れた。

高く、冷たく、まるで人ではなく機械のような衛兵が並んでいた。


空には雲が広がっていたが、雨は降らなかった。

ただ乾いた風が斜面を下り、足元に埃と過去の記憶を運んできた。


三人が門に辿り着いたとき、老人は立ち止まった。

深く息を吸い込む。その表情には、未来を見つめる者の静けさがあった。


「ここが、わしの道の終わりじゃ」

彼は静かに言った。


アーリアはやさしく微笑み、頭を下げた。


「ご一緒できて嬉しかったです。

あなたの存在は……道を照らす光でした」


老人はまっすぐに彼女を見つめた。

そして近づき、そっと肩に手を置いた。


「わしの名は……ハルヴェン。長らく誰にも名乗っておらんが、おぬしには教えてもよかろう」


「ハルヴェン……忘れません」

アーリアは丁寧に応えた。


だが、老人の顔には笑みがなかった。


「よく聞いておけ……」

老人の目が、前方の男へと向いた。

主人公は変わらず沈黙したまま立っていた。


「あやつは、この世のものではない力を宿しておる。

冷たく、絶望の匂いがし、運命というものが欠けておる」


アーリアはまっすぐにハルヴェンを見返した。


「彼は知らず知らずのうちに、おぬしを蝕むことになるかもしれん。

光を持つ者には、あまりに深い闇だ。近づきすぎれば……いずれおぬしを壊す」


アーリアは静かに息を吸い、迷いなく言った。


「それでも……私は彼のそばにいたい」


ハルヴェンはわずかに眉を寄せた。


「なぜじゃ?」


「彼の中にある何かが、私を惹きつけるんです。

それが何かはまだわかりません。

でも……きっと、彼はまだ“何か”を覚えている。

あるいは、思い出そうとしている気がするんです」


老人はしばらく目を閉じた。


「希望とは、時に愚かで……だが、美しいものじゃ。

そして、それこそが世界を救う唯一の愚かさかもしれんの」


そう言って、彼は背を向けた。

主人公には一言もかけず、ただ別の道へと静かに消えていった。


アーリアは、その姿が木々と埃の中に消えるまで見送った。


主人公が振り返り、彼女を一瞬だけ見た。

何も問わず、何も言わず。


そして二人は、言葉なきまま、

変化が待ち受ける街へと足を踏み入れた。




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