第13章 — 森の沈黙
葉は湿っていた。
だがそれは露のせいではなく、森そのものの汗のようだった。
暑く、息苦しく、生きている。
主人公は根と影の間を静かに歩いていた。
棺は、古き封印によって守られた場所に残してある——
まるで触れることすら許されぬ聖域のように。
今ここにあるのは、彼だけだった。
彼……そしてその内側に潜むもの。
小枝が折れる音。
もう一つ。
そして現れる視線——茂みの奥、六対の小さな目がこちらを見ていた。
ゴブリンたち。
鋭い声と共に、飢えた獣のように飛びかかってきた。
一匹が先に跳び、短剣を振りかざす。
主人公は後退しなかった。
構えすらせず、ただ体を自然にずらし、剣の柄で空中の敵を打ち落とした。
骨が砕ける音。
地面に触れる前に終わった命。
他のゴブリンたちが一瞬ためらった。
——ほんの一瞬だけ。
本能は盲目であり、飢えは恐怖を超える。
三体が背後から。
一体が上から。
二体が正面から襲いかかる。
彼の動きは、影のようだった。
静かで、確実で、儀式のように美しかった。
横薙ぎの一閃——首が落ちる。
身をひねり、股間と喉を斬る。
顎を蹴り上げれば、歯が種のように飛び散る。
森は沈黙した。
葉のざわめきさえ止み、鳥たちもこの“何か”を察して息を潜めた。
最後の一匹が逃げようとした。
だが逃げ道はなかった。
乾いた音。
腕が木に叩きつけられる。
主人公は微動だにせず、無言だった。
呼吸も乱れず、ただ目がわずかに震えていた。
封印された右目が、不規則に脈打つように揺れた。
額に手を当てる。
何かが、内側で目覚めかけている——だがまだ早い。
封印は破られない。 彼自身もそれを望んでいない。
しゃがみこみ、流れる血に手をかざす。
「……声はない。でも、痛みはある」
小さな声がした。
アーリアだった。
少し離れた木陰で、戦いを見守っていた。
「モンスターでさえ……死ぬときは目を開けたままなのね」
主人公は立ち上がる。
剣を静かに拭い、鞘に収める。
勝者の風格はなかった。
ただ、また一つ、自分の中の何かを超えた男の背中だけがそこにあった。