第1章 — 鎖の音
シリーズ紹介
鎖が断たれるその先に?
> 彼は棺を引きずる。
鎖は彼を縛り、過去は彼を焼く。
言葉が響かなくなった世界で、彼は歩き続ける。
運命のためではない。
栄光のためでもない。
自分でも理解しきれない「重さ」のために。
彼の目は、正しさも罪も映さない。
体は動いても、心は——おそらく、どこかに置き去りにされた。
一歩ごとに、虚無が鳴る。
夜ごとに、砕けた鏡が揺れる。
そしてその内側には、目覚めを待つ「何か」が静かに潜んでいる。
傍らには棺。
その中には秘密。
鎖が断たれ始めたとき、世界は思い出すだろう——
いくつかの道は、救いへと続いてはいない。
真実へと続いているだけだ。
最初に聞こえたのは風ではなかった。
石に引きずられる鎖の音だった。まるで、大地が死者を運ぶ者を忘れまいとしているかのように。
少年は歩いていた。
一歩。
もう一歩。
その背後には、影より重い存在があった。
焦げた木でできた棺。ひび割れ、重厚な鎖で腰に繋がれている。
空は灰色だった。雲のせいではない。
それは、青を思い出せなくなった空の色。
少年の目は開いていた。
だが、世界は彼を見ていなかった。
そして彼自身も、何を見ているのか分からなかった。
右目が疼く。
赤い虹彩に刻まれた円形の封印。中から伸びる鎖が、まるで肉に食い込むように絡んでいた。
封印。それが一つ目なのか、唯一なのか、彼には分からない。
「まだ…壊れていない。」
あるいは、もう壊れているのかもしれない。
物語をここまで読んでくださり、心から感謝いたします。
この作品「鎖が断たれるその先に?」は、
“失ったものの重み”と、“選び続けることの痛み”をテーマに綴られています。
主人公には目的がありません。
ただ、重い棺と過去を引きずりながら歩く姿は、
何かに縛られ、迷いながらも進む私たちの姿そのものかもしれません。
正しさとは何か。
悪とは誰か。
この世界に本当に「選択の自由」があるのか。
それらを読者の皆さまと一緒に問いかけ、見つめていけたらと願っています。
まだ物語は始まったばかりです。
彼の鎖がいつ断たれるのか。
その先に何が待っているのか。
私自身も、恐れとともに書き進めていきたいと思います。
どうか、これからも彼の旅路を見届けていただければ幸いです。
――霞の日(Kasumi no Hi)