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マル=ハディールの風は冷たく  作者: ユフランティー
1/7

タル=アヴァリスの炎

 ――鉄と声が入り混じる、乾いた空気の中で剣は振るわれていた。


 太陽はすでに高く昇り、断崖に築かれた砦の石壁を黄金に染めている。

 煙が上がるのは、敵が投げつけた油壺に火が回った証。地に転がる骸の横を駆け抜け、ムラトは叫んだ。


「押せ!壁際まで追い込め!敵は数を失った、陣形を崩すな!」


 前列の騎兵が槍を突き立てるたび、敵兵が悲鳴を上げて石畳に崩れた。

 その隙間から盾を構えて押し上がるのは歩兵たち。

 ジャリールの部隊は右の小路から回り込み、砦の副門に向かって攻勢をかけている。


「ムラト!左から抜ける!崩れかけの倉庫の裏手に抜け道があるはずだ!」


 叫びながら駆け寄ってくるその男――ジャリール・イブン・ハミードは、血に染まった鎖帷子の隙間から陽光を跳ね返していた。

 頬に傷を負いながらも、その眼光はまったく揺らいでいない。


 ムラトは一瞬だけ頷き、肩越しに背後へ命じる。


「第四隊、ジャリール殿に続け!第二陣、門前で弓を構えろ、奴らの頭を上げさせるな!」


 返事の代わりに、短く鋭い号令とともに盾が鳴り、兵たちは動き始める。

 ――砦の扉はまだ閉ざされている。だが、すでに勝敗は決していた。


 敵は逃げ場を砦の中にしか見いだしていない。退却と防御の動きは明らかに乱れている。

 ここで踏み込めば終わる。そう、帝国の旗がこの断崖の上に翻るのは時間の問題だ。


 ムラトは泥にまみれた剣を振り払いながら、目を細めた。

 砦の高み、見張り塔のひとつ――その頂から、ひとりの男がこちらを見下ろしている。


 金の縁取りが施された白い外套、槍を携えたまま微動だにしない。


 最後の敵将。かつて、帝国に抗い続けた“沈黙の騎士団”の生き残り――


「……行くぞ。すべて、終わらせる」


 ムラトは静かに呟き、駆け出した。戦の終わりは近い。




○ ○ ○




 砦の門が閉ざされる音が、遠く断崖の石壁に反響して消えた。

 戦場には、ひとまずの静けさが訪れていた。


 高台に立つ小さな聖堂跡――崩れかけた石段の上に、二騎の馬が並ぶ。


 一人は帝国軍司令ムラト・イブン・サルフ。

 もう一人はその盟友、ジャリール・イブン・ハミード。


 彼らの鎧は血に染まり、剣には未だ泥がこびりついていたが、どこか誇らしげな余熱をまとっていた。


「……随分と粘るな。あの砦、牙を抜かれた獣かと思っていたが」


 ジャリールが口の端をゆがめて言う。

 青銅色の盾を背に、片腕を槍に預けながら、砦の壁を遠く眺めていた。


 ムラトは短く息を吐き、手綱を緩めて答える。


「牙は抜けても、信仰は残る。あの者たちにとって、この砦は祈りの最後の灯火なのだろう」


 彼の目に映るのは、煙の立ち上る塔――

 塔の上に掲げられた、褪せた赤の旗。それは旧帝国の象徴だった。


「“沈黙の騎士団”か。まるで伝説のような名だ。……剣を取るだけの信仰に、いったい何が残る?」


「何も残らぬさ。だが、信じきった者ほど厄介な敵はいない」


 ムラトはそう言って、鞍から片足を下ろした。

 風が吹き、丘の枯れ草がざわめいた。


「だが、この戦が終われば――ようやく帝都に帰れる」


「そうだな。俺たちの名は、帝国の記録に刻まれるだろう」


 ジャリールは、遠くマル=ハディールの方向を見やった。

 それは彼の生まれ故郷、そして、のちに災厄が訪れる地でもある。


「……あの港にも、春風は届いているだろうか。あの冷たい風さえ、今日は穏やかに吹いているかもしれん」


 ムラトはその言葉に目を細めた。


「帰ったら、酒場で一晩語ろうか。火の前で剣を下ろして」


「火の前で――それは贅沢だな、司令殿」


 互いの視線が重なり、笑みがこぼれた。

 だが、次の瞬間、砦の中から聞こえてきた――鈍い音が、空気を裂く。


 鉄が打ち合う音。断続的な叫び声。


 ムラトの顔から笑みが消える。


「……早すぎる。籠城の備えを捨ててまで、奴らは何を企んでいる?」


「……出る気か?この状況で?」


 門が軋み、砦の内側から数十名の兵がなだれ出た。

 それは正規軍の隊列ではなかった。盾も鎧も捨て、剣と信仰だけを握った男たち。


 「アド=ナイ!アド=ナイ・エル=ルハーム!」


 彼らは叫びながら駆けてくる。

 火に焦げた布をまとい、胸元に古の印章を刻みつけ、目には涙とも熱病ともつかぬ光が宿っていた。


 「主よ、われらを照らしたまえ――!」


 その声は、戦場というよりも祭壇に近かった。

 命を捧げることが赦しだとでもいうように、彼らは自ら突撃してくる。


 ムラトはその様子を、馬上から静かに見下ろしていた。


 「……狂信か。あるいは、祈りの果てに残されたものか」


 彼は槍を持たなかった。剣にも手をかけず、ただ見ていた。

 彼らが帝国軍の盾に叩き伏せられ、槍に貫かれていくさまを。


 ジャリールが歯を食いしばるように問う。


「ムラト、お前はそれをただ見ているのか?」


「……あれは、終わった時代の幻影だ。

 無残に死ぬのが、神の望みだというなら――その神が滅ぶのも時間の問題だ」


 ムラトの声には怒りも憐れみもなかった。ただ風のように冷たい響きが残る。


 「死者は語らず。だが、その血は語る」


 突撃は止まった。地には祈りが倒れ、血に染まった布が風に翻る。


 やがて、砦の上部――塔の窓に影が見えた。


 敵の将か、あるいは神官か。


 ムラトは目を細め、無言のまま手綱を握り直す。

 戦は終わっていない。それは、いまだ沈黙の中に火種を宿していた。




○ ○ ○




 夜が明け、霧が晴れるよりも早く、太鼓の音が戦場に鳴り響いた。

 乾いた鼓膜の振動が、断崖の砦に向けて進軍の意思を告げる。


 帝国軍の工兵たちが、大木の幹から削り出した攻城梯子を数本、壁際へと担ぎ上げていた。

 それは前夜のうちに準備されていたもの。突撃の合図とともに、兵がそれを肩に走り出す。


 「壁へ! 一番隊、援護を!」


 ジャリールの号令が飛ぶ。

 兵たちは声を張り上げ、盾を構え、砦の傍らへと雪崩れ込むように進んだ。


 梯子が立てかけられ、重装の歩兵が先頭を駆け上がる。

 その瞬間――砦の上段から鋭い弦音が響いた。


 「伏せろ!」


 ムラトの声が響くよりも早く、空を裂いたのは数十本の矢ではなく弩の一斉射だった。

 高台に並ぶ射手たちは、狙撃の構えを崩さぬまま、兵の動きに合わせて正確に矢を撃ち込んでくる。


 「連弩か……。技術は古いが、運用は見事だな」


 ムラトは馬を降り、指揮台の帆幕の影から戦況を見つめていた。

 ひとつ、またひとつ――梯子の上で叫びがあがる。

 味方の兵が、登攀の途中で身体を貫かれ、次々と地に叩き落とされていった。


 「斜面が狭すぎる!梯子を運ぶにも時間がかかるぞ!」


 副官が叫ぶ。


 「――いや、奴らは動きを読んでいる。梯子では無理だ」


 ムラトはそれだけ言うと、布地の地図を指で押さえた。


 「この断崖の東側。あそこに岩棚がある。夜明けには影になり、砦から死角になるはずだ。

 そこへ小規模の部隊を回せ。ロープと鉤縄で静かに登らせろ。囮の梯子部隊は陽動とする」


 「ですが、あそこは岩が崩れやすく――」


 「……だからこそ、奴らは見ていない。登れるのは兵十名が限界。だが、奴らの頭上を取れれば、砦の扉は開く」


 副官は一瞬息を飲み、やがて低く頷いた。


 「ムラト将軍、我らの神は貴殿のような男をお創りになったのですな」


 「神など知らん。俺はただ――勝ちにきた」




○ ○ ○




 岩棚に立つ風は、砦のそれよりも冷たかった。

 東の空が紫に染まり始めたころ、岩場の影に身を潜めた十余名の兵士が、静かに鉤縄を放った。


 「……あの将が、俺たちと来るとはな」


 小声で呟いたのは、若い弓兵。

 ムラトの背中を見上げながら、何かを呑み込むように息を吐く。


 鎧を脱ぎ、軽装に身を包んだムラトは、鉤縄が岩を噛んだ音にも一切振り返らなかった。


 「言葉は後にしろ。戦場では沈黙が命を繋ぐ」


 声は低く、しかし岩壁に染みこむような重さがあった。


 月の残光を背に、ムラトはロープを掴み、一気に岩肌を駆け登った。

 老練な将の動きではない。まるで獣のように、迷いなく、力強く。


 他の兵たちも続いた。

 風が吹き抜け、遠く砦の鐘が鳴ったとき――彼らの足元は、すでに砦の外縁に達していた。


 石壁の外。足を踏み外せば谷底。

 だがムラトの目は、一点を見据えていた。


 「……あの見張り塔の裏手だ。梯子は無用、斬って入る」


 合図は要らなかった。

 ムラトが剣を抜いた瞬間、他の者たちも同時に身を起こし、壁を越えた。


 砦の裏手に設けられた小門。

 その前で火を焚いていた二名の見張り兵が、異変に気づく前に切り伏せられる。


 鉄が鳴る。血が撒かれる。

 短い悲鳴を最後に、砦の一角に静寂が戻った。


 「門は開くか?」


 「はい、将軍。この先の滑車を落とせば――」


 兵の手が鉄の輪にかかる。


 ムラトはその横を通り過ぎながら、すでに耳を澄ませていた。


 ――沈黙の騎士たちが、音を聞いたはずだ。


 敵は来る。

 だがこちらには、先に剣を振るう者がいる。


 「城門を開け。陽が登る前に決着をつける」


 城門が、きしみを上げて内へと押し開かれた。

 それはまるで砦が口を開け、地獄の呼気を吐き出したようだった。


 「総攻撃、開始!」


 ジャリールの怒声とともに、帝国軍の本隊が突入する。

 朝日が、門を越えた刃に閃きを落とす。


 弩兵が倒れ、盾を捨てた敵兵が火を灯す。

 油の匂い、血の匂い、灰の匂い――混ざり合った戦場に、ムラトは剣を抜いた。


 湾曲したその刃は、太陽にきらりと光る。

 ――“サルフの鉤月”とあだ名された、彼の愛剣だ。


 敵兵が一人、悲鳴をあげて斬りかかってくる。

 まっすぐに、勢いだけで突き出された槍。


 ムラトは横に踏み出す。

 刃の根元を回し込むように槍を絡め、ぐ、と手首をひねる。


 ギィン、と金属がきしむ音。

 次の瞬間、ムラトの剣が槍の柄を切り裂き、敵兵の喉元を一閃した。


 返す刃。斜めに切り上げたその軌跡が、続けて背後の敵の腹部を斬り裂く。

 回転、踏み出し、膝裏を薙ぎ払うように、刀身が地をなめた。


 敵兵が三人、同時に崩れ落ちる。


 「ムラト将軍……!」


 部下が息を呑む間もなく、ムラトはさらに一歩踏み出していた。

 刃は常に流れるように、止まらない。


 斬るのではない。断ち切る“線”を見極めて流す。

 相手の力の流れを受け流し、逆にそこに自分の刃を置くように――


 敵の剣が斜めに振り下ろされる。


 ムラトは体を一拍だけ遅らせてから動く。

 刃先が肩にかかる寸前、半歩沈み込んで、脇腹から刃を滑らせるように突き入れる。


 敵の息が止まった。


 「……遅い」


 低く呟いて、刃を引き抜く。


 敵はまだ、目を見開いたまま倒れた。


 砦の中庭には、瓦礫と血、火の音と叫び声。

 煙が巻き上がるなかで、ムラトの剣だけが、静かに月のように舞っていた。


 火の粉が舞い、瓦礫の上に黒煙が巻く。

 中庭の奥――塔の手前、石畳の広場に、それは立っていた。


 甲冑は青鉄と金の装飾で形づくられていた。

 肩当には双頭の鷲が浮き彫りとなり、胸板には古の聖句と家紋が絡む金の意匠が施されている。


 その威容は、まるで神殿の像が歩き出したかのようだった。


 男の名は知らない。

 だが、その姿だけでわかった――

 これは旧帝国、ビザンツの残された“誇り”。


 ムラトは、煙の向こうで剣を握り直す。


 「帝国の犬にしては、なかなか着飾っているな」


 男は何も答えず、頭部の兜を持ち上げる。

 ――顔は壮年、鋭い鷲鼻と深く刻まれた眉間。だが目は澄んでいた。

 まるで、神の座から見下ろすような静謐と冷笑が宿る。


 「我らは滅びぬ。血が流れても、理念は剣に宿る。

  貴様らの文明には、それがない。あるのは命令と計算――魂なき刃物だ」


 「魂の重さで勝てるなら、お前たちはこんな砦に隠れていなかっただろう」


 その瞬間、甲冑の騎士が地を蹴った。


 刃が閃く。ムラトもまた、応じて踏み込む。


 打ち合い。金属の衝突音が、鐘のように響いた。


 重い。男の剣は両手持ちの大剣、斜めに振り下ろされるだけで石畳に亀裂が走る。

 だが、ムラトは受けない。


 足運びと身の旋回でかわし、曲剣の曲線を活かして鎧の関節へ刃を差し込む。


 「ハッ……お前の剣には、詩がない!」


 男が吠え、水平に薙ぎ払う。


 ムラトは地を滑るように後退し、避けざまに肘関節を切り裂く。


 「詩など、戦に要らん」


 再び接近。

 ムラトの剣が、相手の剣の鍔に絡みつき、刃を跳ね上げる――


 そこに突き刺さる、膝蹴り。

 甲冑の腹部に沈んだ瞬間、空気が抜けるような呻きが漏れた。


 「……っ、神の名において――」


 「もう神はおらん」


 ムラトの刃が、相手の兜の隙間へと滑り込む。

 一瞬、黄金が弾け、血が飛び散った。


 男は、膝をつき、静かに前のめりに崩れ落ちた。


 その姿を、ムラトは黙して見下ろしていた。


 「……誇りは、剣で語るべきだったな」


 残る兵たちが、ムラトの後ろに集まってくる。

 砦の塔へと、最後の突入が始まった。


 塔は、砦の中央にそびえていた。

 天へ向けて張り詰めた石の塊――まるで神の意志を模したかのような無言の構築物。


 その内部に、残敵が立てこもっていた。

 数は三十余。弩兵、衛兵、老人の司祭――

 皆が皆、信仰と運命の名のもとにこの塔に骨を埋める覚悟でいた。


 「門を焼き落とせ。水は使うな。煙で炙れ」


 ムラトは命じた。

 兵たちが塔の正面扉に火矢を打ち込み、油を撒く。

 扉の内側からは弓矢と叫びが返ってくるが、すでに射線は散っていた。


 石段を駆け上がろうとした兵の一人が、矢に眉間を射抜かれ、音もなく崩れた。

 それを見ても、誰も止まらなかった。


 「砦の外へは道はない。生きるか、死ぬか、それだけだ」


 ジャリールが吠える。兵たちが続く。


 塔の入口が黒く焦げ、ついに崩れた。


 突入――


 内部は狭く、暗い。

 階段は狭く螺旋状。壁には油と煤が染みついていた。


 突撃する兵たちに、上から石壺や火油が叩き落とされる。

 一人が炎に包まれ、喉を焼かれながら階段を転がり落ちる。


 ムラトは言葉を発さない。

 ただ、前へと歩いた。


 敵の足場を奪いながら、剣で火を払うように切り開いていく。


 火油を浴びた盾兵が咆哮し、先陣を切って突っ込んだ。

 続けて、ジャリールと数名の護衛が階段を駆け上がる。


 敵兵の一人が振り下ろした棍棒を、ムラトは剣で受け流す。


 流す。絡める。断ち切る。


 ひとつ、またひとつ、階段を登るたびに、抵抗の音が途切れていく。


 そして――塔の最上階にたどり着いたとき、そこにあったのは、

 火と血の香りにまみれた崩れた祭壇だった。


 神の像は首が折れ、血塗れの幕が揺れていた。


 司祭と思しき老人が、剣を前に両手を広げる。


 「貴様らの勝利は偽りだ……神は見ている……この血はすべて……地に祟るぞ……!」


 「神か――」


 ムラトは刃を振るう。

 音もなく、首が転がる。


 煙はようやく晴れつつあり、塔の上階には朝の光が差し込み始めていた。

 火薬と血の匂いの混じった空気の中で、ムラトは剣を鞘に収める。


 彼の前には、崩れた神像の残骸。

 折れた石の顔面は、今もなお天を見上げるように転がっていた。


 「……終わったな」


 背後から、厚い鎧の音が鳴る。

 階段を上ってきたジャリールが、満身創痍の様子で肩を回していた。


 「ようやく、だ。長かった……この砦を崩すまで、三度も血を流した」


 ムラトは振り返らず、崩れた祭壇を見つめながら静かに答える。


 「崩したのは砦ではない。

  ここに住まう“過去”そのものだ。……ようやく、帝国の地図が一枚、塗り替わった」


 「勝利だ、ムラト。あの高慢な鷲どもが、自ら血を吐いた」


 ジャリールは笑い、肩を組むようにしてムラトの隣に立つ。


 二人の視線の先には、石の窓の向こうに広がる光。

 その先に、地中海がきらめいていた。


 赤く燃える砦の瓦礫が、風に吹かれて崩れ落ちていく。

 死と勝利の入り交じる静寂のなかで、ムラトは言った。


 「……この勝利が、いつか我らに報いをもたらすとしても。

  それはまだ、今日ではない」


 「報いか。お前は昔からそういうことを言う。

  だが今日ぐらいは祝え、ムラト。

  俺たちは生きている――それだけでもう、充分すぎる」


 しばしの沈黙。

 ムラトはわずかに目を細め、初めてわずかに笑ったように見えた。


 「……ならば、酒と火と太鼓だな。兵どもに振る舞ってやれ。

  今日だけは、刃を下ろしてもいい」


 「命令として、喜んで受け取ろう」


 二人は、燃え落ちる砦を背にして石段を降りていく。

 勝利と、ほんのわずかな疲労感を纏って――

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