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page29 盤上の裏切り者

「............」


「............」


俺もサラも、何も言葉を発することができない。

いや、できるわけがなかった。自分たちの居場所が赤い炎に包まれ、人の肉片と瓦礫がぐちゃぐちゃになって燃えているのを眼前にして何か言える人間がいるわけがない。


「お前ら!」


どれくらい時間が経ったのだろう。

気づけば藤堂さんが傍まで走ってきていた。


「よかった...お前らは大丈夫だったな」


よかった、とはいうものの、肝心の藤堂さんは瓦礫の被害を受けたのか右肩からの出血がひどい。

左足を引きづるような歩き方と言い、きっと戦うどころかまとも歩くことも憚られるような状態だろう。


「あ...藤堂さん...これって......」


「どうやら奴らは基地を火薬で爆破する腹積もりだったんだ」


火薬をここまで大量に持ってくるより基地のを使った方が効率がいい。

そこで穂村の爆弾がどこに貯めこまれているか襲撃によって暴き、裏切り者が自爆覚悟で火を点けた、というのが藤堂さんの考えた真相のようだ。


穂村がどれだけの爆弾を所持していたかは俺とサラにもわからない。

そもそも倉庫がある事も知らなかった新人二人なら裏切り者の線は薄いと考え藤堂さんは俺達と合流することを選んだとのこと。


「あの...私たち以外に生き残りは...?」


サラが涙を含んだ目で藤堂さんに訴えかける。

彼女にしてみれば先輩からの大事なものを守り切れなかったようなものだ。ショックで半狂乱になってもおかしくない。


「...まず、俺と一緒に居た穂村は無事だ。無事、といっても息があるだけだがな」


爆弾をため込んでいる倉庫の前で血まみれになって倒れているのを藤堂さんが発見したらしい。

恐らく尾行していた犯人に後ろから刃物で刺され、そのまま放置されていたのだと推測される。

急所は避けたようだが、この崩壊した基地でまともな治療が受けられるとは思い難い。


「荒川、矢田さん、菊池、それと武装して戦線に出ていた一部の奴らは生存が確認できた」


話によるとバンドリーダーの古村、エンジニアの早川、そして武器屋は生存が確認できたとのこと。

ただ通信で確認したのみなので、彼らの容態はまだ分からないらしい。


「......じゃ、じゃあ最上川さんは」


最悪の事態を振り切るように、俺は一縷の望みをかけて藤堂さんに聞く。

返しの言葉は、とても重たいものだった。


「......現時点で、通信は無い」


当たり前だ。

屋上という逃げられない場所からあの大爆発を躱せるわけがない。


だけど、聞かずにはいられなかった。


「...おっと、此度の黒幕がお出ましだぞ」


頬を伝った涙を拭い、藤堂さんの目線の先を見る。

そこにいたのは、ある意味で見知った顔だった。


「ぼ、ボス......!?」


矢田さんと並ぶくらいの長身に、戦闘員ではないにも関わらず良く鍛え上げられた肉体。

俺がサラに連れられこの基地にやってきたときに、最初に出会った基地住民ともいうべき存在。


「......流石に、お前たちは生きていたか」


その声色に、俺達を気遣うような意思は微塵も感じられない。

ただの殺意の塊というべきか、或いは狂気の塊というべきか。


「......藤堂さんは下がっててください。俺とサラで()ります」


「流石に今の俺では足手まといになるのは分かっている。だが勝算はあるのか?」


ボスは調達者(プロキュラー)の練習試合にもたびたび参加しており、戦闘員ではないにしろその実力は折り紙付きだ。

実際俺も何度か戦ったことがあるが、十本勝負で三本引くのが精々だった。それほどまでにこの男は強いのだ。


「正直、分からないっす。でもやるしかない」


俺の隣にサラが立つ。

基地の破壊で動きが悪くなるかと思ったが、今の彼女はちゃんと戦う意思を持っているようでひとまずは安心だ。


「......わかった。俺は周辺のゾンビを殺しておく。だからお前たちに任せるぞ」


藤堂さんがそう言って戦線から離脱するように姿を消した。

当のボスも追う姿勢は見せない。ぶっちゃけ追ってくれた方が隙を突きやすいからありがたかったが、流石にそうもいかないようだ。


「ボスさんよぉ、アンタが今回の黒幕ってことで問題ないよなぁ?」


「......貴様らが怪しい動きをしているのは分かっていた。例の女ゾンビと出会ったんだろう?」


女ゾンビというのはブルーの事で間違いないと思われる。

俺達からはバラした覚えはないが、何処かで勘付かれたのに気づかなかったのは迂闊だった。


「アイツを知ってんのか。つまりアンタは研究所と何かしらの関わりがあるってことだな?」


「ああ。だが、悪いがその先は教えない。みすみす敵に情報を渡すような馬鹿はいないからな」


「別にいいですよ。どうせブルーちゃんに聞くので」


サラも舌戦に参加しているあたり、ボス相手に相当腹が立っているようだ。


さて、口だけじゃなくそろそろ攻撃を仕掛けたいところだが、正面から斬りあうのは流石にマズい。

調達者(プロキュラー)でなくとも、ボスの体躯は俺達よりもはるかに鍛え上げられている。

いまここで取っ組み合っても、瞬殺されるのは火を見るより明らかだ。


爆発なり狙撃なりで、どうにかして奴を『動かした』状態で攻撃したいところだが、瓦礫まみれとなった今の地形でそういう外的要因は得づらい。

精々が瓦礫を飛ばすか、拾い物で不意打ちを仕掛けるか程度だろう。


「(よし、仕掛けるぞ)」


じゃあ俺が動いてサラに殴らせればいい。

近くに随分大きな瓦礫が落ちた衝撃を合図に、サラから大きく距離を取りつつボスの側面へ弧を描くように回り込む。


「見えてるぞ」


ボスも警戒して拳銃を懐から取り出す。

成程、中距離の対策も完璧というわけだ。


「なら好都合」


発砲より先に穂村の小型爆弾で隙を作り、爆発の煙幕で視界を封じつつ瓦礫を飛ばして攪乱。

瓦礫に混じって俺も薙刀で斬り込む。正面は防がれるので足元を中心に、姿勢を低くして攻撃を避けられるように。


「小賢しい」


少しくらい被弾してくれるかと思ったが、大したダメージは見られない。思ったより頑丈だ。

後ろに回り込もうとしたが、それを読まれて肘での一撃を鳩尾に食らう...のは流石に薙刀の柄でガード。

とはいえ重い一撃だ。思わず体勢を崩してしまう。


「終わりだ」


ボスが隠し持っていたナイフを懐から取り出し、俺へと———、


刹那、銃撃の音が響いた。


「ちっ!」


音の発生源はサラ。きちんと煙幕の内にボスの背後へ回り込んでいる。

上手く命中させたお陰で、ナイフの刃がバラバラに打ち砕かれた。

その隙に俺は体勢を立て直し、サラの投げた爆弾の煙幕で身を隠す。


足を止めるとこっちが不意打ちを食らいそうなので、走り回って時折瓦礫と爆弾を飛ばしつつ、サラに通信を送る。


『ごめん、今の失敗した』


『いや、助かった。今のは決めきれなかった俺が悪い』


サラとしては俺に目を向けたボスの不意打ちが決めれなかったのを悔いてるようだが、どうせ決めたとて大した打点にはならなかっただろう。

瓦礫と俺の攻撃を全て捌くやつが銃撃一つ気づかないとは思えない。


『つかこれどうする? 正面から崩すの厳しいぞ』


今の状況だと爆弾の在庫が切れた瞬間劣勢になる。

その前にどうにかして打開策を講じたいところだが、この地形と人数じゃそれも厳しい。


作戦一、藤堂さんを呼び戻して三対一にする。


流石にあそこまで重症の藤堂さんを呼んだところで意味ないのは分かり切っている。というか呼びに行ってる間どうするんだよという問題もある。

他の増援を待つ手もあるが、多分全滅の方が早い。


作戦二、罠を張る。


ビル街とか普段の基地ならまだ何とかなっただろうが、この瓦礫の山じゃ精々爆弾を埋めておく程度だろう。

それが打開策になるかと言われたらかなり怪しい。


作戦三、戦いやすい場所まで逃げる。


そもそもこちらの誘導に乗ってくれるかという問題がある。

ボスからしたら俺達はここで殺すべき存在だと思うので追ってきてはくれると思うが、ここを退いたら他の雑魚ゾンビを相手しながらボスを倒さなければならなくなる。


作戦四、相打ち覚悟で突っ込む。


多分これが一番勝率が高い。

だが俺の武器は薙刀。相打ちには少々不向き。

どうにかして二刀に分割する隙を貰いたいところだが、果たしてその隙がもらえるかどうか。


「捉えたぞ」


作戦を考えるのに夢中でボスへの警戒が薄れていたところに、煙幕の中からボスの手が伸びる。いつの間にかこちらとの距離を縮めていたらしい。

掴まれそうになったのを、持ち前の反射神経と運動神経で間一髪で躱した。


「捉えてねーじゃん間抜け」


「そうか」


無理な姿勢で回避して大きく仰け反った背中に、ボスの回し蹴りが綺麗に刺さる。

的確に横腹を狙った蹴りだ。


「どほっ」


「間抜けはお前だ」


崩した身体を掴まれ、思いきり背負い投げ。

瓦礫を背中越しに食らったせいか、今までにない痛みが突き刺さる。


「がぁっ...かはっ......」


口の中で血の味が渦巻く。

背骨かどこかをやったかもしれない。あまりの痛みに動くことができない。


「まずは一匹」


刹那、銃撃音が響いた。

先程と同じく、その発生源はサラ。


だが、先程と違う点は二つある。

一つは、その音の発生源はサラだけでなかった事。

もう一つは、その銃弾がどこにも命中しなかったこと。いや、命中しなかったのではない。()()()()()()()()()()


「っつぁ.........」


「二度も同じ手にかかるか」


音より早くボスが銃撃を察知し、サラに向けて発砲。

ボスの弾丸はサラの弾丸をはじきつつ、彼女の肩を貫いた。

痛みで取り落としたその拳銃に、すかさず発砲し破壊するのも忘れてないのが腹立つ。


中距離用の武器を失ったサラ。

だけど、その眼に絶望の色は籠っていなかった。


「......いつ同じと言ったっけ?」


「......何?」


口を閉じるより早い銃弾が、サラと真逆の方向からボスの首を襲った。

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