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page17 サメゾンビ

「こいつ、サメのゾンビか!」


天高く飛び跳ね、俺たちの方へと向かってくるサメ。

その体は腐ったような緑色をしていた。


「ギャ”オ”オ”オ”オ”ン”!!」


「ちっ」


勢いよく砂浜にダイブして身動き取れなくなったところを仕留めようと思ったが、流石にそんなマヌケを晒すわけが無かった。

着地した後器用に尾びれを一回転させて、砂を辺りにまき散らしつつ攪乱。


流石に水着という軽装で攻撃を食らうのはマズいので、一旦距離をとる。


「サラ! タイミング合わせて一気に殺し切るぞ!」


砂嵐の中でサメを挟んで反対側にいるであろうサラに大声で呼びかける。

あんな雑な特攻でやられているわけない。


「ヴォオ”オ”オ”!!!」


俺に背を向け、サメがヒレを使って器用に走り出した。つまり狙いはサラ。

多分だが、あいつの得物の持つ血の匂いに釣られたのだろう。


今彼女が持っているのは、かつて基地内最強と呼ばれた葛城紗友里が愛用していた剣だ。

通称、物干し竿。かつて江戸時代に存在した剣豪佐々木小次郎の愛刀には及ばないだろうが、刃渡り九十センチはある大刀から繰り出される一撃はリーチも威力も段違い。


当然他の刀よりも重く扱いづらいであろうが、葛城は楽々使いこなしていたようだ。

その理由は、彼女もデカいから。その恵まれた背丈でしか物干し竿は使いこなせなかった。


つまり、百六十センチしかないサラにとって、それを振り回すのは至難の業。そもそも鞘から取り出すだけで一苦労という有様だった。

では、葛城の遺志を継ぐ彼女はどうしたか。


答えは簡単、鞘が無ければいい。

常に刃を剥き出しにしながらぶら下げておくことで、鞘から抜く時間と手間を短縮。

普段は斧に着けるカバーみたいなのを使って安全性を確保。腰でなく背中に背負うことで地面に擦れる心配もない。


じゃあ、肝心の戦闘は?

ずっと俺はそこが不安点だったのだが、


「......杞憂だったな」


刀を軸にして身体を中心に動かすことでサメの攻撃を躱し、攻撃時はそのリーチを一方的に押し付ける。

以前よりも大きく振りかぶり、勢いをつけて刃先を狙うよう斬り付ける。

まるで俺の戦いのように、サラが立ち回っているのが見えた。


「ヴォオ”オ”オ”オ”オ”ウ”!!!」


俺もサメの背後を取れるような位置をキープしつつ立ちまわる。


これまで戦ってきたゾンビは皆人型だったので若干不意を突かれることはあるが、ゾンビとは言え魚が地上で満足に動けるわけもない。

言ってしまえば鈍いデカブツだ。直接触れられなければどうという事はない。


さっきから噛みつきが当たらなくて苛立ってきたサメが、ついに痺れを切らして尾びれを振り回し始めた。

砂煙に紛れてから噛みつきなり尾びれなりを当てるつもりなのだろう。向こうはゾンビだから嗅覚でこっちをサーチできる。


「京平!」


「分かってる」


勿論それくらいは想定済み。

サラと俺で背中合わせにくっつき、死角をなくす。

そしてどの方向から来てもいいようにお互い構え、攻撃が来たら防御しつつもう一人がカウンター。


「ヴォア”ア”ア”!!」


「俺かよ」


今回は俺の方に噛みつき攻撃がやってきた。

薙刀を水平に構え、その口につっかえさせて動きを止める。


「背中貸してやる」


「あるがと」


一瞬サラが距離を取り、助走をつけて飛び上がる。踏み台は俺の背中。砂のお陰で滑り落ちる心配もない。

そしてサメの上空に舞い上がった彼女が、サメの脳天に思いきり長刀を突き刺した。


「ギャ”オ”オ”オ”オ”!!」


人型ゾンビなら今の一撃で動きも止まって首を斬るのは容易だったろうが、今回対峙してるのはサメ型ゾンビ。

首の太さも人の数倍はある故にまだまだ元気に動き続けている。


だから長刀で地面に固定する必要があった。固定してしまえば元気だろうと動けはしない。

勿論時間経過で緩んで抜け出してしまう前に仕留める必要はあるが。


「じゃあな、次は普通のサメとして生まれてくれや」


薙刀でギコギコと時間をかけて首を落とす。

最初は元気だったサメも、半分くらい首が外れると流石に動かなくなった。


「ゾンビだけあって、臭いが凄いね......」


海洋生物特有の血なまぐささに加え、ゾンビ特有の腐臭も相まって頭がおかしくなりそうな臭いだ。

おまけに炎天下で解体してるから時間経過とともに臭いも際立ってくる。


「......流石にゾンビ共も匂いを嗅ぎつけてやってきたな。サラ、奴らの処理頼む」


「はーい」



★★★



「どうしたの?」


大体三十分ほどかけてゾンビを殲滅したサラが、俺の元へ戻ってくる。

怪我はなさそうだが、返り血がチラホラ付いているのがちょっと怖い。まぁ、サメの解体してる俺にもべっとりと付いているのだけども。


「ん、サメの解体してたんだがよ、なんか気になる物を見つけたんだ」


「なにこれ、電子機器?」


俺もサラも機械に疎いので詳しいことは分からないが、恐らく発信機などの類だと思われる。

撃破後にゾンビが集まってきたことも関係してるかもしれない。


「ああ。しかもこれ、サメの体表に埋め込んであったんだ」


胃袋などに収められていたのであれば誤飲の可能性もあっただろうが、埋め込まれていたとなれば話は変わってくる。

誰かが意図的にやったと考えるのが一番自然だ。


「じゃあ、誰かがこのゾンビを作ったってこと?」


「すでにいたゾンビを利用したという可能性もある。今はまだ断定できんな」


どちらにせよ、ゾンビを手駒にしようとしている奴がいるのは確かだ。


「そんな奴がいるのなら、私達でなんとかしたいね」


この狂った世界をさらに混沌へと導く狂人。

それがいったい誰なのか? 不思議と興味が湧いてくる。


「ま、話は後にしよ。汚れたから海で綺麗にしよっか」


「海水もべたつくが、まぁ血よりはマシだな」



★★★



「はー、泳いだ泳いだ」


汚れを落としつつサラに泳ぎ方を教えていたら、いつの間にか空がオレンジ色に染まりかけていた。

熱気も収まってきたし、ここいらが潮時だろう。


「最初の半分くらいは泳いだというより犬かきだった気がするけどな」


「もうクロールと平泳ぎならできるもん」


まだ拙いとはいえ短期間で泳げるようになったのは偉いと思う。

泳げない人は水自体を怖がることが多いけど彼女はそんなこと無かったし、もともと泳ぎの才能があったのかもしれない。


「ちゃんと泳げると楽しいねぇ」


ぱちゃぱちゃと水面を揺らし、サラが呑気に呟いた。

こっちはお前の胸を極力見ないように気を張っていたというのに...。


「これ以上暗くなると帰り道も危険だし、何よりゾンビが湧いてくる。そろそろ帰宅の準備をするぞ」


「はーい」


さっさと普段着に着替え、二人でバイクに乗り込んだ。

しっかり太陽光でチャージされていることを確認しつつ、発進。


「お、夕陽がいい感じだな」


「うん。すっごい綺麗」


西へと沈む琥珀色がなんだかロマンチックで、光さえなければ見とれてしまいそうになる。


それにしても、あのサメは何だったのだろう。

一応解析目的で発信機含めた一部を袋に入れているのだが、果たして発信源は特定できるのだろうか。


現時点ではこちらから動けないから、ここで何か進展があると嬉しい。

願わくばゾンビを作っている黒幕に接触したいところだが、流石にそれは高望みかもしれない。


「ねえ、京平」


後ろで俺の背中にぴったりとくっついているサラが、普段より小さい声で囁いてきた。


「ん?」


「もしゾンビがいなくなって世界が元に戻ったら、また二人で海に行こ」


「......ああ。今度は背泳ぎとバタフライでも教えてやるよ」


もしかしたらゾンビがいなくなるのは何十年も先の話で、その時には俺たちは皺だらけのジジババになっているかもしれない。

あるいはここではないどこかへと、それぞれ住処を変えているかもしれない。

どちらかが大怪我によってまともに泳げる身体ではなくなる可能性だってゼロじゃない。


それでも、俺たちならいつか平和な世界を取り戻せる。

根拠は無いけど、そんな気がした。

そしてその時になったら、また二人で。


「...つーか、ボスにはなんて説明する? さすがに丸一日いなかったら問い詰められるよな」


「京平が海行きたくなったって言いだしたから連れて行った、って説明するつもり」


「今ここで置いて行っていいか? お前」

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