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page12 防衛奮闘

「そっち一体漏らした! 頼む!」


「任せろ!」


どんちゃん騒ぎが行われる祭りの裏で、俺たち調達者(プロキュラー)は必至の防衛戦に汗を垂らしていた。


祭りが行われる運動場は学校の西側。その防衛に充てられているのは俺、菊池、穂村、矢田さん。

最警戒なだけあってゾンビの雪崩が激しく、夜というのもあってかなり集中して見極めなければならない。


「開始から何時間経過しました?」


「四十分だな」


「オイ余計なこと聞くな! モチベ削がれるだろうが!」


視界の右側でさっきから怒号を飛ばしているのは穂村。

いくら爆発が好きな彼でも、この大群にはさすがに辟易するのだろう。

左側の矢田さんも一切言葉を発さず、ひたすらに殲滅作業に従事している。無口なのはいつもの事だが。


「これやばいです! 死にますって!」


そして俺の隣で、泣き言をギャーギャー喚いているのが菊池。

泣き言言ってる割には前日よりも動きが良くなっており、本番に強いタイプなのが見て取れた。


「ウ”オ”オ”オ”オ”オ”!!!」


「ウ”ボオ”オ”オ”オ”!!」


「くそっ、どっちから来やがる!?」


「十時方向に二体、三時方向に四体です!」


この日まで全く気が付かなかったが、菊池は結構夜目が利くらしい。なんでもそういう体質なのだと。

お陰で彼女をレーダー代わりにすれば、この暗闇でも正確に敵が討てるというわけだ。

寝耳に水だったが、なかなかの朗報で助かった。


「くたばれ!」


ゾンビの体格を至近距離で確認しつつ、柄を固く握って薙刀を横薙ぎ。

一体一体相手するのでなく、同時に複数を巻き込むのが俺の戦い方だ。味方を巻き込まないように注意する必要があるが。


「お、前のより切れ味いいじゃんかソレ」


「おめーが破壊しやがったからな」


「ごめんて」


武器屋に新しく作ってもらった薙刀は、かつて試作品だった旧型とは軽さも切れ味も段違いだ。長時間振り回しても苦じゃないし、以前よりも軽い力で首を切断できる。

それと新たな新機能が搭載されているのだが、その話はまた今度。今は殲滅に集中だ。


『こちら最上川、現在の状況は?』


屋上で狙撃銃を構えている最上川さんからの連絡。

ちなみに彼は特殊なサングラスを掛けることによって、夜でも狙撃が可能らしい。なんか赤外線がどうのこうの言ってたけど忘れた。

銃にも特殊な細工がしてあるのだとか。


「こちら黒金。ゾンビの数は多いっすけど、四人でギリギリ対処できてます」


『了解、と言いたいところだが、見た感じ結構でかい群れが来ている。気抜くなよ』


「了解っす」


「そんな、これでも必死なのにまだ来るんですか...?」


菊池がもう半泣きだ。

正直俺も結構きつい。まさかここまで大変とは思わなかった。


「来たぞ大群! 一体でけえのがいる!」


爆発の轟音に揺られながら、瓦礫の上に陣取っていた穂村が叫ぶ。


ここから見える範囲でもおよそ三十体はみえた。

いつも相手してるのが精々五体程度なので、今回の壮絶さがよくわかる。

そしてその中に、一体だけ群を抜いてデカい奴がいる。


「サイズは!?」


「大体三メートルはある! 矢田、いけるか?」


「......!!」


ぐっと親指を突き出し、矢田さんが大型ゾンビの前に立ち塞がる。

矢田さんもかなり大きいはずなのに、それを軽く凌ぐ体格差。


「おい黒金、ぼーっとすんな!」


「してねぇよ! ちょっと大型ゾンビ見てただけだよ!」


「それをぼーっとしてるって言うんだよ!」


斬れど斬れど、目の前のゾンビは減る気配がない。

夜とは言え夏特有の蒸し暑さもあって、額からの汗も止まらない。


動きの速いゾンビは下から振り上げて体勢を崩してから首を斬る。

身体の大きめのゾンビは一撃を避けてから後隙を刺す。

不意打ち狙いのゾンビは菊池の情報を頼りに斬り払う。


『こちら荒川! そっちどう?』


「こちら黒金。矢田さんが大型ゾンビと交戦中っす。見た感じ大丈夫そうっすね」


大振りのパンチをしっかりと受け止め、下顎を的確に蹴り上げているのが見えた。

体格差をものともせず攻撃に攻撃を的確に被せていくその姿は、現基地内最強の名にふさわしい動きといえる。


『オーケー。こっちは見習いがバックレた』


「えぇ......?」


どうやらゾンビや調達者(プロキュラー)からのプレッシャーに耐え切れなくなった見習いがこうやって防衛中に姿を消すことが偶にあるのだとか。

見習いを志願する奴は基本死にたがりか中二病、あるいは社会不適合者のどれかなのだが、狂人を演じてる奴ほど死地で怖気づくのはいつの時代も変わらないのかもしれない。


『こっちは比較的手薄だから大丈夫そう。最上川(そうちゃん)と協力して防ぐけど、何かあったら増援お願いね』


最上川さんの下の名前が颯馬(そうま)だからそうちゃん。

まぁそんなことはどうでも良くて、とっとと殲滅して荒川さんに増援を送らなければならなくなってきた。


「よし、これで三体目......!」


「ウ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!!」


「ひぃっ!?」


「ちっ、邪魔だ!」


頭を伏せる菊池を飛び越えて、群がるゾンビを纏めて一突き。

切断した頭部を上空にぶん投げて注意を引いてから、残った奴の首を切り裂いていく。


「た、助かった......」


「立って構えろ。まだ全然終わってねーぞ」


帰りたい、と泣き言を溢す菊池を横目に、大型ゾンビの頭部が粉々にされているのを確認した。

どうやら穂村の爆発に一瞬気を取られた隙を見切って、矢田さんが突撃銃(アサルトライフル)をぶちかましたらしい。


矢田さんは突撃銃(アサルトライフル)での中距離戦とナイフでの近距離戦の両方に優れている。勿論肉弾戦も大得意。

この大型ゾンビは首が太かったようなので、突撃銃(アサルトライフル)で粉砕を選択したっぽい。


大型ゾンビが撃破されたことで、多少だが侵攻の圧が弱まってきたように思える。


「纏めて爆ぜやがれっ!」


灼熱の光とともに、あちこちから轟音とゾンビの肉片が舞い上がる。

この防衛戦で一番ゾンビを殺しているのはだれかと聞かれれば、恐らく穂村だろう。

爆発と殲滅作業の相性は抜群だ。

火薬のおかげでゾンビ達の鼻も利きづらく、うまい事行動を阻害できているのも大きい。


「はぁ、はぁ、これなら守り切れる!」


『こちら藤堂。聞こえるか』


予期しないタイミングでの、藤堂さんによる通信。


「こちら黒金。どうしました?」


『黒金、東に向かえ。白珠が危ない』


「......は?」


このタイミングで東?

白珠が危ない?

それなら白珠が通信してくるんじゃ......。


『さっきから東からの通信が何もない。連絡を寄越しても反応が無い。白珠にしてはあり得ないミスだと思うがどうだ?』


会議でも言ってた通り、防衛中は逐一連絡を取り合うことになっている。

通信機は前日にエンジニアたちがしっかりメンテナンスしているので、外傷以外で壊れることはない。

そう、外傷以外で、だ。


「最上川さんから連絡ないんすか?」


『あいつは荒川の区域にかかりきりでな。それに瀕死だった時、最上川じゃ助けられない』


高校の屋上は案外広いもので、まんべんなく全方位を警戒するのは厳しいのだと。

さっきの見習いバックレによる損害がこんなところにかかるとは。


だが、ここで俺が抜けたら西の防衛がかなり危なくなるのではないか?

さらに菊池は見習い調達者(プロキュラー)。荒川さんとこみたいに、途中で逃げる事が絶対にないとは言い切れない。

ゾンビの侵攻も強まっている。俺はどうすれば—―—―—―—―。


「黒金ェ! ぼさっとすんな、早く行きやがれ!!」


動揺で鈍っていた視界が、穂村の怒号で晴れた。


「私達なら大丈夫ですっ! 死んでも逃げませんので!!」


「......!!!」


菊池と矢田さんも、俺の背中を押してくれた。


『新入りだったお前がここまで言われて、期待を裏切るようなことはできないだろう?』


藤堂さんの声が、笑っているような気がした。


「無論です。こちら黒金、只今より東へ移動開始しますのでサポートお願いします」


生前恵まれなかった、本当の仲間。

彼らとの信頼に、ほんの少しだけ賭けてみようと思う。



★★★



隙をみて西を離脱し、北を通って東へ向かう。

基地内を横断する手も考えたが進入口が南しかない以上意味はないし、バリケードを自ら壊していくのも本末転倒だ。


「くそっ、この辺にもゾンビが結構いるな...」


西に比べると圧倒的に数は少ないが、それでもバリケードに張り付いて突破しようとする個体がまあまあいる。

ちょうど北西だったり東南みたいな位置に結構群がっている気がする。


「ウ”オ”オ”オ”オ”!!」


暗闇から一撃を繰り出したのは、四足歩行のゾンビ。

耳や尻尾の形状的に犬もしくは狼をモチーフとして出来たのだろう。


「ちっ、邪魔くせぇ」


足を止め、犬型ゾンビに向き直る。

目が爛々と光っており、恐らく夜目も利くのだろう。

腐った卵のような臭いがする口からは涎がボタボタと垂れており、噛まれるとかなりマズそうな感じがする。


「バオ”オ”オ”オ”オ”!!」


やはり犬型なだけあって、スピードが人型とは段違いだ。思わず足を止めてしまったが、どっちみち逃げられなかったかもしれない。

後ろに回り込むなどの搦手はないが、その分猛攻が凄まじい。

特に牙。掠っただけで服が破られ、酸化して溶けているのが悍ましく感じる。


「あっぶね!」


「ヴぁウ”ウ”ウ”......!」


急な頭への飛びつきをギリギリで躱す。

散った涎が頬にかかり、薄い煙を立てながら皮膚を溶かしていく。


白珠の様子が分からない以上ここでダメージを溜めておくのは非常によろしくない。

とはいえ殺されてしまっては元も子もない。

最善は一刻も早く犬型ゾンビを殺し、白珠のもとへ駆けつけること。


「......しょうがねぇ、奥の手だ」

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