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page10 風が強くて、胸が騒ぐ

「おーい、そっちの木材くれないか」


「こっちのはこれから使う予定だから駄目だ」


「こっちのなら使っていいぞ」


運動場に様々な声が響きながら、少しづつ屋台が組み上げられていく。

俺と白珠は、それらを階段の上からぼーっと眺めていた。


この基地では、毎年この時期に夏祭りが行われるらしい。

娯楽が少ないここの住民にとっては、年に一回の大イベント。

老若男女問わず大盛り上がりするのは当然といえる。


「みんな頑張ってるねえ」


「こんな暑い日に、よくやるぜ」


気づけばもう梅雨も明け、すっかり初夏である。

俺がこの基地に来たのが四月だったはずなので(カレンダーは掲示板にある)、もう三か月ほどが経過しようとしているわけだ。

生前ほどではないが、やはり時の流れというのは早いものだと思う。


「こんなところにいたのか」


後ろからの声に振り向くと、階段の一番上に藤堂さんが仁王立ちしていた。

いつも彼から姿を見せることは無かったので、とても新鮮な感じがする。

最近はちょくちょく顔を見せるようになってくれたが。


「あ、藤堂さん。お久しぶりです」


「そこまで久しぶりでもないだろうが......。とりあえず、二人とも来い」



★★★



藤堂さんに連れられて向かうのは、調達者(プロキュラー)の会議室。

机を『コ』の字にして組まれており、空いているところにホワイトボードが置いてある。

既に全員そろっているようで、各々が暇そうにしていた。


会議自体は掲示板にも無かった情報なので、誰かの思い付きか、ボスからの緊急指令か。

ボスはいないようなので、おそらく前者だろう。

とりあえず、俺と白珠は空いている席に並んで座った。


「これで全員そろったな。今から会議を始めるぞ」


どうやら今回の旗振り役は藤堂さんらしい。


「この時期に会議ってことは、やっぱ夏祭り関連の事っすか?」


「そうだ。毎年恒例の警固番についてだな」


何か屋台でも出すのかと思ったら、祭りに参加すらできないというオチだった。

まぁ住民側からしても爆弾魔とか祭りに入れたくないだろうし、妥当ではある。


「黒金が初参加だから説明しておく。


俺達調達者(プロキュラー)は夏祭りなどの夜に行われる行事は警固が義務となっている。

名称は『夏祭り防衛戦』。開始は午後六時からの、三時間ぶっ通しだ。

東西南北に調達者(プロキュラー)と見習い調達者(プロキュラー)を一人ずつ配置する。


最上川は屋上に、ボスは全体的な指揮、後の二人は運動場外周の警固。

逐一トランシーバーで状況の報告を怠るな」


「あの、調達者(プロキュラー)に見習いとかいたんすね」


「ゾンビと戦闘なんて一般人がすぐさまできるわけないからな。普通はある程度訓練を行う必要がある。貴様は少々特例だったがな」


俺がいきなり見習いをスキップできたのには、初陣の功績が理由にある。

これが無ければあの後指導担当の矢田さんに、他の人たちと一緒に訓練を受けていたであろう。


ちなみに見習いの指導は矢田さんが行っているとのこと。

今俺の向かい側に座っているのが矢田さんだが、めちゃくちゃ圧があって怖い。


一九〇は超えているであろう慎重に、筋骨隆々な体躯。

肌の色的にアフリカかその辺のハーフだろうが、サングラスが似合いすぎている。

そして、一度も喋っているのを見たことが無い。

それでも現調達者(プロキュラー)最強だから腕は確かなのだろうが、これでまともに指導できているのだろうか。


死ぬほどどうでもいい事だが、見習いの募集は毎年春。

そこから約三ヵ月の訓練を受けた後、この防衛戦が初陣となるらしい。

今年の志願者は四人。例年より多いとボスは気難しい顔をしていた。

......まあ志願者なんて死にたがりか変人しか来ないしな。


「前年はこの防衛で調達者(プロキュラー)が一人が死んだからな。気張れよ」


「えっ」


普段静かな夜にバカ騒ぎするので、嗅覚以外鈍感なゾンビも向かってくるらしい。それでも祭り自体はやめないところに、そこはかとない狂気を感じる。

どうやら適当にやって済む仕事ではなさそうだ。自ずと緊張で体が強張る。


「運動場があるのが西側だから、西には計三人配置するという事でいいんだね?」


荒川さんが確認をとる。

三人というのは外周の警固番を足した数だろう。


「ああ」


「誰をどう配置するんだい? 実力的には矢田さんや藤堂っちが妥当だけど」


荒川さんは藤堂さんの事をあだ名のようにして呼んでいるのか。

正直藤堂に似合ってない気もするが、同い年だからこそ親近感が湧くのだろう。


「去年は俺、矢田、穂村だったな。今年は俺を黒金と交代するか」


「でも、反対の東側が手薄になるのはマズくないか?」


律儀に手をあげてから、最上川さんが不安の声を漏らす。

初陣時の大型ゾンビは狡猾に自身の俊足を隠していた。

もしそんな個体が他にもいるなら、手薄なところから攻める知能を持つ奴がいてもおかしくない。


「去年はそれで不意を突かれてしまったからな。とはいえどちらかだけにリソースを注ぎ込むのはよくない。勿論南北にもある程度戦力は欲しい」


珍しく藤堂さんが難しい顔をして黙り込む。

そもそも七人という少数編成で基地の全方位防衛をするのが無茶なような気もするが、多分それは皆さん分かっていらっしゃるのだろう。


「......私に東側、任せてもらっても?」


意外なことに、白珠が沈黙を破った。


「......黒金は西側に充てたいのだが」


「最初から黒金君に頼るつもりはないです。私一人で守ります」


いつになく真剣な表情で藤堂さんと会話を交わしている。

だが、白珠の実力は最上川さんを除けば一番低い。もし何かあったらひとたまりもないのでは?

流石にそこは分かっているようで、藤堂さんも困っている。


「大丈夫なんだな?」


「大丈夫です」


結局、当日俺は白珠と別行動することになった。


西側に充てられるのは俺、外周が穂村と矢田さん。

北に藤堂さん、南に荒川さん。校舎屋上の狙撃役が最上川さん。

そして、東に白珠。


「さて、次に見習い調達者(プロキュラー)の紹介なんだが......」


藤堂さんが矢田さんに目配せをするも、矢田さんは首を大きく横に振った。

サングラスを掛けているが、どう見ても困った顔をしている。


「......どうやら命令に聞かないカス共ばかりでな。各々紹介してもらえ」


藤堂さんが今日一番の溜息を吐いた。



★★★



「それで、貴方が先輩ですかぁ?」


テニスコートの審判台に乗っかって上機嫌にしている女。

その足元に、俺は立っていた。


会議の後矢田さんに、俺とタッグで西側を守る奴を聞きに行った。

そしたら『テニスコート』とだけ書かれていた紙を渡されたので、とりあえず向かってみた。

結果、この生意気そうな女がいたというわけだ。一応それぞれの持ち場みたいなのがあるんだな...。


「とりま、名前と年齢。それと会議に来なかった理由。全部説明しろ」


「おーこわっ。もしかして、私をビビらせようとしていますぅ~?」


けらけらと女が笑う。

基地には珍しいブロンドの髪をツインテールに纏めており、服装も戦いには向いてないスカートが目立つ。

顔は整ってはいるが、白珠みたいな可愛さと美しさのハイブリッドではなく、あざとさを強く感じる見た目だ。


身体は結構小さめで、高い審判台に座っているからわかりずらいものの、それでも一五〇あるかどうかだろう。

腕や足も細く未発達で、とてもじゃないが戦えるようには見えない。

なのに表情は随分勝気。会議に無断欠席もしてるので見た目通りの素行の悪さも兼ね備えている。


まあ何が言いたいかというと、相手しててクソムカつくという事。


ぴょん、と女が審判台を飛び降りた。

審判台は結構高さがあるものだが、臆せず飛び降りれるのは中々。素質はあるのだろう。


「欠席した以上謝るのは当然だろ。自己紹介も基本だぞ」


「先輩も自己紹介してないじゃないですかぁ」


「新入りの名前すら知らないなんて、お前見た目の割に友達いないんだな」


軽く小馬鹿にしたつもりだったが、想像以上に効いたらしい。

こめかみがぴくぴく動いているのが丸わかりだ。


「あのですね、つい数か月前に入ってきた新人を先輩として認めろって、そりゃ無理があると思いません?」


「別に俺は先輩として認めろって言ってねーよ。最低限の礼儀を持てと言ってんの」


「売り言葉に買い言葉で煽った人間が礼儀を語りますか」


さっきまでの余裕はどこへやら。

すっかり険悪ムードになってしまった。


「んで、名前と年齢。それと無断欠席の理由。全部話してもらおうか」


「いいですよ。ただし、私に勝てたらですけどねぇ!」


スカートの裏からナイフを取り出し、慣れた動きで俺の首元を狙う。



★★★



「す”み”ま”せ”ん”て”し”た”ぁ!!!」


わずか一分後、砂のテニスコートに這いつくばって土下座をする女を、俺は見下ろしていた。


最初のナイフは間一髪で躱し、攻撃の意志ありとして手首を掴んで引き寄せる。

バランスを崩したところに右足の脛を蹴り上げる。ついでに鳩尾を少し強めに一発。

怯んだ隙に手を放し、背中を肘で突いて地面に落とす。

後はお察しの通り、殴るなり蹴るなり自由。ただ見てるだけで効果は十分だったが。


最初の不意打ちこそ危なかったが、それ以外はどう見積もっても俺以下。

実戦経験が無いのが丸わかりだ。


「私の名前は菊池(きくち)(まい)、歳は十六、会議は挨拶とかが面倒で行きませんでしたぁ!」


まぁこいつは挨拶とか上下関係とか苦手だろうな。

なにせ初対面があれだ。やっぱり友達もいないんじゃないかこいつは。


「よろしく。俺は黒金。歳は十八。まぁ知ってるだろうがな」


「藤堂先輩との決闘は知ってます......まさかここまで強いとは」


「俺についてはどうでもいい。ちょっとお前に聞きたいことがあんだよ」


顔上げろ、と促すも、恐らくいろいろな痛みと恐怖で菊池の顔が涙とか鼻水でぐちゃぐちゃだった。

......そんなにエグイことしたっけ?


「......なんでしょう」


「去年の夏祭り防衛戦について教えてほしい。白珠の様子がおかしいんだ」


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ゾンビ物いいですね! 最近甲鉄城のカバネリというアニメを見まして、ゾンビいいなあと思ったこの頃。 自分も描いてみようかなぁ、まあ無理か笑
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