page1 死
こんにちは、不退ノ位です。
元々小説を書いてましたが、今回心機一転という事でアカウントを作り直しました。
稚拙な所も多いと思いますが、どうかよろしくお願いします。
あれ...どこだろうここ...
なんだかやけに体が軽い......。
確か俺、昼飯を買いに外を歩いていたら女の子が横断歩道を渡ってて、前からは居眠り運転のトラックが向かってきてて、
『あぶなーーーい!!!』
そういって女の子を突き飛ばしたあと、
あと、
あと............。
「….........はっ!?」
目が覚めると、知らない場所にいた。
360度どこを見渡しても真っ白な空間。その中に俺は立っていた。
いや、立っているというよりは浮かんでいる感じだ。まるで海の中にいるような...。
だけど呼吸もできる。手足も動かせる。これまでの経験に無い感覚。
「いったいここは...?」
「ほっほっほ、気が付いたようじゃのう」
突然、どこからか謎の声が響いた。
口調は仰々しいのに、声色にはどこか張りがあって若々しい。
そして男というより女の声だ。
「誰だ」
「そんなに偉そうな顔をするな、儂は神じゃぞ」
目の前に、白い椅子に座った少女が現れる。
緑の葉っぱでできた冠をかぶり、ギリシャ神話の登場人物が着てそうな白い布を身に纏い、椅子の上で胡坐をかいている。
真っ白な肌と髪の毛、そして長い睫毛と深紅の眼。
その表情は勝気というより、人を馬鹿にしているような意思がある気がした。
「神か。本当にいるんだな」
別に信心深い訳でも無いので、『へー、いたんだ』くらいの認識にしかならない。
その態度が気に入らないのか、自称神の目がちょっとだけ不機嫌になる。
「うむ。可憐じゃろ? 男と話す時はこの姿のほうがウケがいいからのう」
そう言って自称神は俺の目の前で投げキッスをした。やりなれていないのか、ちょっとおぼつかない。
そして神がこういう事をやっているのが滑稽だと思った。
「神がウケとか気にすんなよ...んで本題は?」
「せっかちな奴じゃのう……。まぁ薄々察してるとは思うが、お主は死んだ」
やっぱり死んでたのか。大型トラックに轢かれりゃそりゃ死ぬだろうな。
今この体には何の傷も残ってないから、ここは死後の世界か何かだろう。天国であってほしい。
そういえば、あの時助けた子は無事に助かったのだろうか。
バイトで鍛えた俊足で割とガッツリ突き飛ばしたけど、それで転んで顔に傷でも負ってたら申し訳ないな……。
「悲しいか?」
ちょっとした考え事で俯いていたら、ニヤニヤしながら神が俺の頭をぽんぽん、と叩いた。
想像以上に小さい手をしてて、この少女が神だとは思い難い。
「んー、田中に2000円返すの忘れてたくらいしか……」
「なんじゃそれは……お主悲しい人間じゃのう」
神の視線が哀れなものを見る目になった。
この少女、神と名乗る割には表情がわかりやすい。
「小学生の頃に両親は死んだし、人を助けて死ねたなら本望だな」
趣味も夢も特に無かったし、友情に熱いわけでも彼女がいたわけでもない。
日銭稼ぎに人生を追いつめられるくらいなら来世に期待するのも悪くないと思ってた。
「そう、その『人を助けた』という行為よ」
急に神がビッ!とこちらを指さしてきた。神が行儀悪いのはダメだろ。
「人というのは中々善良に生きれないものでな。久しぶりじゃぞ、お主のような者に出会えたのは」
たまたまそうやって死ねただけ、というのは面倒だし黙っておこう。
「そこで、お主に再び生を与えてやろうかと思ったのじゃ。要はご褒美じゃな」
「はあ」
「…………反応薄いな。お主本当に人か?」
神が首を傾げる。
椅子の背もたれに掛かっていた白い髪が、パサりと垂れた。
「前に見た漫画と展開が似てるもんでな」
確か異世界転生という奴だっけ。
鈴木が鼻息荒く俺にそういう系の魅力を説いてきた記憶がある。俺はあんまりはまらなかった。
異世界転生とやらを抜きにしても、別に前世の記憶があったからといって何か変わるのか甚だ疑問だ。
頭がいいなら話が違うかもしれないが。
「そういう訳で、お主の素性を一部開示するぞ」
本名は黒金京平。享年18。
身長は175cm、体重66kg。
両親の職業は研究員で、既に他界。
〇✕高校に通っており、部活に所属はしていない。
得意科目は体育、苦手科目は英語。
バイトを週に5回入れており、いずれも土木作業。常に手袋とゴーグルを常備している。
趣味はなし。特技は運動。
「……最初の2行以外要る?」
尺稼ぎか?
「いや、儂が個人的に気になったのでな」
「神が私情挟んでどーすんだよ。それで、俺はどの世界に転生すんの?」
「もう転生するのか? もうちょっと世間話でもどうじゃ?」
「神が世間話なんかに興味持つな。そして俺にはそういう話は無い。イマドキ珍しいノースマホ・ノーメディア人間だったんでね」
両親が死んだというのに、親戚が出してくれたのはほんのちょっとのお金とボロいアパートのみ。
たとえ週5でバイトをしても、スマホみたいな高級品なんて到底買える訳が無い。
「そうか……まぁ頃合いだし、お主を新たな世界に送ってやろう。第2の人生を楽しむと良いぞ」
神が人差し指を俺の額にツン、と当てると、意識が暗転した。
さて、俺はどんな世界に行くのだろうか。
スライムとかゴブリンとかがいる中世ヨーロッパみたいな所か、或いは技術の発展したSF的な世界だろうか。
いずれにせよ、平和かつ豊かに暮らせたらいいな。
★★★
「…………はっ!?」
目の前に映るのは、深い曇り空。どうやら仰向けに寝転がっていたようだ。
微かに吹く風がやけに寒い。
「ここは……?」
ゆっくりと立ち上がると、住宅街が見える。
なるほど、ここは住宅街の中に建てられたビルの屋上という訳だ。大体5階建てくらい?
今の俺も、生前に着てた服がそのまま維持されている。
額にあるゴーグル、作業用の黒手袋、動きやすい運動靴。
これならすぐにでも走り出せそうだ。
だが、ひとつ疑問点。
「……なんで誰もいないんだ?」
せっかく屋上から辺りを見渡してるのに、人っ子ひとり居ない。
道路には雑草が生えまくってるし、建物もサビや軋みが酷い。
分厚い曇り空も相まって不気味だ。
「とりあえず、下に降りてみるか」
下に向かうドアがことごとく錆びて固いので蹴っ飛ばし、破壊して降りる。
ドアもかなり耐久性がよろしくない。
各階もちらっと見て回ったが、当然の如く誰もいない。
ただ、血痕や引っ掻き跡など物騒なものがあるのが不気味だった。
地上に降りてみたものの、屋上と光景は大して変わらない。
「おーーーい!! 誰かいませんかーーーー!!!」
大声で辺りに呼びかけるも、まるで反応はない。
俺の声が虚しくこだまするだけだった。
「ウ”ウ”......ア”ア””......」
背後から唸りのような声。
「人か!?」
怪我人かと思って振り向くと、そこには到底人とは思えない生物がいた。
全身が腐っているのか異臭が強く、肌は黒の混じった緑色。
死後硬直でも始まってるのか歩き方がおぼつかなく、よだれを垂らしている。
くりぬかれた目玉に、異常なほど尖った牙と爪。
この姿、まるで
「ゾンビじゃねーか......!」
いろいろ考えたいことはあるが、先ずはこの状況。
こういうゾンビは噛まれたらゾンビ化するのか? それとも毒で死ぬのか?
触れたらアウトなやつか? 匂い嗅いじゃったらもうアウト?
倒すには? 首を掻っ切る? それとも不死身?
ゾンビがダッ、とこちらに向かって走ってくる。
「こんなところで死んでたまるかっ!」
対処法がわからない以上逃げるしかない。
ゲームのチュートリアルで死ぬなんて御免だ。
踵を返し、ゾンビを背にして走り出す。
運動だけはできたから撒けるかと思ったがこのゾンビ、存外足が速い。
追いつかれることはないが、中々距離が離れることもない。
多分奴にスタミナなんてないだろう。追いつかれるのも時間の問題か。
そう思った時、前方に人が立っているのが見えた。
「女......?」
肌色からゾンビではないとわかる。
「任せて」
すれ違いざま、彼女が小さく声を出す。
銀色のポニーテールがふわりと揺れた。
ゾンビに向かったかと思えば、懐から拳銃を取り出し、すぐさま発砲。
「ウ”オ”オ”オ”!!!」
脳天に銃弾がぶち当たったゾンビは強く呻き、わずかに仰け反る。
その隙を見逃さず、彼女は腰に差していた剣を抜き、ゾンビの首を切り落とした。
正確に、一撃で。
「すげえ......」
緑の混じった汚い血が飛び散る。
少しの間もぞもぞと動いていたゾンビだが、彼女が脳天に剣を刺したら動かなくなった。
ほんのわずかの静寂の後、
「ふう、おつかれっ」
彼女がこちらのほうを向き、微笑んだ。
可愛い、と思ってしまったことは俺は生涯誰にも言わないと思う。