098 中東 (上)
タイソー夫妻の観光旅行は今度は中東である。旅行の計画を立てる時は何もないと予想してわざわざ砂漠を選んであった。中東も相変わらず砂漠だ。
中東に着いたらホテルは並になった。
「あんた、今度のホテルは並よ。壁画を出てからホテルは最高級だったけど、何このホテル。同じお金を払ったんでしょう?」
「いや、あれはその、あの国の好意で」
「他国の、それもただの役人に好意もないでしょう。国王陛下でもあるまいし。このホテルはぼったくりよ」
「そうではないが。上の下だ」
「中の上だわ。上ではなく中よ」
多少の不満はあったようだがその日は無事に過ごせた。
翌日はモスク、博物館などの市内観光である。煌びやかなタイル張りの建物で夫人に満足してもらってほっとしたタイソーである。
タイソーは夕方シャワーを浴びている夫人を置いて街に出た。
あちこちの屋台に寄り食事を仕入れた。パン屋にも寄った。パンは大量に買ってもあまり目立たない。大きな紙袋に詰めるだけ詰めて買った。水も店でペットボトルの水を一箱ずつ、目立たないように何軒も回って仕入れた。
砂漠で何があるかわからない。心配性のタイソーであった。
ホテルに戻るとまたしても夫人の目に疑惑が宿ることになる。
「どこに行っていたの?」
「夕方の観光をして来た」
「置いていかなくても」
「いや、疲れていたようだから」
誤魔化す←→疑惑の悪循環が出来上がっているタイソー夫妻である。
さて次の日からはお楽しみの砂漠ツアーである。
ホテルで昼食をして少し休んで出発である。
「また砂漠?」
「まあ、砂漠は何も出ないと思っていたが。今度は多分何事もなく終わるかもしれない」
「何が出るっていうの。だいたいこの間の壁画の時だって夜中どこに行っていたの?」
「ああ、お、迎えが来た。さあ行こう」
外に4WDが着いた。タイミングよく誤魔化せたとタイソー。
「これに乗るの?」
「砂漠だからな。普通の車では難しい」
4WDで少し走ったらもう砂漠である。最初は平坦だったがすぐ砂丘続きになる。車は天を向いて走ったら、真っ逆さまに下に向かって走る。その繰り返しである。
タイソー夫人はキャーキャー言っているが楽しそうである。良かった良かったと胸を撫で下ろすタイソー。
数時間走ってキャンプ地に到着。
体験ラクダ乗り、夕日を見て、キャンプファイヤー。
ベリーダンスなどを見て、バーベキュー。
すこし夜の砂漠を散歩してテントで就寝。
タイソーは何事もなく一日が終わってほっとした。
朝は少し大きなテントの下で他のツアー客と一緒に朝食。
ガイドが説明する。
「では今日はお楽しみのラクダに乗って砂漠観光です。一日ですが、途中から4WDになります。また休憩ポイントがありますので安心してください。30分後に出発となりますがトイレを済ませてください」
「楽しそうね」
「そうだね」
楽しんでくれなければこの旅行の意味がないとタイソーは思う。
ラクダは、今回はツアー客が少なかったからか一頭につき一人であった。
一人づつラクダに乗って出発である。
タイソーはターバンを巻いた。夫人は飛ばされないように紐のついた帽子である。
「アラビアのロレンスみたいね」
少し旦那を見直したタイソー夫人である。
手袋をして鞍だか乗用装置だかわからないが毛布の被ったものの上に乗って前のバーを握って、係がツアー客が乗れたのを確認して、ラクダが立ち上がった。
前後に振られるがラクダから落ちずに済んだ。10頭ほどのラクダがロープで数珠繋ぎとなり歩き始める
ゆったりと歩く。砂丘を超えると前後左右砂だらけ、何もない。
古代の城塞都市を目指して出発である。一時間ほどして泥で作られた廃墟の街に到着した。
「一時間、見学となります。集合時間は守ってください。集まらなくても出発します。取り残されると乾燥してミイラになれます」
ガイドが笑いながら脅す。
しばらく廃墟を歩いたタイソー夫人。
「あなた、何もないわね」
「廃墟だからな。昔ここで生活している人がいたと思ってみるといいのじゃないか」
「さっき音がしたわ。何かいるのよ」
「他のツアーの観光客だろう」
「他のラクダはいなかった」
「戻ろう。戻れば集合時間だろう」
悪い予感がするタイソーである。今日もIGYOではたまったものではない。
集合場所に集まった。
「皆さん、集まってくれたようです。ミイラが出来ずにすみました。次はオアシスを目指します。ラクダでは遠いし、お疲れでしょうからここからは4WDで行きます。楽ですよ」
4WDが到着し、観光客が降りて来た。オアシスから来たのだろう。我々より人数が多いがラクダに二人乗りすれば十分だ。
交代で4WDに乗り込む。5台あったので余裕で乗れた。
4WDはこの廃墟の都市とオアシスを往復、ラクダは朝出た街とこの廃墟を往復。ここで乗り換えらしい。




