097 砂漠の国のIGYO (4)
「さて、今回はタダ働きだから、あとの片付けなどはエドが手配しておいてね」
宗形マネージャーはよほどタダ働きが気に入らないらしい。
龍愛はバトルポニーに乗って消えた。ポニーがバトルポニーに進化したのでジェナの熱帯号と雪原号と走り回りたいのだろう。
宗形たちも消えた。
祓川は観察ちゃんに頼んで異形2体と一緒に転移して行った。もちろん荒木田と榊原は連れて行った。自衛隊の異形倉庫行きだろう。
残ったのはエドのみである。
携帯でまずはホテルの支配人に連絡した。
「全て終わったが宿泊客が動揺するから事実は伏せた方がいいだろう。自分は後始末をしていく」
ついで監視所長に代わってもらって、
「壁画からほど近いところだ。IGYO 20体討伐済み。マニュアル通りに関係部署に連絡してくれ。レンジャー、観光客は見当たらない。食べられたと思われる。そちらも手配してくれ。俺は現地に残る」
と連絡して電話を切って、ため息である。
エドはバングルの収納から、シン様にもらったテントを出した。
ホテルは食事を出したろうか。俺はまだここに残らなければならない。ホテルの食事は食べられないな。
それに帰らないからまた女房に疑われる。おれは人知れず働いているのに。
そう思いながら、マリア様からもらった食事をバングルから出して食べた。美味しい。こちらでいえば五つ星レストランのその上だろう。ホテルの食事より美味しい。食事はだいぶもらった。しかしこの食事は異世界のものだ。女房殿は食べられない。
何かあったとき困るから、こちらの食事も収納しておかなければならない。竹水筒の水ももらったが、飲んで何かあると困るから、こちらの水も入れておくようだ。帰ったら紅茶も大量に淹れて収納しておこうと思った。
うとうとしていると外から呼びかけられた。
まずは地元警察の到着である。
事情は聞かれたが目の前に大量のIGYOの死体がある。見たこともないのだろう。オロオロしている。
「まずは、レンジャーと観光客の遺体の一部が落ちていないか壁画からこちらまで確認したらどうか。監視所長から政府に連絡するように伝えてある。これはIGYOというが、監視所にはIGYO対策のマニュアルがあるようだから担当部署に連絡が取れるだろう。しばらくすれば政府から役人がくる。亡くなったと思われる人のこともその役人と相談したほうがいい。自分は英国政府のものだ。観光中であるが」
そう伝えた。
「そうします」
ついでに、
「IGYOはもういないと思うが暗いから暗闇に潜んでいるかもしれない。気をつけて行った方がいい」
親切に教えてやると警官たちはへっぴり腰でなかば後ろの方を向きながら懐中電灯をしっかり握って固まって壁画の方に行った。
やがてヘリが二機飛んできた。
一機目からは将校らしい人と文官らしい人が降りて来て名刺を交換した。
二機目からは兵が降りて来た。
軍人に敬礼された。かなり偉い人らしく各国のIGYOについて情報を得ているらしかった。
文官が恐る恐る聞いて来た。
「あのう、だいぶ数がいるようですが、料金の方は割引いていただけますでしょうか」
「今回はたまたまリューア神様を信仰し、現世の社殿の世話をしている日本人たちがツアーで監視所の隣のホテルに宿泊していた。その人たちに危害が及びそうだから、私が討伐の手配をし、リューア神様と眷属が来て討伐した。だから無料だ」
「よろしいんでしょうか」
「だいぶマネージャーにぶつぶつ言われたが払わなくて良い」
「ありがとうございます」
「二匹は研究のため眷属が持ち帰った。では私は観光旅行中なのでホテルに戻る。ああそうそう、尾の先の毒針は猛毒だ。多分毒液が皮膚についただけでも死ぬだろう」
「わかりました。防護服を用意します。ホテルまで送っていきましょう」
将校が送ってくれるというので、テントを張ったまま収納して、兵士を降ろしたヘリに乗った。
ヘリはすぐホテル近くの上空に差しかかった。
「ここでいいよ」
エドは飛び降りた。
パイロットは地上にスタッと着地してホテルに向かって歩き始めた客人にびっくりした。
ヘリはすぐ取って返し、上官に報告した。
「テントも消えた。リューア神様の眷属なのだろう。防護服を手配した。届くまで兵も立ち入り禁止だ」
文官の方を向いて続ける。
「監視所隣の宿に泊まっているリューア神様関係の日本人ツアー客と今の方に手落ちがないようにな。その方達のおかげで20億円支払うべきところ無料になったのだ。わが国出国まで丁寧に対応したほうがいい」
文官は早速電話して手配した。
山城稲荷神社氏子ツアー客とタイソー一家は出国するまで最高級のもてなしを受けた。
20億円に比べれば、ホテルを最高級にし、飛行機をファーストクラスにしても安いものだ。一億円にもならない。
なお、タイソー夫人が、夜どこかに行ってなかなか戻ってこなかった夫の行動に疑惑の目を向けているのは言うまでもない。




