091 龍愛の眷属 中心国へ異形討伐に向かう
成田では、急に中心国の国営航空の一便が欠航になった。機体不具合とのことである。
日本に駐在する党のさる機関から連絡を受けたクルーに緊張が走る。失敗すれば粛清される。入念に機体のチェック、機内の清掃を行った。
機内食はファーストクラスのものを人数分×2食分揃えた。
お犬様の食事はどうするのか。悩んで人間用の食事を用意。念の為、街に行きペットショップに置いてある最高級ドックフードも買って来て用意した。
中心国大使館からは大使以下10名が成田に急ぐ。
出国に不手際があってはならない。焦って外交官用の車を飛ばす。いつの間にか前後に白バイがついて緊急車両の制限速度も無視して誘導する。
大使が白バイを見るとナンバーに異と書いてある。
大使がつぶやく。
「この国ではあれを異形と言ったな。その関係か」
「そのようです」
「漢字はわかりやすくていいな」
「はい。半島の国はほぼ廃止してしまいましたが」
「わが国の文化を捨て去るとは馬鹿な奴らだ。我が国と対等と思っているのだろう」
黒龍と黄龍に連れられてルーシーが山城稲荷神社にやって来た。
「久しぶりです」
「今日は楽しいわね」
「はい。伝家の宝刀も喜んでいます」
バングルから伝家の宝刀を出す。
バングルは龍愛が色々作れるようになったとき、最初に作った。もちろん龍愛と共に生きんと裏に刻印してある。材質はオリハルコン、ヒヒイロカネ、金、銀、チタン等の合金である。収納の容量は最初は小さかったが、龍愛の成長と共に増えて今は無限に近づいている。
女性官僚が宗形に聞く。
「どこから出したんでしょうか」
「バングルよ。バングルは龍愛の眷属の印」
眷属にしては龍愛と呼び捨てで神様の扱いが軽い、宗形さんの方が偉そうだと思う女性官僚であった。
「では行きましょうか」
二階から婆さんが降りて来た。
「榊原勝さんです」
「よろしくな。ルーシーも久しぶりだな」
「はい。今日はよろしくお願いします」
みんなで家を出る。施錠もしない。
「鍵はかけないんですか」
「はい、聖域になってから鍵は必要なくなりました」
社殿に一礼した。
「ここは龍愛様が祀ってあるのでしょうか」
「龍愛と、シン様、アカ様、ドラちゃん様、ドラニちゃん様が祀ってある」
「シン様、アカ様、ドラちゃん様、ドラニちゃん様とは」
「龍愛の名付け親がシン様。その正妻がアカ様、二柱の眷属がドラちゃん様、ドラニちゃん様だ。龍愛を教育していただいた他の星の神様と眷属だ」
「この像だ」
小さい像を取り出した。神様と眷属の像だ。思わず拝んでしまったアニメ脳の女性官僚である。
「いるかい」
「はい。できれば」
「これは龍愛が信徒用に作った。あんたも信徒になったようだからやろう」
「ありがとうございます」
「この袋に入れて首から下げておくといい。あんたを守ってくれるだろう。袋は小さな容量だが収納になっている。5メートル立方だ。使用者権限付きだ。時間停止なので食事と水を入れておくといい。牢に入れられても食事に困ることはない。神像も袋もだれもあなたから取ることはできない。使うところは見られない方がいいだろうが」
「ところで名前は」
「劉紅花と申します」
「そうか。劉さん、行こう」
鳥居をくぐって階段を降りると灰色車両が待っていた。武蔵西南警察署に常駐しているのである。
周りに人がいる。宗形が紹介してくれる。
「信徒の劉紅花さん。こちらが、荒木田江梨子さん、円さん、舞さん、大井明日香さん、後は成田で落ち合う予定」
「よろしくお願いします」
挨拶を交わして灰色車両に乗り込む。少し走って高速に乗った。すっ飛ばす。車両は特注品でスピードが出る。首都高に入る。もう一台灰色車両が合流して来た。白バイが先導を始めた。もちろんナンバーは異である。飛ばす。40分ほどで成田に着いた。
中心国国営航空のスタッフと大使以下10名が待っていた。それらの人に守られて出国ゲートは手続きなしで通過。もちろん中心国から政府に依頼があり、政府からノーチェックでゲートを通過させろと指示があった。
眷属一同は駐機中の国営航空に乗り込んだ。大使以下が深々とお辞儀をして、ドアが閉められ、すぐ飛行機は動き出した。
最優先で離陸。
キャビンアテンダントが4時間半で基地に着きますと教えてくれた。
宗形が紹介する。
「信徒の劉紅花さん。こちらが、荒木田剛、榊原強、祓川崇、塩井阿闍梨、姫乃愛子、常陸若子、高倉武子さんです。秡川さんが異形等対策室の室長です。今紹介した人のうち塩井阿闍梨を除いて対策室のメンバーです」
宗形が劉紅花に頼んだ。
「基地から異形までヘリで運んでもらいたい。危ないから高空を通過するだけでいい。我々は飛び降りる」
「わかりました。パラシュートを用意しておきます」
「不要だ」
「え。どうするんですか」
「だから飛び降りる」
「いいんでしょうか」
「大丈夫だ。ヘリが上がれる高度など高が知れている。劉さんは見届けるならパラシュートで降りたら。訓練しているでしょう」
ばれていた。大使も知らない身分である。
「はい。パラシュートで降ります」
「安全を見て少し離れたところに降りるといいですよ。異形は500メートルですから離れてもよく見えます」
「わかりました。よろしくお願いします」
キャビンアテンダントがアタッシェケースを持って来た。劉が受け取り開けた。
中には、拳銃と小銃が収められていた。
さすが国営航空である。乗員もそれなりの所属なのだろう。
劉が上着を脱ぎショルダーホルスターを装着、拳銃を収めた。再度上着を着る。小銃は収納袋に収納した。
姫乃が興味津々だ。
「いいわね。その拳銃」
「はい。制式銃です」
「私はこれよ。神式SFP9 M」
「神式とは」
「形は同じだけど、ものが違うのよ。銃弾も補充なしで撃ち放題」
「それは素晴らしい」
常陸が負けじと神式20式5.56mm小銃を取り出した。
「神式20式5.56mm小銃よ。そちらは191型5.8mm自動歩槍QBZ-191ね。それと92式手槍QSZ-92-5.8」
「詳しいですね。神式とはやはり」
「そう。形は同じだけど、銃弾は撃ち放題。銃身も焼けることはない」
「すばらしい。うらやましい」
「でも異形には牽制に使うだけで、メインはこれよ」
棒を出す。
「棒でしょうか」
「そう。危ないから飛行機の中では振らないけど、異形が切れる。姫乃は薙刀。でも銃も神式だから、銃弾でも奴らの体を貫通することはできる。うまくすれば殺すこともできるけど面倒でね。スパッと切ってしまった方が早い」
「そういうものですか」
「そういうものです」
アニメオタクは皆殺し愛子と銃オタと気が合うようだ。
キャビンアテンダントが秡川に聞いた。
「食事はいかがなさいますか」
「もらおう」
「お犬様は?」
「人間と同じよ」
宗形が答えた。
用意しておいて良かったとキャビンアテンダント。
ふとキャビンアテンダントは気づいた。全く自然だったので気が付かなかったがみんな我が国の言葉を話している。どうなっているのだろうと思った。




