088 中心国に異形現る
ここは自分の国が世界の中心であると思っている中心国。
国の南西の山の中。一つの村が壊滅した。生き残った男が必死になって近くの村に助けを求めた。
親戚の家に転げ込んだ。
「大変だ。でっかいクマのような生き物がオラの村を襲って、みんな食われてしまった」
親戚は隣近所に声をかけて、男と猟銃をもって村を出た。
村に近づくと村は破壊されていた。
「これはひどい。全滅だ。急いで帰るぞ。党と軍に連絡だ」
戻ろうと後ろを振り向くとそいつはいた。
後ろ足で立ち上がった。二階建ての家は優に超える。
「撃て、撃て」
猟銃が一斉に火を吹く。
そいつは怒ったようだ。前足を振る。何人も殴り飛ばされた。
殴り飛ばした男達の元へ行って食事の時間になったらしい。むしゃむしゃと咀嚼音が聞こえる。
生き残った男達は食事の間は追ってこないだろうと必死になって逃げた。
村に逃げ戻ってすぐ党と軍に連絡した。
「でかいクマみたいな生き物だと。周辺の村々に言って猟師を集めて仕留めろ」
連絡した村人は、党からも軍からもクマ如きで連絡してくるなと怒られた。
「ダメだ。党も軍も相手にしてくれない。このままではここも食われてしまう。逃げるぞ」
オート三輪に山のように荷物と人間を積んで逃げ出した。
隣村はまだ地縁血縁の範囲で、最初は信じてもらえなかったが、最後には一緒になって逃げ出した。
次の村はもう最初の村とは離れている。信じてはもらえなかった。村を放棄したと党に拘束され、さらに辺鄙な村へ集団護送されてしまった。
放棄された村に夜陰に乗じて火事場泥棒が忍んでいくのは当然である。
「なんだよ。全部持っていってしまったのか」
仲間と来た泥棒ががっかりする。金目のものや食料は何も残っていなかった。
「次行くぞ」
仲間に言うと返事がない。
後ろを見ると仲間が食われていた。食っているのは見たこともない大型の四つ足だ。
足が竦んだ。仲間を食べ終えた四つ足が近づいてくる。食べられてしまった。
四つ足は腹が減っている。山の中の動物は食べた。抵抗のない二足歩行の奴らは居なくなった。腹を空かせて移動を始めた。
いくつか二足歩行の巣を見つけたが空であった。さらに移動をする。
巣があった。今度は二足歩行がいた。走り寄って側から食べ始める。二足歩行は何か長いものを持ち出して先が光ったと思ったら何か飛んでくる。鬱陶しい。
殴りつけて食べてしまった。最初の巣より二足歩行が多い。逃げないように殴りつけて集めておく。しばらく食べられるであろう。
村人は仰天して、上部の党に連絡した。
返事は「人海戦術で驚異に対応して、英雄となれ」
党に逆らうと過酷な現場に飛ばされる。使い潰されてしまう。うまくいけば英雄として宣伝される。しかし、大抵は死ぬ。
村人は地方の軍と協力して、出発した。四つ足とは反対方向だ。次の街を目指す。
街の党は驚いた。村人と軍が街に向かって進軍してくる。すぐ街の防衛線を築いた。
「止まれ。お前達は反乱をするつもりか」
「馬鹿野郎。後ろから猟銃も効かない、軍の機関銃も効かない四つ足怪物が来る。俺たちに銃口を向けるより、上部機関に通報して四つ足怪物を討ち取れ」
「反乱分子が何を言うか。武器を置いて手を上げろ」
「食われるよりマシだ。突撃するぞ」
村人は猟銃を兵は機関銃を撃ちながら街へ向かって来た。
「撃て、撃て。反乱分子だ」
党幹部が命じる。
軍は躊躇した。反乱分子と言っても知り合いはいる。
躊躇していても弾丸は飛んでくる。
「撃て」
上官が命令した。銃撃戦が始まった。
双方ともに死者が続出である。どちらからともなく発砲が止んだ。弾切れである。
火薬の煙が風に流れる。反乱分子の後ろから四つ足がやって来た。倒れた反乱分子を食べ始める。
初めて反乱分子の言っていることが本当だと知った党と軍。党幹部は自分の正当性を確保するために命じた。
「反乱分子を撃て」
軍幹部は拳銃で撃った。いま命じた党幹部が撃ち抜かれた。
「こっちへ急げ」
反乱分子に呼びかける。反乱分子は急いで防衛線まで辿り着いた。
「撤退だ」
軍が残った党幹部を拳銃で撃って、四つ足の方に投げ出す。
「奴が食ってる間に逃げるぞ。軍の基地まで走れ」
固唾を飲んで見ていた街の住民も基地まで避難する。
軍はすぐ住民を次の街まで逃した。
軍は上官次第で士気が左右される。党幹部を殺害してまでも村人を守った上官の意気に感じて玉砕の覚悟で住民を逃した方面を守るように布陣した。
指揮官はすぐ軍の上部に連絡した。連絡を受けた基地は半信半疑であったが偵察のヘリを飛ばした。
ヘリは現場の上空に到着。
基地に連絡した。
「四つ足の家より大きい怪物が人を食っている。近づいてみる」
「奴はこちらを見た。機関銃を撃つ」
「ダメだ。効かない。全く通じない」
「奴が岩を持ち上げた。退避」
岩がヘリを粉砕した。通信は途絶えた。
基地司令は、異常事態だと確信して省都の軍に報告。省都の軍幹部は一応中央に報告しておいた。
何も言ってこないだろうと思ったら案に相違して、核ミサイルを打ち込むから四つ足生物がいる地点を中心にして半径10キロ円内の住民を24時間以内に退避させよと最高指導者から命令が来た。
最高指導者は北の大国の失態の情報を得ていた。
ただし北の大国は首都の大統領執務室まで集金人が押し入って来て一兆五千億円支払ったことは必死に隠した。傭兵に報酬を支払ったと受け取れるような情報を流した。
実は神に討伐を頼み、神の使いでドラゴンがやって来て討伐したとの噂話も流れて来た。
最高指導者は神など馬鹿らしい。党が絶対的存在だ。神というなら党だ。そのトップは自分だ。神は自分だ。
龍は昔から皇帝の権力の象徴だ。今は最高指導者である自分の権力の象徴だ。自分に付き従うものだ。そう思った。




