085 TJC長官ニコライ 山城稲荷神社に行く
TJC長官室
英国と壱番国から報告書が届いた。
薄い壱番国からの報告書を読む。
何を言いたいのかわからない。
壱番国からの報告書
日本の武蔵西南市にある山城稲荷神社が異教徒の魔の巣窟、シン、アカ、リューア邪教の本山らしい。辿り着けない。そこには宗形という医師が巣食っている。何十人も筒腐らしという罰を受けた。武蔵西南市は丸ごと邪教徒の市だ。
こいつは東方凍土行きだと思った長官。
気を取り直して英国からの報告書を読む。
英国からの報告書
スコットランドのハント伯爵一族に18歳になると死ぬ呪いがあってそれをシン、アカ、リューアという神が浄化した。妖精もいた。のちにその神と眷属がIGYOを討伐した。
以上は英国と壱番国が意図的にこちらにリークした情報とアジトを尋ねてきたMI6が言っている。
さらにMI6によれば、
「討伐方法は、神を信じないものに話してもしょうがない。今の話を元に至急自分で調べられよ。そして貴国のIGYO担当の責任者が神を信じたなら全て教えて差し上げよう」
ということであった。
TJC長官
なんだこれは、神社、呪い、神、妖精、筒腐らし、英国と壱番国による共同リーク、極め付きはアジトへのMI6の訪問だ。愚弄するのか。英国のTJCも東方凍土行きだと憤慨するのであった。
党本部からTJC長官に電話があった。
「どうなった。討伐兵器の情報は入手できたか。被害が拡大している。このままだと大都市に核ミサイルを撃ち込むようになる。今、中小都市くらいなら核ミサイルを撃ち込むかと検討されている。大統領の、そしてお前の故郷ももうすぐだ。だんだん人口が増えてきたので怪物が食べ尽くすのに時間がかかっていて進撃のスピードは落ちているが。あと10日余裕を与える。それを超えたら大統領の同郷だからと言っても粛清だ」
電話は一方的に切れた。
やむを得ない。行ってみるか。
「日本の、武蔵西南市といったな。すぐ出る。手配してくれ。なるべく早くだ」
秘書が急いで手配に行った。
軍とは命令系統が違うから民間航空機で成田に向かった。夕方出発、成田に朝着いた。
駐在TJCの案内で武蔵西南市へ。昼頃着。
昼食もそこそこに山城稲荷神社の階段下に到着。ここが本山か。もし何も進展がなかったら俺は亡命しよう。そう思って階段を見上げた。
上から2匹の子犬がもつれあってコロコロと階段を転がり落ちて来た。遊んでいるらしい。子供の時に飼っていた犬を思い出した。階段下で2匹を受け止めた。
「よしよし、怪我はないか」
抱き上げて2匹を撫でてやった。俺も10日もしないうちに粛清されるか。そう思うと無性に子供時代が思い出される。
「怪我はないようだよ。ご主人のところにお帰り」
2匹の子犬を下ろしてやると尻尾を振りながら階段を登っていった。10段くらい登ったらこちらを振り向き、ワンと鳴いた。
「ついて来いと言っているみたいだな。登ってみるか」
階段を登る。子犬は時々振り返ってついてくるか確認しているようにして登っていく。
階段を上り切った。木の柱が2本立っていてその間を二本の木が繋いでいる。真ん中に額がかかっている。奥に建物が立っている。なんとなく宗教施設を思わせる。
子供の頃教会に行ったな。それから大人になって、党が神様のようになってしまって教会に行くことは無くなった。
敬虔な気持ちは思い出の中に閉じ込めてしまった。閉じ込められていたものがゆっくりと意識の中に戻ってくる。一礼した。
子犬が満足そうに正面の建物の前に走っていく。こちらを向いてワンと鳴いた。
来いというのだろうと思って建物の正面に行く。ここでも一礼した。
頭を持ち上げると中に黄金の像が安置されていた。大人が二人、子供が一人、やや大きい子供とそれより少し小さい子供、5人の像だ。なんとなく子供の頃通った教会のイコンを思い出した。一礼をした。
後ろからバイクの音がする。振り返るとバイクが階段を登って来た。2本柱の前で止まったと思ったら、バイクが消えた。残ったのは下が赤、上が白の装束を着た女性だ。
コロコロ子犬が走っていきじゃれついている。何か話しているようにも見える。女性はひとしきり子犬を構ってからこちらを見た。
「Здравствуйтеと言ったほうがいいかしら」
「Helloで結構です」
「そう。どちらでもいいけど。黒龍と黄龍が案内して来たのならいいか。こちらへどうぞ」
隣の住居というか、今は龍愛教本部に宗形が案内する。
「靴は脱いてね。日本家屋は靴は脱いで上がる」
「はい」
「こちらにどうぞ。と言いたいところだけど、座れないか」
「隣に洋間ができていました」
稲本夫人が案内する。テーブルと椅子の部屋だ。
「どうぞ、座ってください」
「私は、ニコライ ニコラエヴィチ ロトチェンコと申します」
「厄介な名前ね。TJCの長官ね」
「はい。そうです」
「それで何か用?」
「できれば我が国で暴れているIGYOを討伐していただきたい」
「私たちは龍愛の信者がいないところには出かけないことにしている。あなたたちもあなたたちの神に頼んだら。あなたたちにとっては党なのかしらね」
「我が国に流布している宗教では対応できません。党も対応できません」
「核ミサイルを撃ったみたいね」
「はい。2発撃ちましたが当たりませんでした」
「当たらなくて良かったんじゃない。荒れ狂ったら困るでしょう」
「あれは核でも駄目でしょうか」
「駄目ね。この星のどの兵器も通用しない。核爆発のエネルギーを変換して取り入れて巨大化して大暴れよ」
「それはどこからの情報でしょうか」
「シン様よ。あなたの国が2発核ミサイルを撃ち込んだから、龍愛にシン様に教えてもらいに行かせたのよ」
「シン様というのは?」
「龍愛の実質上の親よ。名付け親だからね」
「リューア様というと、神様でしょうか」
「そうよ。駄女神でね。人に仕事を押し付けてしょっちゅう遊びに行っているのよ。ドラちゃんとドラニちゃんに叩き込まれて、一通りのことはできるようになったのだけどね」
長官は、リューアは神の一柱だ。それにしてはずいぶん扱いが雑だと思った。
「是非リューア様にお取り継ぎ願いたい」
「黒龍と黄龍が連れて来たのだから悪い人ではないでしょうけどね、信者がいないわ」
「黒龍と黄龍とは子犬のことでしょうか」
「そう。龍愛に親神様がつけてくれた子犬。龍愛の見張り。番犬」
「それにしては子犬ですが」
「強いから気をつけたら。何しろ神を見張っているんだから」
「シン様は神に名をつけたのでしょうか」
「そう。苗字もシン様の苗字を与えた。ほとんど子供ね」
「アカ様というのは」
「アカ様はシン様の正妻、賢妻。二人には逆らわないほうがいいわ。あなたの国など簡単に滅びの草原よ」
「核が」
「核ごと滅ぼされるでしょう」
黒龍と黄龍が北西の方に向かって吠えた。
すぐ龍愛がやって来た。怒っている。
「どうするのよ。核ミサイルがやつに当たってしまった。でかくなって暴れてる。あたしの星が、あたしの星が荒らされる」
龍愛がニコライに気がついた。
「お前のせいだ」
子供の龍愛の怒気を浴びた長官。即死した。
龍愛が電撃らしいものを長官に浴びせる。息をふき返した。
駄女神だがさすが神だと宗形と稲本夫人。
「すぐ核ミサイルの攻撃をやめさせろ。3体も巨大化した」
「は、はい」
「あ、また当たった。くそ、200メートルになった」
「ニコライだ。核ミサイルを撃つのはやめろ。エネルギーを吸収してどんどん大きくなるぞ」
「大統領命令だ。それに今潰さなければもっと大きくなる」
電話は切られた。
ぷっつんした龍愛。空中に何やら作った。メガホンのようだ。学校で覚えたらしい。
「龍愛だ。止めろ。馬鹿者。あたしの星が荒らされる」




