084 北の大国 IGYO討伐兵器を手に入れようとする
北の大国の中央では基地の兵、避難住民とも全滅との報告を受け、また凍土平原も次々と基地からの連絡がとだえ、初めて深刻な事態になっていると認識した。
軍の会議である。
「通常火器全てが効果なし、このままではより人口密度が高い地域に侵攻してくる。今のうちに食い止めないと大変なことになる。この頃論文に出てくるIGYOと思われる。IGYOは満腹して中央高原近くの基地にいると思われるが、小型核を使いたい」
「党はなんと言っている?」
「国内だからいいだろうということだ。最悪核実験にすればよかろうと返事があった」
「よし。目標の基地を取り囲むように兵を配置、配置完了後、すぐ核ミサイルを発射しろ」
目標の基地を取り囲むように兵の配置完了後、やや離れた基地から小型核を搭載したミサイルが発射された。監視衛星、偵察機、基地を取り囲んだ兵からミサイルは目標に命中、爆発した映像が届く。
「やったろう」
ところが基地を取り囲んだ兵の後方の街が襲われた。すでに基地に怪物はいなかったのである。核兵器が効果あるのかないのかはわからなかった。
「もう一度ミサイルを発射するか」
「いや、いくらなんでも今度は人口が多い。だんだん人口が増えてくる。もう使えないだろう。凍土平原は可能だから、そちらで核を使って効果あるか検証だ」
凍土方面司令官に、小型核の使用を許可。すぐさまミサイルを発射。
ところが着弾点にはすでに怪物はいなかったと見えて、他の集落に被害が出た。怪物の居場所が正確に掴めない。
確実に居場所を掴んでミサイルを撃てと命令が出された。
その頃党本部に、対外情報庁(日本語訳 日本語訳によるアクロニムはTJC)の長官がやって来た。
IGYOのことだというのですぐ党幹部はTJC長官に会った。
「英国と壱番国の上層部にIGYOを討伐したと噂が出回っていると我が有能なTJC駐在員から報告があった。軍がダメなら英国と壱番国から討伐方法を黙って教えてもらうより他はない」
要は盗むということだ。
「我が国より劣っている英国と壱番国がなぜ討伐できた。おかしい」
「それが日本の力を借りたらしい。英国は英国人も討伐に参加したらしい」
「英国と壱番国より劣っている、商売しかできない日本がなぜ討伐できる。核もない、国民にも覚悟がないだろう。海がなければ明日にでも占領できる。しかし、討伐できたという話は初めて聞く。どんな新兵器か。できたら設計図を手に入れろ。急ぎ詳しい情報を仕入れろ」
「了解」
TJCはすぐさま英国と壱番国の駐在員にどんな手段を使ってもいいからIGYO討伐の詳細を手に入れろと最重要特急極秘指令を出した。
TJCが目をつけたのは、英国駐在CIA。そうdeep throat氏である。一夜で陥落した。得た情報は、スコットランドのハント伯爵一族に18歳になると死ぬ呪いがあってそれをシン、アカ、リューアという神が浄化した。妖精もいた。自分はそこまで調べたが、のちにその神と眷属がIGYOを討伐したと聞いたというものだった。
TJCは英国と壱番国が設計し、製造に日本も加わって新型兵器を開発したのではないかと疑っていたが、クラッシックな方法であった。それもだいぶクラッシック、革命以前のというか、それよりだいぶ前の物語である。悩むTJC。
アジトのドアがノックされた。外にはハットにスーツ、ステッキを持った英国紳士が立っている。
顔は知っている。MI6の表の顔の大物である。わからないように設置された監視カメラに向かって帽子に手をやり会釈した。
全てわかっている。周りは囲んだ。しかし危害は加えないという合図と思った。ドアを開けた。
「どうぞ」
「お邪魔する」
「我が国産の紅茶はいかがか?」
「話が終わってからいただこう」
「話とは?」
「貴殿の手のものが一晩かけて仕入れた情報のことだ」
とぼけてもしょうがない。全て仕組まれていたことかと悟ったTJC氏。
「なかなか理解できないお話でした」
「そうだろうなあ。貴国の体制では特にそうかもしれん。我が国がとった討伐方法は壱番国でも受け入れられないだろうと壱番国に自分で調べるようにヒントを差し上げた。それで壱番国は昨夜のdeep throat氏に調べさせた。詳細は今は省くが彼が調べた情報のみ我が国と壱番国は貴国に意図的にリークした」
流石に古い国は懐が深い、この場合壱番国は手下なのだろうと感心するTJC氏。
「話は前に戻るが、壱番国はもう一人、自称ハリウッドB級映画監督に日本を調べさせた。キーは武蔵西南市にある山城稲荷神社の宗形氏とわかった」
ずいぶん親切である。調べようとしたことを話してくれる。罠か。
「そこまで調べて壱番国IGYO担当部署上下は神の奇蹟について納得し、信じた。そして我が国に詳細を聞いて来た」
なんだか天地がひっくり返りそうな話である。罠はこの世のことわりの範囲内でしか仕掛けられない。奇想天外の罠でもこの世のことわりの範囲内だ。これは人の世のことわり外のことだ。罠ではなかろうとTJC氏。
「詳細は教えていただけるのでしょうか?」
「神を信じないものに話してもしょうがない。今の話を元に至急自分で調べられよ。そして貴国のIGYO担当の責任者が神を信じたなら全て教えて差し上げよう」
いやはやこの世のことわり外の大変な罠だった。党にとっては受け入れ難いだろう。
「それはしかし」
「貴殿の立場、責任者としての立場はよくわかる。私も英国国教会の信者であったが、今はシン様、アカ様、リューア様の3柱の神を信仰している。リューア様がこの星の神様だ。シン様とアカ様はリューア様を助けに来てくれた神様だ。顕現した神の前には存在しているかどうかわからない神は無力だ。幸い、3柱の神様は細かいことを言わない。だから表立っては英国国教会の信者だ。しかし心は3柱の神の信者だ。日本には隠れキリシタンという人がいたというが、我々は隠れリューア教の信者だ。これを見てくれ」
英国紳士が一枚の写真を大事そうに取り出した。
「これは?」
「我らが信仰する3神、シン様、アカ様、リューア様。それにシン様の眷属、ドラちゃん様とドラニちゃん様の像だ」
「なるほど」
「リューア神様がこの星の神様だ。この像の本物があるのが山城稲荷神社だ。いまこの像を我々にも授与していただけないか交渉している。そうそう、個人的に初穂料を送ったら、黒いお犬様がこれを持ってきてくれた」
またまた英国紳士が布の小さな袋を恭しく取り出した。
「これはリューア神様の加護がついたお守りだ。ありがたい」
これはなかなか奇怪な話になって来たとTJC氏。
「お茶をいただこうか」
TJC氏が合図する。もちろんただのお茶である。薬物は入っていない。
「今はポットで淹れることが多くなってしまった。サモワールで淹れた紅茶にジャムを添えみんなで飲む、懐かしい習慣になりつつある。世の中は変わる」
「いただこう。甘い香り、ふくよかだ。フルーティーでもある」
「我が国産だ」
「そうか。珍しいものを頂いた」
「どうして教えてくれた」
「ふむ。信者が布教に来たと思ってくれ。それなら国家間の思惑はないだろう。どれ行くか」
ステッキと帽子を手に取り英国紳士は去っていった。
「アジトを変えますか」
「いや、少なくともこの一件が終わるまでは今のままでいいだろう。今の話はどう思う」
「判断が難しいですが、嘘はなかったように思います」
「そうだな。だから困るがな。さてどうするか。我らの長官がどう考えるかだな」
報告書は聞いたまま書いて本国に送った。
壱番国駐在のTJC
本国からのIGYO討伐の詳細を手に入れろと最重要特急極秘指令を受けた。
今は、役所のゴミ集めをしている、自称ハリウッドB級映画監督、壱番国外務省ジェラルド ダモン(CIA)という男に近づいた。
バーに連れ込んで飲ませると話す、話す。
日本の武蔵西南市にある山城稲荷神社に登る階段が魔の階段で、10段しか登れない。上は異教徒の魔の巣窟、シン、アカ、リューア邪教の本山らしい。
中学生とか爺さん婆さんとか登れる人もいる。きっと邪教徒にちがいない。
そこに宗形という医師が巣食っている。筒腐らしという罰があって、何十人もその罰を受けた。
そうそう、武蔵西南市という駅名はない。山城稲荷駅だ。つまりまるごと邪教徒の市だ。
だいぶ恨みがあるらしい。そのまま書いて報告書として本国に送った。




