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008 シンとアカの故郷

「思い出せないな」

 僕たちは、この星の出身だけど、僕とアカがどこに住んでいたかわからない。

 世界樹はこの星の神ではないので当然わからない。


 この星の神である龍愛は世界樹に林檎二つで僕とアカを売り飛ばしたこととエネルギーをくれてやったことは覚えていたがその他のことは「なんにもわかんない」そうだ。


 僕もアカと住んでいたということだけはわかるが他のことは何もわからない。

 アカは家の外にいた気がするので集合住宅ではないだろう。

 それくらいしかわからない。


 僕の見た目は世界樹が作ったものだから、僕を見てもこの星の人が気づくことはない。

 手がかりはまったくないな。


『故郷に転移させてやろう』

 龍愛の親神様が話しかけて来た。


『いいんですか』

『ああ、龍愛が色々世話になるからな。龍愛のことは頼んだよ』

『はい、わかりました』


 山あいの里に転移した。

 神輿が練り歩いている。祭りをやっているようだ。

 観光客もちらほらいる。


 神輿について行くと道路から少し入ったところに犬小屋がある家があった。雨戸が締め切られている。

「ここね」

「そうだね」


 二人で家を見ていると少し酔っ払ったお爺さんが話しかけてきた。

「坊主と知り合いかい」

「ええ、昔」


「あれも親に先立たれて、近くに身寄りもなく、可愛がっていた犬も死んでしまった。よほど犬を可愛がっていたんだろう。犬小屋もそのままで毎日飲み水をかえていた。坊主は病気になってしまってなあ。若死をしてしまった」

「それは残念でした」


「知り合いなら墓は裏山だからそこいら辺の花でも供えてやってくれ」

「はい」


 酔っ払いのお爺さんは神輿と一緒に歩いて行った。


「家と墓に行ってみようか」

「うん」


 家に続く道を歩いて、家の庭に出た。庭に少し草は生えているけど、生い茂っているわけではない。だれか草むしりをしてくれていたようだ。あの酔っ払いのお爺さん夫婦だね。隣の家の人だ。腰や膝が悪いようだ。治しておいてやろう。


 庭に立って二人で家を見る。

「懐かしいな。だんだん思い出して来た」

「楽しい日々でした。先に亡くなってしまってごめんなさい」

「寿命だよ。一緒の日々をありがとう。先に行っても待っていてくれたんだね。今度はずっと一緒だ」

 アカが腕を絡めて来る。


 家の表札は樹乃龍愛になっている。へえ。早速名前がついている。龍愛の親神様が龍愛のものにしておいてくれていた。名前がついたから表札も自動的に変わったのだろう。この星の神の直轄地だな。

 近所の人は遠い親戚が見つかって相続したような気になっているのだろう。


 中に入って見る。親神様がバリアを張っておいてくれたから埃もカビもない。


 この星の神の名義にしてくれたおかげで中は僕が亡くなった時のままだ。葬儀が終わったら誰も立ち入れなかったのだろう。


 雨戸を開けて縁側に座る。犬小屋は足元だ。

 僕はよく縁側に腰掛けてアカを抱っこしていた。庭の先は少し畑があってその下は道路、いくらか家があって、さらに降って谷川だ。そして谷の向こうは山。今も変わらない。


 アカとしばらく眺めて家を出て、家の脇の屋敷稲荷にお参りした。


「今までありがとう。僕とアカはこの星で生を終えて他の星の神様に新しい体を作ってもらい生きている。ここにはほとんど来ることはないだろうけど、この星の神様がここを守ってくれるから安心してください」


 稲荷様の脇を通って裏山を登る。少し登ったところに墓場がある。


 アカの墓がある。小さな墓石に石屋さんで「アカの墓」と彫ってもらって置いたそのままだ。脇は僕の墓だ。木の墓標が立っている。


 遺言しておいたんだよ。アカの脇に骨を埋めてくれと。葬儀代と諸々の費用のお金と一緒に封筒に入れ遺言を残した。見つけてくれたんだ。


 アカと僕の骨は土に還しておこう。父、母、ご先祖様の墓に花を供える。骨は土に還しておく。僕とアカは他の星の所属になって生きていると報告した。

「みんなありがとう」


 もう一度周りの景色を見てから山城稲荷神社に転移した。


『えっ、家の人戻って来た。絶えたんじゃなかった。でも行っちゃった。大変。ついて行かなくちゃ』


 子狐の格好をした屋敷稲荷は、家の人が誰もいなくなって絶えてしまったと思ってこのまま小さな祠が朽ちていくのに合わせて消えていくと思って長いことうつらうつらしていた。

 シンとアカがお参りしてくれたおかげですっかり復活し、前より力が湧いて来た。

 すぐシンとアカの転移を追って転移した。


 山城稲荷神社の境内で追いつきシンに抱きついた。

「あれ、どうしたの?」

「アウアウ」

「屋敷稲荷さん?」

 アカが聞くと尻尾を一生懸命振る小狐。

「そうか。誰もいなくなっちゃったからね。ごめんよ。さびしかったか」

 ギュッと前足でシンに抱きつく小狐。


「ここは山城稲荷神社だよ。ここにいる?」

 首を左右に振っていやいやしている。

「そうか。ちょっとまってね」


『龍愛、僕のこちらの家にいた屋敷稲荷を世界樹の星に連れて行っていい?』

『『いいよ』』

 龍愛と世界樹から返事があった。


「この星の神様と僕が住んでいる星の神様からいいと言われたから、僕の家がある星に行く?」


 首を縦に振ってうんと言っている。尻尾はぶんぶん。


「じゃ行こう」


 神国に転移。

「これが僕の家だよ。傍に祠を作ろうね」


 家の脇に祠を作った。地球にあった祠と同じものだ。不壊にしてある。


「作ったよ」


 尻尾を振ってお礼を言われた。

 自宅スパ棟の周りを回って戻って来た。


「あちらの宿舎も僕のしもべが住んでいるんだよ」


 エッという顔をして慌てて宿舎の周りをふくめて全部の建物の周りを回って来た。


 エヘンという顔をしている。

 よしよししてやる。


 お狐さんにも紹介しておいてやろう。

 お狐さんを呼ぶと、観察ちゃんを背中に乗せてやって来た。屋敷稲荷さんの子狐をぺろぺろ舐めている。

 子狐も尻尾をブンブン振っている。

 何やらアウアウ話をしている。

 話は終わったようだ。


 子狐は僕とアカにギュッとしがみついてから尻尾を振りながら祠の中に消えた。


 お狐さんはポンと僕の胸に飛び込んできた。抱っこしてやる。

「仲良くしてやってね。力はないけどいい子だよ」

『神様、あの子はまだ尻尾が一本だから外に出ると危ない。でもここなら祠の中でゆっくり力をつけられる。時々見に来る』

「頼んだよ」


 二百人衆にも説明しておいた。

「あの子狐は僕たちの家の守り神だよ。家の脇の新しく作った祠に住んでいる。まだ力がない。寝る子は育つというからほとんど出てこないと思うけどよろしく」

「わかりました。気にかけておきます」


 お狐さんとしばらく遊んで、僕らは山城稲荷神社に戻った。お狐さんはイヅル国へ帰った。

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