065 未確認生物対策室の小隊がハント伯爵邸に調査に行く
ヴィーラントたちは無事にロンドンから戻ってきた。
龍愛からダイヤモンド、プラチナ、金、オリハルコン、ヒヒイロカネなどをヴィーラントに渡した。龍愛のデータベースから装身具などのデータももらって僕らの星に帰って行った。向こうで作ってくるそうだ。
アヤメさん、オリメさんは生地を大量に買い込んでこちらも龍愛の服飾データベースからデータをもらって裁縫棟で作ると神国に帰って行った。
観察ちゃんがそれぞれ送った。
残ったのは、僕とアカ、龍愛、ドラちゃん、ドラニちゃん、アーダ、舞、宗形さんである。
夕食は伯爵家で、伯爵夫妻、ルーシーちゃんと一緒だ。
ルーシーは今日の昼間を無事に過ごせば真夜中の0時で18歳だ。
心静かに過ごそうとしたのに、軍隊がやってきた。
二百人衆の執事と侍女を置いて、僕らはすぐ山城稲荷神社に退避だ。
観察ちゃんの映像をみんなで楽しむ。
軍人が館のドアを叩く。
「軍だ。開けろ」
軍人が執事を押し退け押し入ろうとした。だが、執事はびくともしない。
「何事でしょうか。軍が伯爵邸に押し込みでしょうか。スコットランド建国以来と言われている我がハント伯爵邸に、貴殿らは押し入ろうというのでしょうか。そもそも我がスコットランドはその昔」
「わかった。わかった」
後ろに控えていた小隊長、歴史を持ち出されるとなかなか難しいことになってしまう。
前に出た。
「ご協力願いたいのですが」
軟化した。
「どちら様でしょうか」
「我々は未確認生物対策室に所属する小隊です。私は小隊長のキッドマン大尉と申します」
ばればれであるから名乗ってしまった。
「それはそれは。小隊長殿自らの訪れ、ご苦労様です」
「伯爵殿にお会いしたい」
「どうぞこちらへ」
小隊長について入ってこようとした隊員は執事に顔を向けられ執事から放射されるオーラに怯んだ。
「外でお待ちください」
ドアが閉められてしまった。
執事は大尉を応接室に案内した。
伯爵に挨拶して、大尉が切り出した。
「昨日未確認生物がこの奥の山にいることが確認され、事情を知らない警察が出動、多数の死者と怪我人を出し、だいぶたってから対策室に情報が入りました。我々小隊が駆けつけると既に未確認生物は討伐されていました。なにかご存知でしょうか」
「地元警察が必死の覚悟で立ち向かい、多くの犠牲者を出しました。痛ましいことです。我が伯爵家は情報を知り、これ以上の犠牲者を出してはいけないと現場に駆けつけました」
「どなたがでしょうか」
「我が娘にして爵位継承順位一位のルーシーが友人知人と出陣しました」
「それは勇ましい」
「伯爵家の務めです」
「立派な心掛け、感服しました」
「それで友人知人の方はどこに?」
「出かけています」
「いつお戻りですか」
「知りません。当家の賓客です。出入りは自由です」
「娘さんは?」
「友人と出かけています」
「いつお戻りで?」
「さあ、大変仲の良い友人と遊びに行きましたのでわかりません」
駄目そうだと大尉。切り口を変えた。
「娘さんが未確認生物の首を落とされたとか、武器はなんでしょうか。我々の機関銃でも追い払うのがやっとの生物ですが」
「あれはIGYOと言います。武器は伝家の宝刀です」
「見せていただくことはできますか」
「どうぞ。そこに飾ってあります」
気が付かなかったが確かに剣が飾ってある。
「手にとって見せていただいていいでしょうか」
「我が家の剣は、不動の神剣で動く時は災いを断ち切る時である。今はその時ではない。動かない」
「本当でしょうか」
「どうぞ」
大尉が剣を取ろうとしたが動かない。いくら力を入れても一ミリも動かない。
「その時が来たら、神剣に選ばれし我が娘がその神剣を引き抜き、敵に立ち向かうであろう」
なんとなく剣に気圧された。伝説のエクスカリバーのようだと大尉は思った。あっちは石に刺さっていたが。
「ご友人、知人の武器はなんだったのでしょうか」
「私はその場にいませんでしたのでわかりません。警官の皆さんが見ていたのではないでしょうか」
「それは所持を許可されたものでしょうか」
「見たことがないのでわかりません。それに国に極秘対策室が出来るほどの国家的危機生物のIGYOを討伐していただいたのですからそんなことは大事の前の小事でしょう。また出てきたらどうします?今回もだいぶ死者が出ました。すぐ軍が来てくれますか?来てくれても軍が退治できるのですか?」
大尉は言い返せなかった。
「その、あの、バイクが未確認生物IGYOにのしかかったとか、ドラゴンが飛んできたとか、妖精が出たとか」
「なんと、バイクが、映画ですな。スタントマンでしょうか。ドラゴンと妖精は物語のようですな。それかハリウッドのCGでしょうか、日本の特撮ものでしょうか。それはまたIGYOになるのでしょうか。貴殿の小隊はみるからに陸軍のようですが、今度は空軍でしょうか」
はぐらかされてしまった。
「喉が渇いたでしょう。お茶を飲んでいってください」
侍女が淹れてくれた。もちろん紅茶である。
「これは香り高い。なにやら高貴な香りですね。口から鼻に抜けていく、たまりませんね。渋味爽やか、柔らかさのなかに芯の通った強さがある。紅茶好きの私でも飲んだことはありません。これは素晴らしい」
「人から頂いたものです」
「天下が取れそうな紅茶ですね」
「そうでしょう」
神様のお茶だからなと伯爵。
紅茶を飲んでご機嫌で帰っていった大尉であった。
部下はご機嫌で出てきた大尉に?である。
大尉達は近くの軍事基地に現場の保全を依頼して、ロンドンに帰った。
キッドマン大尉から報告書が未確認生物対策室の室長に提出されたが、未確認生物はIGYOと言うことと、ドラゴンと妖精、神剣と紅茶の話である。
室長は、タイソーに続きキッドマンも無能になってしまったかとガッカリするのであった。
二人とも有能であったが、ハント伯爵邸に行くと無能を曝け出す。あそこは伏魔殿かと思うのであった。




