062 シン ルーシーを預かる
食事が終わったら談話室に案内されてしばらく休憩。
「いやあ、酷い目に遭うな」
宗形である。
タイソーはチャンスとばかり近づく。
「宗形さんは医師と聞きましたが」
「ああ、そうだよ。そちらの国ではGMCに登録してあるよ。病気なら診ようか。苦労誘引症と言う病気だな。苦労を誘い込む」
「わかるのですか」
「おおらかな気持ちになって日々を過ごすことだ。無理だろうが。薬はない」
宗形医師の手がかりはGMCだ。わかったも同然とタイソー。マイさんはアラキダ マイというらしい。シン様、アカ様、リューア様、ドラちゃん様、ドラニちゃん様はさっぱりわからない。宗形医師とマイさんから芋蔓式に出てくるだろうと気が楽になった。妖精様は諦める。
「それでは午後の部を始めましょう」
午後もびっしりダンスをして、ディナーをいただいて、伯爵邸に戻った。充実した一日であった。
タイソーは案内された部屋に行った。
部下に、宗形医師はGMCに登録あり、マイはアラキダ マイと追加情報を送った。
シン様から伯爵夫妻に提案があった。
「もしよろしければ、誕生日以降、パーティーまでルーシーさんを預かって、諸々の経験をさせたいと思いますが、どうでしょうか。ルーシーさんは幼い時から館から出ずに過ごしてきたのでしょう?外に出た時のことなど身についていないはずです。色々経験してもらったらどうでしょうか」
「ぜひお願いします」
全くシン様のおっしゃる通りだった。娘は外に出たことがなかった。浮かれていて思い付かなかった。危ないところだった。ダンスも食事のマナーも申し分のない人たちを使っているシン様に預ければ人前に出しても恥ずかしくない知識、経験が身に付くであろうと思った。
「それに服もないでしょう。私どもで作っていいですか?」
「ぜひお願いします。費用はお支払いします」
「いいですよ。僕らの裁縫師は、こちらの衣装を勉強させていただきますのでそれで相殺ということで」
「そうですか」
「明日朝、裁縫師を連れてきますので、伯爵と奥様の礼装などを見せてください。もしよかったら装身具なども」
「わかりました。装身具も見てください。親戚の同じ年頃の娘さんの家にも案内します。ドレスを見せてもらうように手配しておきます」
「ありがとうございます。それでは、明日裁縫師と装身具のデザイナーを連れてきます」
翌朝、タイソーに部下からメールが来た。
「宗形薫はGMCに登録してあった。GMC関連の試験はほぼ満点。詳しく調べたら間違っているとされたところも設問に難があり、それを除くと満点だった。出題者の教授は宗形に突き止められ虐められた。教授曰く、あれは日本語で「天才にして天災」という。意味はわかりません。住所は日本の武蔵西南市。アラキダ マイは不明。二人とも入国記録なし。逃亡犯の迎えのヘリは間も無くそちらに着く」
教授が虐められただと。なんだ、それは。入国記録はないだろう。俺も昨日密出国、密入国をしてしまった。黙っていよう。秘密が多くなってしまったタイソーである。
一日惚けたのでカンカンだろうな。部下もなんとか言われたのだろう。逃亡犯と言ってきた。大臣が上に報告に行く時、俺を犠牲にするのだろう。その為のヘリ迎えだ。逃げてもつかまる。宮仕は辛い。
タイソーは屈強な男付きの迎えのヘリで戻って行った。手錠はかけられていないがほぼ逃亡犯扱いである。
入れ違いに、観察ちゃんが、オリメ、アヤメとヴィーラント、ユリアーナ、ローザリンデを連れて来た。ヴィーラントは黒猫のリンダを抱いている。
「こっちだよ」
ドラちゃんとドラニちゃんが迎えに出てくれる。
応接室で伯爵夫妻、ルーシーと挨拶の後、
「ルーシーさんの普段着を何着か作ってきました。どうぞお使いください」
オリメが服をルーシーに渡した。
考えてみればクローゼット、タンスなどを引っ掻き回してサイズの合いそうなものを着せていたと伯爵夫人。
「着てみてください」
服を持ってルーシーが着替えに出て行った。
「髪をセットします」
オリメとアヤメがついていく。
着替えてくると
「まあ。見違えたわ」
くすんだような服から、明るい今風の少し上品な服になっている。サイズも注文して作ったようにぴったりだ。髪の毛もただ髪を梳かしただけではない。短い時間にそれなりにセットされていた。髪型も服もルーシーに似合っている。
「すみません。髪まで。気づきませんでした。服はお作りになったのでしょうか」
伯爵夫人が服に触りながら聞いた。うちに出入りしている業者より上手だと思った。
「はい」
「ぜひパーティー用の娘の服をお願いします。娘は初めてです」
「デビュタントですか」
「うちは質実剛健の家風で、また人種差別的なことも忌避しています。白人至上主義の中央のそのような会には出ません。今回は一族の仲間内の呪いがなくなった祝いです。実質的な娘のお披露目にはなりますが」
「わかりました。デビュタントに出なくてもルーシーさんには色々話が来るでしょう」
アカ様と龍愛が成長に関わっているから、どだい素材が違う、中央のデビュタントのお嬢さんなど目ではないと思ったオリメである。
「服を見てください」
伯爵夫人に案内されて別の部屋に通された。テーブルの上に服が並べられている。
一着一着オリメとアヤメがチェックしていく。裏返して見たりしている。
「わかりました。ありがとうございました」
「装身具はこちらです」
ヴィーラントとユリアーナ、ローザリンデが見ている。
「これは?」
「私のデビュタントに使いました」
「なるほど。これを使うか、手を入れるか、新しく作るか」
「生まれ変わったルーシーです。新しくお願いします」
「承知した」
「材料はこの星のものを使いましょう。これから龍愛とドラちゃんとドラニちゃんととってきます」
「控えめにつくろう。石はダイヤモンド、1000個くらい使えばいいか、あとはプラチナ、金か」
「了解。とってこよう」
「お待ちください。それでは目立ちすぎです。王室並みになってしまいます」
「ガラス玉だと言っておけばいい」
目が回る伯爵夫妻。
「お恥ずかしながら、それでは支払えません」
「いりませんよ。材料はこれからとってきますので、買わずに済みます。ヴィーラントも作るのが面白いので制作費はタダです」
ヴィーラントさんたちとオリメさんたちは、伯爵の親戚の家に娘さんの礼装を見に奥さんと出かけた。
それが終わったら奥さんと別れて観察ちゃんがロンドンに連れて行く。色々見て貰えばいい。布も必要なら買って貰えばいい。ポンドを渡しておいた。カードもあるし買いたいものはなんでも買えるだろう。




