006 ショッピングモール (中)
オリメ、アヤメ
服、靴、鞄類、アクセサリーなどを見て回っている。
「服のデザインは私たちのほうがいいですね」
「これは一般の人向けだけど、私たちの星に持って行くと丈夫さと動きやすさが足りないみたい。世界が違うわね」
「もしかすると貴族は同じような服かもしれません」
「そうね。舞踏会のドレスなどは同じではないか。舞踏会のドレスを着て魔物の相手をしないだろうから」
生地を扱っている店に行った。
「これはいいわね」
オリメがデニムの生地を触る。
「丈夫そうですね」
「染めもこれは自然のものね。人工のものは買わないようにしよう」
「これは買っていきましょう」
「お客さん。お目が高い。それは当店でもなかなか扱えない日本の藍染です。自然の藍を使っています。生地は綿100%です。当節では手軽な合成のインディゴという染料を使いますが、やはり日本の藍にはかないませんな。私が好きでたまに仕入れています」
「そうですか。あるだけ買いましょう」
「・・・全部ですか」
「はい」
「どうするのでしょうか」
「私どものいる国は体を動かすことが必須ですので丈夫な生地を必要としています。これは大変良いものと思います」
「そうですか。わかりました。在庫全てお売りしましょう」
「これもいいわね。中々良い絹織物ですね」
「それは純国産絹織物です。これも希少でほとんど入荷しません。また高価なのでなかなか売れません。この良さがわかる人はほとんどいません」
「よい織物と思います。こちらもあるだけ買います」
「ありがとうございます。私の趣味で仕入れた布が売れることは滅多にありません。ご購入いただきありがとうございます。ところでお持ち帰りは難しいと思いますが」
「山城稲荷神社の神主さんの稲本さんに送ってください。住所、名前はいいわね」
「住所、お名前は大丈夫です。稲本さんはこの市の名士ですから。お客さんのお名前は」
「オリメと申します。こちらはアヤメ」
「なるほど。大変ふさわしいお名前と存じます。またのおいでをお待ちしています」
「ちょっと遠いところなので来られないと思いますが」
「そうですか、それは残念です」
店主はお客さんを見送って思った。お客さんはブラックカードで払ってくれた。アメリカン・エキスプレスのセンチュリオン・カードは初めてお目にかかった。こんな田舎では誰も持っていない。若い娘さんだけど大変なお金持ちなのだろうか。粗相のないようにしっかり梱包して、輸送会社でなく、自分と店員で運ぼう。
ローコーとエスポーサ
ローコーは忙しい。今度はエスポーサに付き合っている。
漢方薬の薬局に来た。
ローコーが目ざとく見つけた。
「ほうほう。これは効きそうにないな」
「そうね。全く効かないわね。買った人は高いお金を払ったのでむりやり効いた気になっているのでしょうね」
「お客さん、当店自慢の商品にケチをつける気か」
「ケチはつけてないわ。本当のことを言っただけよ」
「これより効くものはない」
「あるわよ」
「出してみろ」
「ほれ、これじゃ」
「なんだ。読めんぞ」
「この国の品ではないからな。お前たちが知らない国で作っている。材料もお前たちは知らない。これ一本で一晩中だ。相手は複数用意しておいたほうがいいぞ」
「本当に効くのかね」
「効くぞ。一本行くか。100万円だ」
「いや、100万円なんてない」
「その棚にある漢方薬の材料でいいぞ。良ければ、ほれ、飲んでみろ」
店主、一本渡されて飲んでしまった。
「ウッ、これは効く」
前を押さえて奥に走り込んだ。
後ろから声がした。振り向くとハゲで鼻の下に髭を生やした背の低い太り気味の男がいた。
「いくらだ」
「見たろう?この青毒蛇ドリンクは本物だ。だから100万円だ。お安い価格だ。田舎街では買える人はいまいからこの値段だ。一本最低1000万円で売るつもりだ。買うか?」
「買う」
「現金と引き換えだ」
「大丈夫だ。ちょうど補助金、いやお金が入ったから。ほれ100万」
「毎度あり」
ローコーは一本渡した。チョビ髭は急いで店を出て行った。観察ちゃんが後をつける。
「では約束通り漢方薬の材料はいただきましょう」
エスポーサが全ての材料を収納した。
「店も閉めてあげましょう」
シャッターを閉めておいてやる。店主は奥の休憩室で、店員という愛人とよろしくやっているようだ。セコいな。しかし愛人店員一人では可哀想だな。
しばらくして観察ちゃんから連絡が来た。
チョビ髭男は、学校法人武蔵西南学園の理事長、さっきのお金は補助金をちょろまかしたもの。現在奥さんと交戦中。奥さんはこの頃の役立たずから一転、力強いあれにえらくご満足とのことであった。一回戦の次は、学園から給料をもらっているお手伝いを引き込んで3Pに及んでいる。もう一人お手伝いがいるから増えそうだと教えてくれる。
もちろん情報は共有している。いつかシン様の役に立つだろう。シン様によい情報を提供出来て、大変満足なローコーとエスポーサである。
エリザベス、ブランコ、ティランママ、ティランサン
武闘派4人組、スポーツジムに行ってみる。
「入会ですか?」
「いや、見学をさせていただけないだろうか」
「どうぞ。ご案内しましょう」
「あれは?」
「ベンチプレスと言います」
「あんな軽そうなものをあげて何になるのでしょうか」
エリザベスが言うとみんな頷く。
素人が、と思ったインストラクター。
「ではやってみたらどうですか。準備運動をしないと筋肉が切れたりします」
「ああ、大丈夫だ。こんな軽そうなのは何の負荷にもならない」
ますますムカムカするインストラクター。
「ではどうぞ」
「これの重りはどうやってつけるのか。そうか。へえ」
ブランコとティランサンが二人で重りをつけられるだけつけた。
「ではやりましょう」
エリザベスが横になって、軽々あげる。片手でポンポンやっている。
「こんなんじゃ何の役にもならないわね」
「う、嘘だ。362.9kgだと。世界記録だ」
エリザベスがポンとバーベルをブランコに投げる。ブランコが頭上でクルクル回してポンとティランママに投げる。今度は体の前でくるくる回す。そのままティランサンへ。頭の上、前、後、さまざまな方向にくるくる回す。
「あ、それ面白そう。僕も」
今度はブランコへ。くるくる回す。
「う、嘘だー」
インストラクターの叫び声が響く。
バーベルはあまりにも高速で回され続けたので、重りを止めてある留め具が外れた。重りが飛んでいく。エリザベスとティランママ、ティランサンが重りをキャッチした。
「こういう遊びがあったわね」
みんなで重りを投げ合い始めた。いくつもの重りが飛び交う。フライングディスクを楽しむ面々。インストラクターとトレーニングしていた人は頭を抱えて伏せてしまった。
「危ないわね。インストラクターさん、この留め具は不良品だわね」
「いや、あの、そのようなことはありません。くるくる回すことを想定していないので。そんなことより、みなさんは軽々世界記録を超えてしまいました。ぜひ当ジムに入会していただき、オリンピックで金メダルを」
「この街にいるのは今日だけよ。楽しかったわ。ありがとう」
四人が去っていく。
「インストラクターさん、あれは無理だ。化け物だ。バーベルのプレートでフライングディスクをやるなんて前代未聞だ。あれは人間とは思えない」
「そうだ」
あちこちからそうだという声が聞こえる。
「そうかもしれないな。トレーニングはどうする」
「今日はやめよう」
「そうだな。あれを見てしまったら続けられないな。今日の分は別な日に振り替えよう」