058 ルーシー達を訓練する
パトカーのサイレンが聞こえる。聞き慣れた音だ。山の方に向かっている。
次から次へ、いろいろな方面から山を目指している。何台も続いて走って行く。
なんだろうね。観察ちゃんがパトカーを追跡している。
僕は警察無線を聞いてみよう。
傍受だ。この星の文書に書いてあった。作戦要務令「無線通信ノ傍受、有線通信ノ窃聽等ニ依リ重要ナル事項ヲ知得シ得ルコトアリ」
へえそうなの。龍愛はデータベースが作れるようになったのか。僕が作らなくても良いようだね。ドラちゃんとドラニちゃんの特訓の成果か。頭も良くなった。
警察無線はなんと言っているかな。傍受しよう。
「未確認生物2体確認」・「拳銃で撃つが効果なし」・「当方の死者すでに6名、怪我人多数」・「応援を乞う」
ドラちゃんとドラニちゃんを呼ぼう。すぐ来た。留守番はオリメさんとアヤメさんに頼んだ。こちらの服を研究していてもらおう。ほとんど変わりはないが。
ドラちゃんとドラニちゃんが抱きついてきた。
「寂しかったよう」って、可愛いな。
そのころ、館に滞在していた伯爵に、ロンドンの内務省の友人から電話があった。
「おい。未確認生物がそのあたりで確認されたようだ。軍でも追い払うのがやっとの生物だ。すでに何人も犠牲が出ている」
「わかった。未確認生物の情報は非公開だったな。避難はなんとかする。ありがとう」
伯爵はすぐ村役場に連絡した。村長は使用人の一族である。
「しばらくぶりだな。災難が迫っている。村人を逃がしてくれ」
「どちらに」
「パトカーが向かっている方と反対の方面だ」
「わかりました。とりあえず隣町に逃がします」
「頼んだ。我が家はしんがりを務めよう」
「お願いします」
ついにこれを持ち出す時が来たか。
伝家の宝刀である。
庭で遊んでいる娘を呼びに行った。
子供が二人増えていた。キリッとした目力の強い女の子だ。
「ちょうどいいところへ。災難が迫っています。対策をしてきます」
伯爵はシン様は災難と言っているが未確認生物のことを知っているのではと思った。
「ルーシーさんをトレーニングで連れて行きたいのですがいいでしょうか」
何人も犠牲者を出している討伐できない未確認生物が、トレーニングの対象になってしまった。ほんとにシン様たちにとってはトレーニングなのかもしれないと伯爵は思った。
「わかりました。シン様たちに救ってもらった命。ご自由にお使いください。ルーシー、これを持って行きなさい。お前は体幹が強くなったようだ。これが振れるだろう。一人っ子のお前が伯爵家の跡取りだ。ハント伯爵家の名に恥じないようにな」
スコットランドの古い貴族は、女性が爵位を継ぐのが有りなようだ。
「どれ、見せてごらん」
ルーシーから剣を借りた。
剣を鞘から引き抜く。これでは切れ味が良く無い。直してやろう。
光が剣を覆った。鋼が吸い込まれるような深い色合いになった。まずまずの剣になった。
「龍愛、ルーシーの剣に不壊の属性をつけてごらん」
「龍愛、わかんない」
「剣を手に持って、壊れない、壊れないと思ってごらん」
「壊れない、壊れない」
もう少し。
「壊れない、壊れない。出来た」
「よく出来た。出来たのがわかったね。えらいえらい」
「だんだんわかってきた」
「成長したね。今度みんなのバングルを作ろう。金属を探しに行こうね」
「うん」
「この剣は、龍愛が壊れなくした。どう振るっても刃こぼれや傷がつかない、曲がらない、折れないから安心して使いなさい」
ルーシーが振ってみた。空気を切り裂く鋭い音がしてピタッと剣が止まった。
母親は仰天した。死の一歩手前だった娘が剣聖のように剣を振ったのである。
「伝家の宝刀が神剣になってしまった」
伯爵は、剣の存在感が違う、スコットランドに神剣誕生。エクスカリバーより優れているだろうと思った。
これならば未確認生物に一太刀浴びせられるだろう。
「では、行ってきます」
母親は心配そうだ。お願いしますと言われてしまった。そうだろうな。ほとんど寝たきり、たまに椅子に座るくらいの病人だったからね。
三人増えたからバトルホースは一頭追加で来てもらった。30分ほどゆっくり走って休憩。
ルーシーはこのままでは剣の性能を十分引き出せない。特訓しよう。
時間遅延拡張空間を作った。この星のエネルギーは余っていて使い放題だからいいね。
広い空間が誕生した。ルーシーは初めてだからびっくりしている。
「ルーシー、剣の訓練をしよう」
「はい」
まだ一度も本格的な訓練をしていない祓川、荒木田、榊原のトリオを呼ぼう。エスポーサが贔屓している大峰山の阿闍梨も呼ぼう。指導者はマリアさん、エスポーサにブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ローコーさん、エリザベスさん、ゴードンさん、宗形さんでいいか。交代でジェナとチルドレン。
「うわっ、塩井阿闍梨。生きていたか」
「尻尾を巻いて逃げた祓川か。大峯奥駈で何回も会ったろう」
「足元しか見ていない」
「未熟者め」
知り合いらしい。
「みなさん、こんにちは」
「シン様、ここはどこでしょうか」
「スコットランドです。ここにいるルーシーさんに剣の手解きをするので、まだ一度も訓練したことのないみなさんをお呼びしました。もっとも、阿闍梨さん、祓川さんはだいぶ力があります。ブラッシュアップしましょう。舞さんは一度訓練していますが、せっかくだから参加しましょう」
「教えるのは、マリアさん、エスポーサにブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ローコーさん、エリザベスさん、ゴードンさん、宗形さん。交代で娘のジェナとその友達のチルドレン。エスポーサが監督です。ではエスポーサ、よろしく。食事は差し入れます」
祓川たちは、龍姫と龍華は、ドラちゃんとドラニちゃんと言うのか、きっとドラゴンに違いないと思った。
簡易トイレを出した。10日間寝ずにやればかなり上達するだろう。外は二時間だ。
僕とアカは外だ。リンが来てくれてお茶を淹れてくれる。リンは食事の差し入れに忙しい。中は10日。外は2時間だからひっきりなしに差し入れだ。プリシラさんを呼んだ。二人で差し入れをすればいくらか楽だろう。エスポーサ特製の水やお茶付き弁当だ。
ジェナが出てきた。
「おとたん。面白い。熱帯号、雪原号、警備員を連れてきていい?」
(注:警備員はジェナの手下の馬型魔物。15頭いる)
「いいよ」
すぐまた戻った。
アーダが来た。
「おとたん。パタパタやってみんなを吹き飛ばしてきた」
「そうかい。みんな丈夫だからパタパタして遊びな」
「うん、わかった」
ジェナの元に行った。
観察ちゃんが教えてくれる。
祓川、荒木田、榊原さんは宗形さんに追いかけ回されて、阿闍梨に待ち構えられてぼろぼろ。
それから警備員に全員追いかけられて必死に逃げている。
逃げ足が早くなったろう。面白い。
剣はマリアさんがスパスパ切っている。ローコーさんも刀でスパスパ。エリザベスさんの鞭が鳴る。ゴードンさんはハルバートで殴ったりぶった斬ったり、ドラちゃんとドラニちゃんが時々火球をぶつけたり氷漬けにしたりする。背に乗せて空中から落とす。熱帯号と雪原号の牙にかかる。ジェナとチルドレンがムジンボーケンでボカボカ。エスポーサが治療。
ブランコがお友達の滅びの草原の魔物を連れてきた。エスポーサをチラッとみて、エスポーサとブランコから逃げるように、祓川さんたちに突っ込んでいく。
だいぶ上達したと自信がついたところで、ティランママとティランサンに滅多切りにされた。
エスポーサが治療して訓練終わり。
ボロボロになってやってきた。山賊のようだ。
「山賊集団ですね。まずはお風呂に入ってください。着替えは用意してあります」
移動用スパ棟を出す。ジャグジーなどでリラックスしてもらおう。中は2時間、外は10分だ。
10分も経たないうちにみんな出てきた。さっぱりした。服は忍者服、祓川、塩井阿闍梨は修験者の服、オリメさんとアヤメさんの特製だ。塩井阿闍梨はすぐ元の服との違いがわかったみたいだ。祓川さんは気づかない。塩井阿闍梨が未熟者めという顔をして見ている。
「みなさん、お疲れ様でした。あとは異形相手に研鑽を積んでください。英国にも異形が出ました。こちらでの名前は未確認生物です。現状は軍隊が出動しても追い払うのがやっとです。これからもしかすると他の国から出動を依頼されるかもしれません。協力するしないは皆さんの自由です。ではみなさん、せっかくですから異形討伐をしてみましょう。滅びの草原の魔物に比べたら楽です」
訓練してくれた人たちは戻っていく。残された人たちはお礼を言っている。警備員にもお礼を言っている。警備員も嬉しそうだ。僕とアカも撫でてやる。
マリアさん、エスポーサ、ブランコ、ローコーさん、エリザベスさん、ゴードンさんも戻っていく。ジェナとチルドレンは熱帯号と雪原号に乗った。熱帯号と雪原号も撫でてやる。
「おとたん、おかたん。早く帰ってきてね」
戻って行った。
アーダは僕の服の中のアーダの部屋に入った。落ち着くらしいよ。




