055 呪われたルーシー
「あれ、マイ。お母さんもどうしたの?」
目が覚めたルーシー。体を起こしてきょとんとした顔をしている。
「ルーシー」
母親がルーシーを抱いた。骨と皮ばかりだったのに肉付きが良くなっているのがわかる。思わず涙した。
「苦しい!」
背中を叩かれた母親。
「ごめん、ごめん。具合はどう?」
「だいぶ良くなった。小さい時からずっとあってだんだん広がってきてこの頃全身に広がってきた黒いもやもやしたものが小さくなった。消えてないけど」
「リューアちゃんが治してくれた。リューアちゃんのお兄さんとお姉さんが続きを治してくれるって。呼んでいいかしら」
「本当?良かった。すぐ呼んで。来てくれるかしら」
母親が使用人に言ってすぐ舞と龍愛の部屋を用意させた。
ルーシーとしばらく話していたが、着替えるというので、舞は寄りかかって寝ていた龍愛を抱いて用意してくれた部屋に行った。部屋は広い。寝室は別になっていた。立派な部屋だ。さすが貴族。
龍愛をそっとベッドに寝かせた。
寝室から出るとルーシーの母親が待っていて使用人がお茶を淹れてくれ出て行った。
「私たち一族は、必ず18歳の誕生日に亡くなってしまう子供が出る。その子は小さい時、体のどこかに黒い蝶の痣が出来る。ルーシーがそれに当たってしまった。ルーシーが幼い時気づいたら黒い蝶の痣が肩にあった。一族の子が18歳になって亡くなった日だった」
「あと5日なの。医者に見せても原因はわからない。治療法もない。好きなものを食べさせて心静かに暮らさせて下さいと言われるばかりだった。18歳までの日数を指折り数えて心が張り裂けそうだった」
「大病院に行きいろいろな治療を試した。民間療法も試した。何も効かない。治療は出来ない。原因もわからない。最後にはカトリックのエクソシストを呼んだが対象ではないと断られた」
「龍愛のお兄さんとお姉さんが来てくれるから大丈夫ですよ。治してくれます」
確か英国国教会だっけ。そういう宗教があるから、神様が来るとは言えないけど。
カトリックのエクソシストを呼ぶのも大変だったろうと思う。カトリックのエクソシストさんが断ったということはその人は誠実な人だったのだろう。この星の神、龍愛でさえ治せないのだから。
その日はルーシーがまだ疲れるので、時々相手をして、時々ルーシーが休むを繰り返した。
夕食は、‘VR 海外入門編’でテールブルマナーを習っていたので無事に済ませられた。神様製のVR超優秀。
ルーシーの母親はロンドンにいる夫に電話で連絡した。夫は懐疑的であった。
「詐欺師か何かだろう。変な薬を飲ませて一時的に興奮させているのだろう」
でも明日すぐ飛行機に乗って来ると言った。18歳の誕生日が来るからこちらに来る予定ではあったけど。
頼まれたシン。
さて、どうやって行こうかな。
「はいはい。私も行きます」
暇人宗形だ。掃除はどうした。まあいいか。渡航費用はないから。
バトルホースで行こうか。田園地帯を駆けるのは楽しそうだ。馬車にしようか。車という選択肢はないシンであった。
乗馬の服装はブリティッシュ、手綱はゆるく。我がバトルホースは手綱で指示する必要がないから。ピンと手綱をはっていちいち指示するのって一種のいじめだよね。服従させるとか。動物を下に見ている気がする。
英国人が躾けた犬を日本人に預けると駄犬になるって言われているけど、どっちが犬にとって幸せなのか。文化が違うのかもね。躾けた馬を日本人に預けると駄馬になると言うことかもしれない。
「ところで宗形さんは馬に乗れますか?」
「乗れます。高校、大学と乗馬クラブに所属していました」
それじゃあ馬で行こう。
バトルホースを観察ちゃんに3頭連れて来てもらった。
「で、でかい」
「はい乗ってください」
宗形さんを乗せて僕らの星の石ころと岩だらけの草原に転移させた。バトルホースと観察ちゃんが上手くやってくれるだろう。しばらく走っていればどんなところでも乗りこなせるようになる。
「待ったー」という声が聞こえたような気がしないでもない。
夕方、観察ちゃんがバトルホースに乗った宗形を転移させて来た。宗形は棒を持っていた。
すぐ上手に乗れるようになったから、リュディア王国の魔物が多いところに転移させ乗馬のままの魔物退治の練習をしてきたと観察ちゃんが報告してくれます。
「ひどい目にあった」
毎度ひどい目に会う宗形であった。手綱なしでも自由自在に乗りこなせるようになったらしい。多分この星の馬術大会に出れば優勝だろう。




