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地球に異形出現 幼女神あわてる  作者: SUGISHITA Shinya


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052 全員揃って朝練をする

 朝、秡川は支度をした。修験者の格好である。

 行くぞ。気合いを入れた。


 気合いは入れたが、灰色車両に山城稲荷神社の階段下まで送らせた。楽である。


 階段下には、背の高い高校生くらいの男女がいた。荒木田と榊原もいた。


「おはようございます。朝練にお付き合いいただきありがとうございます。ときがありません。荒木田さんと榊原さんと階段を登ってください。上で待っています」


「階段は長いですから、あらかじめ水を飲んでください」

 女子高生らしいのがお盆にコップ3つ乗せて差し出してきた。

 三人は水を飲んだ。


「それでは頑張ってください。途中水を差し入れます。飲んでください」

 若い男女は階段を登って行った。あっという間に見えなくなった。


「コスプレ、似合いますね」

 荒木田が余計なことを言う。


「うるせえ。早出残業代はなしだ」

「そんな横暴な。組合を作ろう」

「ふん。東京湾の底で水泳だ。ざまあみろ」


「早く行きましょう。遅れると良くない予感が」

 たまにいいことをいう榊原である。

「しょうがない。行くか」


 法螺貝を取り出した秡川。

「吹くんですか。近所迷惑ですよ」

「修行の始まりに法螺貝を吹かなければやる気が起きん」

 吹いた。ただし、聞こえたのは3人のみであった。


 三人は階段を駆け足で登って行く。いくら登っても上が見えない。

「おい、おかしいぞ、上が見えない」

「そうですね。見えません」


「室長、大変です。下がありません」

「何?」


 下を見ると階段が消えている。何も存在しない空間が広がっている。一段一段こちらに向かって消えて来る。


「室長、上に登らないと虚無の空間に飲み込まれます」

「そ、そうだな。急ごう」


 そんな馬鹿なと思うが三人で必死に階段を登っていくのであった。

 途中銀色の髪をした美女が水を差し入れてくれた。何回も差し入れがあった。

 たっぷり一日登ったと思う三人、やっと上が見えて来た。

 階段を登り切った。


「はいお疲れ様です。水をどうぞ」

 途中で水を差し入れてくれたシルバーの髪の若奥様風の美人である。息も切らしていない。


 三人は貪るように水を飲んだ。一息ついた。だいぶ人がいる。


「それではみんな揃いましたので朝練を始めましょう」

 これからか、もう十分やったと思う三人。


「その前に、祓川崇さんは異形等対策室の室長です。めでたくも荒木田さんと榊原さんも室員になられたそうです」

「あらそうなの、知らなかった」と荒木田の妻の江梨子夫人。夫の言うことは聞いていないのであった。


「祓川さんにはみんなを紹介しましょう」

 僕が集まった人を紹介した。一人の欠けもなく参加してくれた。


「では、初めての祓川さん、昨日初めての荒木田さん、榊原さんもみんなに追い付きましたから、今朝は、奥社山駈を全員でやりましょう。奥社までかけて行って戻って来てください。だいぶ長いですよ。龍姫と龍愛が先導します。次に初心者ですがかなりの猛者の祓川さん。荒木田さん、榊原さんが続き、江梨子さん、大井さん、舞さん、円さん、勝お婆さん、稲本さん夫婦、しんがりは宗形さんと龍華です。宗形さんは引き続きしんがりの練習です。棒を持って後ろを見て周りの気配を探りながら遅れずについて行ってください。龍華が指導します。黒龍と黄龍は遊軍」


「銀色の髪のエスポーサが奥社で待っていますので、上まで行ったら必ず水を飲んでください。飲まないと死にます。まずは水を飲んでから行きましょう」


 ふと見るとパラソルの下にコップがずらりと並んでいる。みんな飲んだ。秡川は思った。ドーピングか。科捜研で分析させるか。

「ご心配なく。科捜研で分析しても何も出ませんよ。宗形さんがすでにやっています」


 にこにこと銀髪女がいう。なんで思っていることがわかる。恐ろしくなった祓川。ぐいっと水を飲んだ。うまい。もう一杯。

「上まで行ったらね」

 また読まれてしまった。


 巫女さんコスプレ、いや本物の巫女の宗形の手に棒が出現した。どこから取り出したかわからない祓川であった。


「行くよ。みんな」

 龍姫と龍愛が走り始める。祓川が続きしんがりは宗形である。


 しんがりは大抵戦死するんだっけ。秀吉もしんがりだったが戦死せずに出世した。無事にしんがりが務められれば出世だ。出世、出世と喜ぶ宗形。戦死のことは頭から飛んでしまった。巫女から出世するとどうなるのかと思ってしまった。神主か?禰宜、宮司、わからん。


 いつまで行っても奥社につかない。急なアップダウンがある。裏山だから登るだけのはずである。ガレ場がある。両手両足を使わなければ乗り越えられない岩場がある。足の幅程度の稜線があり、突風が吹いてくる。油断すれば谷底である。


 後ろから何か追ってくる。どんどん近づいてくる。

「龍華ちゃん、何か来る」

「異形」

 指呼の間になってしまった。


「龍華ちゃん、来た。いつものより大きい。倍はあるよ」

「棒で切る。念を込めれば切れる。しんがりだから頑張ろう。魔物より弱い」

「そんな、そんな」


 魔物には腹を割かれた。それより弱いなら腕一本くらいかと宗形。

「食われるよ」


「グォー」


「来たよ」

 やぶれかぶれで棒を振る宗形。当たらない。大きいから鈍いかと思ったら、数倍早い。


「よく見て振る」

 そんなことを言ったって、当たらない。


 頑丈そうな太い爪付きの前足が振り下ろされてくる。思わず払った。

 当たった。


「上手、上手。ここを抜かれれば武器を持っていない祓川さんたちは死体。頑張ろう」


 また頑張ろうだ。爪が巫女服を掠った。ざっくりとやられたと思ったが服は破れなかった。確かに魔物より弱いかもしれない。魔物なら今ので胴は二つだ。

 次から次へと太い前足で攻撃される。必死に棒で防いでいたが、徐々に攻撃が出来るようになった。


 異形が立ち上がって距離を詰められる。

「切れ」

 龍華が叫ぶ。


「切れろー」

 死ぬ気で踏み込んで思いっきり棒を振った。棒が鋭い音を立てながら異形の胴に食い込んだ。


「死ねえぇ」

 棒を振り切った。

 胴が真っ二つに切れた。巫女服が上も下も真っ青になった。


「はい。お上手。次は落ち着いて対応できます。魔物より弱いですから落ち着けば楽勝です。少し行くと奥社です」


 魔物には訓練で数人で対応できるようになった。魔物より弱いと言われても数人で対応するのと一人で対応するのではプレッシャーが違う。それに見たこともない巨大異形だった。手が棒から離れない。


「お前どうしたんだ」

 一生懸命棒から手を離そうとして歩いて来る、上から下まで顔までも真っ青に染まった宗形を見て荒木田が聞いた。


「皆さんが呑気に走っている時に超特大の異形に襲われ死にそうになった」

「無事にしんがりが務められたようですね」

 銀髪女が手を伸ばすと、異形の胴体から出た真っ青の液体が消えた。


「そんな大きい異形は確認されていない。クマの2倍程度だ」

 祓川が言う。


「それがいたんだよ。もう少しで爪でざっくりやられるところだった」

「そんなばかな」

「見てみろ」

「ああ、どこだ」

「すぐ先だ」

 秡川を先頭に見に行く。


 特大の異形が、胴体を切られて上下に分かれて死んでいた。


「お前、どうやったのか。自衛隊の機関銃でも銃身を何回も取り換え、追い払うのがやっとだったぞ。奥駈道付近で発見された異形の死体に切り付けてみたが、おれの正宗でも外からでは刃が立たなかった。言葉通り、傷一つつかない。これは特大個体だ。教えろ。どうやった」

「教えを乞うにしては態度が悪い」


「教えろ」

「やだね。進級試験を追試にしたくせに」

「あれはお前が勉強しないからだ。どんな天才でも講義は出てこない、勉強はしないでは出来るはずがない。それに追試は珍しくないぞ。荒木田も榊原も追試だ。お前らは出来の悪い弟子の三大バカだ。だからよく覚えている」


「あなたたちはそんなに成績が悪かったの?いつもくだらない言い合いをしているからおかしいと思っていた」

 荒木田夫人に言われてしまった。円と舞もジト目だ。とんだとばっちりの荒木田と榊原だ。


「俺たちのときは教授も若く、試験も難しかった。宗形の時は老化してボケ始めていて易しくなっていたはずだ」

「そうだそうだ」


「お前らは、残業代なしな。宗形は明日から異形等対策室の室員だ。こき使ってやる」


「残念、宗形さんは、山城稲荷神社の専任巫女となりました。これ辞令。帝都大学と武蔵西南病院は頼まれて非常勤、それぞれ学長室付非常勤講師と病院長室付非常勤医師。両方とも担当職務なし。業務命令なし。身分だけ。給料は仕事を申告すれば申告した分だけ出る。つまり出入り自由、仕事は好きな仕事だけ。はい、これ辞令セット」

 辞令三枚をピラピラとして宗形に渡すエスポーサ。


「いつの間に。聞いてない」

 宗形、秡川、荒木田が異口同音に発言した。


 エスポーサから辞令を受け取った宗形。大学と病院の辞令を見て、

「本物だ」

 宗形はにんまりする。大学も病院も立ち入り自由、やりたい放題だ。秡川は渋い顔だ。


 龍愛が「あたしの専任巫女よ。いうことをなんでも聞くのよ」とない胸を張った。

 ゴンとアカに鉄拳制裁された。


「祓川、帰りはテメエがしんがり」

 先輩の口の悪いところを引き継いてしまった宗形である。


「そうね。錫杖をもっているからちょうどいいわ。ああ、シン様から預かっていたわ。錫杖。これを使ってください」

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