042 再び稲本さんの家
「舞さん、巻き込むようになってごめんなさい」
神に謝られてしまった。
「いえ、こちらこそ助けていただきありがとうございました」
封印されていた記憶が封印をとかれて色々思い出した舞であった。
「異形に遭遇しても命を失わないように、明日から朝練と夕練をしましょう。朝練はお姉さんも誘ってください。大学入試用の勉強は日曜日の午後半日しましょう。アカが教えます。半日で十分です。英語はVRで英語をどんどん使ってください」
「はい。わかりました」
よくわからないが神様のやることだからと返事をしておいた舞である。
「宗形さんは明日から日の出と共に稽古です。舞さんとお姉さんは来られる時間で結構です」
運良くか、運悪くかわからないがちょうど話題の宗形がアカと帰ってきた。
「今日からただいまです。ただいま」
「はい。お帰りなさい」
稲本さんの奥さんが出迎える。
「宗形さん、明日は日の出と共に訓練開始です。終わりは日が落ちるまでです」
「えええええ」
「朝晩は龍愛もいっしょです。頑張りましょう」
「舞さん、今日から送って行きましょう。この子が送り迎えします」
神の掌の上にリスのような小動物が現れた。
「観察ちゃんといいます。僕に用があったら観察ちゃんと言ってください。僕に伝わります」
「観察ちゃん。よろしくお願いします」
観察ちゃんが右の前足を上げた。了解ということらしい。神の手のひらからぴょんと降りて、舞の方を向く。帰ろうということのようだ。
「では、明日の朝よろしくお願いします」
観察ちゃんと、舞が出て行った。
「皆さんも用があったら、観察ちゃんと呼んでください」
「何匹観察ちゃんはいるのでしょうか」
宗形が聞いた。
「さあ。わからないんです。必要なら自然に増えますが、褒めると良く増えるんですよね。こちらに連れてきたのは一人ですが、よく働いてくれます」
「あ、また増えた」
アカが申しております。
「まあ、皆さんに専用の観察ちゃんがついていると思ってくれて結構です。この街の地図も観察ちゃんが歩き回りましたので完成しました。精密な地図があります。よく作ってくれました。今は街の外へ向かって道路沿いに地図を作って行っています。三次元立体、省略、ぼかし、掩蔽なし、拡大しても解像度が落ちない完全地図です」
「また増えた」
アカが申しております。
「榊原さんはどちらにお泊まりですか」
「孫が世話してくれた駅前のホテル。安ホテルじゃ」
「よかったらこちらに泊まりませんか。部屋はありますので」
「荷物が」
「観察ちゃんがついて行きますので荷物をとってきたらどうですか」
「そうさせてもらおうか。こちらの方が楽そうだ。足もいるし」
「それじゃ立ってください」
「こうか」
「観察ちゃん。おねがい」
婆さんが消えた。
「ひやー、消えた」
賑やかな宗形である。
「転移して行きました」
「ひゃー。ひやー。転移、転移。ラノベ来たー」
「残念ながら人には出来ません」
「え、出来ないの」
「出来ません。私の眷属でも人から眷属になった者は出来ません」
「残念」
「それ以外なら、人以上になれます」
「私でもなれます?」
「はい。素質十分です。今でも力を解放してやれば人以上です」
「私、力あるの?」
「はい。ただ自然と力に制限をかけています。明日からそれを取り除いていきましょう」
「簡単?」
「筋力がないのでリミッターを取り除くと危険です。体に力をつけながら、徐々にです」
要は、体力の上限が人並以上ということである。鍛えなければ到達できない。リミッターなどと言ってうまく人参をぶら下げたシンである。
「それで、円と舞は?」
「同じ素質です」
「良かった」
「あと一人、龍華、龍愛の担任の大井先生も同じ素質です」
「へえ」
「今荷物を取りに行った、榊原の婆さんもそうです」
「だから階段をスタスタ上がったのか」
「それは日頃の鍛錬です。誰でも到達するレベルです」
「榊原病理部長、荒木田診療科長夫妻も素質があります。もちろん稲本さん夫妻もそうです」
「ずいぶんいますね」
「龍愛の親神様が長い年月かけて集めてくれたのでしょう。だからあなたも高校の入学時に引っ越してきて、3年間ここにいて、円さんと友達になり、また引っ越して、医師になってから再びこの地の総合病院に派遣されてきたのです」
「何か神の陰謀だな。この地が良かったのかな」
「大都会ではなく、東京には行けば行ける、神を信じている者がいるという好適地です」
「そうですか」
「そういうわけであなたは神に選ばれた者です。頑張りましょう」
「なんだか、騙されているような気がしないでもないけど、いい部屋で給料が貰えてなかなかいいな。信じられない機能の収納ももらったし、バイクも壊れなくなってローンも終わったし」
話しているところに榊原の婆さんが転移してきた。
「いやあ、転移は便利だの。じゃが靴を忘れた。スリッパをホテルからもらってきた」
「ああ、忘れました」
「わしも忘れていた。スリッパはちゃんと断ってもらってきたぞ」
「では夕食にしましょう。食堂へどうぞ」
僕とアカ、ドラちゃん、ドラニちゃん、龍愛、宗形さん、稲本さん夫妻、榊原の婆さんの9人だ。それに黒龍、黄龍。ちゃんと食堂も拡張してあった。9人ゆっくり座れた。