041 宗形巫女 病院にお礼参りに行き引っ越しをする
一階に下りて、みんなに挨拶して、バイクの置いてある石段下に向かう。巫女の装束では階段を降りるのに苦労するかと思ったら全くそのようなことはなく袴が自然にうまく裾を捌いてくれて下りられた。
バイクに跨ってエンジンをかける。スロットルを回してみる。
「え、ええええ」
音が全く違う。強そうな音だ。しかも静か。相反するが強そうで静かだ。
スタッと後ろに朱さんが乗った。
「ゴー」
グオーっと音がするかと思うぐらいの加速だ。慌ててブレーキをかける。ストっとバイクが止まった。スリップもしない。体にかかる慣性もブレーキがかかったようになくなる。音もなくスッと止まった。
「まずは病院から行きましょう」
「わかりました」
面白くなった宗形、急加速で発進、ひらひらとちんたら走っている車を追い抜いていくのであった。瞬く間に病院に着いた。
病院職員は、宗形先生のバイクを巫女さんが運転して来たのでびっくりしている。ヘルメットを取ると宗形先生だ。
泌尿器科の診療科長の部屋に行く。
ドンドンとドアを叩く。
「だれだ、入ってこい」
部屋には荒木田診療科長と榊原病理部長がいた。
「これは、誰だと思ったら宗形巫女さん」
「お礼参りに来た」
「それは転職おめでとうございます」
「どうしてこうなった」
「いやあ、本院の教授の命だからな。それにうちは、大学病院の系列だから、病院長も逆らえない。二つ返事でお前を売ったぞ」
「それであの患者はどうなった」
「灰色の車が来て引き取って行った。警察に押し戻した連中も全部引き取って行った」
「法医の爺さんが関係している組織らしい」
「あれは腐乱死体になるらしいぞ」
「婆さんが言ったのか」
「ババアではない。ババアは背負って階段を登らされた」
「それはまたお疲れ様だ」
「ところでジャージの後ろの方は?高校生のようだが」
「上司だ」
「へえ」
「じゃあな」
医局に寄って私物を収納し、マンションへ。
手当たり次第に収納した。朱様が手を伸ばすと部屋はチリひとつなく綺麗に掃除された。管理人に立ち会ってもらって鍵を返して、バイクに乗って神社へ。階段下駐車場でバイクを収納。白バイを見たような気がするが、すぐ後方へ置き去りだ。楽しい。収納も便利だ。
帝都大学武蔵西南総合病院泌尿器科 診療科長室
「おい、腐乱死体の話はどうする?」
「言っとかないとまずいか。知っていて言わないと後で危ないか」
「お前電話しろ」
「今度はお前がしろ、腐敗した組織を見ただろう」
「しょうがない」
電話すると法医の化け物はすぐ出た。
「榊原です。あの患者のことで。はいそうです。なんでも、腐乱死体になるとか。誰にと言われましても、噂話です。はい。では失礼します」
面倒だから切ってしまった榊原。
「おまえ、勝手に切ったろう」
「切らなければ根掘り葉掘りうるさいだろう」
「あの化け物は執念深いからな。俺は知らんぞ。お前が電話をかけたんだ。腐乱死体の話なぞ俺は知らんぞ。出口はあっちだ」
「あ、てめえ裏切るか。汚ねえぞ」
ドタバタ始める二人である。途中医局長がのぞいたが、またかという顔をして引っ込んだ。二人の名前の剛と強は漢字的にどちらが強いのだろうかと考えながら。今日の外科系の当直は誰だっけかなと当直表を確認に行くのであった。よくできた医局長である。