004 シン一行 武蔵西南市を観光する
一夜明けて、さて武蔵西南市観光だ。
店は大抵10時開店だから朝食後、時間があるからアカとお狐さんを連れて奥社まで行ってみる。坂道をゆっくり一時間ほど登った。奥社は壊れそうだ。今の状態が進まないようにしておこう。そのうち龍愛が力をつけたら直せばいい。
奥社から戻って少し時間潰しをして、今は宿舎と化している稲本さんの家を出る。もちろんみんな人化した。
僕とアカ、お狐さん、アーダ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ジェナ、チルドレン、マリアさん、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさん、ブランコ、エスポーサ、ティランママ、ティランサン、アイスマン、ジュビア、リン、エチゼンヤ夫妻だ。かなりの人数になった。
ついでに龍愛を連れていく。一人で置いといてもしょうがないからね。ドラちゃんとドラニちゃんと手を繋いでいる。嬉しそうだ。
お狐さんはまだ不安のようで帰らないから僕が抱っこしている。
ちょっと人数が多く、外人風の人が多い。認識阻害をかけておこう。都会の雑踏ですれ違うようなものだ。すれ違ったことはわかるがはっきりとは記憶に残らない。これでいいだろう。
階段をみんなで降りていく。階段を登ってくる人もいる。散歩方々神社詣でなのだろう。だいたい中年以上だ。たまにジャージを着た中学生や高校生と思われる人が駆け足で登ってくる。まだ春休みで学校が始まっていないから自主練かな。
おはようございますと挨拶される。もちろんおはようございますと挨拶しておく。
階段を降りたところが少し広くなっている。駐車場もある。
遠くからまっすぐ上り坂の参道が伸びてきて、階段下広場にぶつかって左右に山裾の道となっている。つまりT字路だ。T字路の角に土産物屋兼食堂がある。おばさんが店を開けていた。とりあえず参道を下ることにした。
シャッター通りだね。あまり開いている店はない。神具屋さんは神社があるからだろう。洋品店がある。学校の制服でかろうじて生き残っているのだろうか。あとは大衆食堂だな。喫茶店がある。昭和の雰囲気と薄れていた記憶が告げる。歩いている人は少ない。車もほとんど通らない。
大きな鳥居が道路を跨いでいる。参道の始まりだろう。鳥居を越えるとすぐ十字路だ。目の前の通りは車の通行が激しい。
観察ちゃんが右に行くと学校があり、その先をしばらく行くと家並みが途絶え、周りに何もないところにアエオンモールという店がたくさん集まっている場所があると教えてくれます。
「シン様、馬なしの馬車、馬がないから車か。車が多いですな。大抵一人しか乗っていない。無駄ですな」
ローコーさんのもっともな感想だ。
「アーダ、空気が悪いから嫌い」
排気ガスなどは僕らの星にはないからね。
お狐さんは音に驚いてさらにギュッと掴まってくる。
アーダとお狐さんを抱いて、バリアを張る。音は小さく、まわりの景色はぼんやり見える。見たければはっきり見える。空気は清浄だ。大丈夫だよ。
「アエオンモールに行ってみようか。地方都市だから街中は寂れているから」
「あの車というのに乗ってみたい。馬車とどう違うのか。しかし、小さいな」
「じゃあバスにしよう。道をわたって少し右側に停車場があるみたいだ」
観察ちゃんが映像を送ってくれる。バス停にアエオンモール行と書いてある。
「あの赤いランプが緑になったら縞模様のところを渡るんだよ」
緑になったらジェナとチルドレンが飛びだした。信号無視のダンプがジェナ達に突っ込んでくる。
アイスマンとジュビアがダッシュした。ジュビアがジェナたちの周りにバリアを張って、アイスマンがダンプをバリアで囲んでダンプの横に超高速でぶつかった。ダンプは巨大で厚い鉄板に殴られたようにひしゃげた。
面倒だからドラちゃんが運転者ごと消してしまった。アカが周りの目撃者の記憶、監視カメラ等を調整した。ダンプの走行記録、記憶は今朝の出発時点から今まで何処にも残っていない。
「この星は危ないわねえ」
エリザベスさんがニコニコしながら横断歩道を渡る。
「ここで待っていれば乗合車、バスというのが来るので待っていましょう」
「こんなに乗れるのかい?ワシの馬車ではとてもではないが乗り切れん」
「乗合ですから、前の停留所でたくさん乗っていれば乗れないでしょうが、今の時間は空いているでしょうから乗れるでしょう」
ローコーさんと話をして待っている。
ジェナとチルドレンはエスポーサから指導を受けている。なになに。
「もっと早く消してしまいなさい。そうすればアイスマンとジュビアに迷惑をかけなくて済む」
「わかったー」
なるほど大変な指導だ。まあいいか。子供を轢き殺すより自分があの世に行ってしまった方がいいだろう。ジェナ達は轢けないけど。
バスが来た。
「みんなポケットにICカードというものをいれておいたからそれを乗り口近くの機械にかざして乗るんだよ。降りる時も前の降り口付近に機械があるからそれにかざして降りるんだよ。アカをよく見ていてね」
アカを先頭にバスに乗る。幸い5、6人しか乗っていなかった。みんな座れた。僕らの話し声が漏れようにしておこう。
バスが発車した。
「次は武蔵西南学園前、武蔵西南学園前です。お降りの方は押しボタンでお知らせください」
「おとたん、誰も喋っていないのに声が聞こえるよ」
「機械が喋っているんだよ」
「ふうん、魔法じゃないんだ」
「この星に魔法はないんだ」
「つまんない」
「そうだね」
「これは馬もいらないし乗り心地もいい、便利な乗り物だな。ワシの商会にあれば儲かるな」
「便利だけど、これを作るのに星から資源を取り出し、走らせるのにも資源を使っている。走ればアーダではないが空気が汚れる。大量に作れば、大量の資源を使う。星を傷める。やがて資源がなくなる。星が傷ついたまま元に戻らなくなる」
「なるほどな」
「おとたん、馬の方が可愛いよ。これは唸って臭い空気を出しているだけだ」
「そうだね」
龍愛はじっと聞いている。
「ほら、龍愛、学園が見えて来た。あそこに行くんだよ」
「大きい」
「小学生から高校生までいるからね。建物が多くなる」
「龍愛、学校の事はなんにもわかんない」
「大丈夫だよ、ドラちゃんやドラニちゃんが教えてくれる」
「うん」
ドラちゃんに龍愛が撫でられている。
大丈夫かこの星の神。
「次はアエオンモール、アエオンモール。終点です。どちら様もお忘れ物ないようにお降りください」
「さあ着いたよ。みんな降りるよ」
「おとたん。ここはなに?」
「お店だよ」
「でっかーい」
「昔は僕らの星のように小さい店だったけど、どんどんなくなって、こういう大きい店になってしまった」
「何が売っているの」
「多分なんでもある。雑貨、服、靴、化粧品、電気屋、本屋、食べ物屋、それに映画館」
「映画館て、何?」
「観察ちゃんの映像があるだろう。ああいうものだよ。内容は、作っている。演劇のようなものだ。記録してそれを見ている」
「電気屋さんていうのは?」
「ドラちゃんが時々どっかーんとやるだろう。ああいうエネルギーをすごく小さくしたようなものを使って動く機械を売っている。だから星に帰っても使えないよ」
「わかったー」
ジェナはわかりがいい。
「みんな買い物して来ていいよ。そうだなあ。星に帰ってあまりおかしいというものは買わないでね。あ、収納は人のいるところで使ったらダメだよ」
「この星のお金だよ」
財布に入れて各人に渡した。大人は10万円とカード、子供は一万円。アカが子供に一万円は多すぎると申しております。いいのいいの。たまにだし。親神様からもらったお金だし。そのうちローコーさん達に稼いでもらおう。
「じゃあ昼頃この広場に集合だよ。たまに悪い人がいるから気をつけてね」