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038 帝都大学武蔵西南総合病院に婆さん巫女がやって来る

 シンとアカがのんびり授業を受けている頃、榊原病理部長の祖母が隣の県からやってきた。白衣を着せられて、孫の病理医と荒木田泌尿器科診療科長と一緒に手術した鬼頭の病室に向かう。


「お婆様、ここです」

 孫とは思えない丁寧な言葉遣いである。恐ろしいのかと思う診療科長。後輩の暇人ライダーがついて来る。


 一応荒木田が診療科長だから診察する。

 昨日よりやや腐った部分が広がっている。


 お婆様が患者に聞いた。

「何か言われたか」

「筒腐らしと言われた」

「そうか。これは天罰じゃ。心当たりがあるじゃろう。誰にも進行は止められぬ」


「治療はむだじゃ。さっさと警察に押し戻せ。そういうわけじゃ。孫殿、山城稲荷神社まで送ってくれ」


「俺は仕事があるから」

「俺のところのノコノコついてきた暇人に送らせる。お前行ってこい。バイクは駄目だぞ」

「えええ、それじゃタクシー代は払ってください」

「わかった。払うから領収書を持ってこい」

「それじゃ行きます。お婆さん行きましょう」


「わしはバイクでもいいぞ」

「え、ほんとですか」

 二人して足取り軽く消えた。


「お前の婆さんはすごいな」

「昔ブイブイ言わせていたらしい」

「へえ。それが巫女か」

「ちょっと俺の部屋に来てくれ」


 診療科長室

「おい、法医の爺さんから何か言って来なかったか」

「言ってきた」


「あれってこれが当たるのか」

「そうだな」


「連絡しておくか。しかしあれも化け物だな。いつまで生きているんだ」

「まだ70前だぞ」

「そうだっけ。昔からじじむさかったからもっと歳かと思った」


「早く電話しろ」

「待ってろ」


 法医の化け物は電話にすぐ出た。

「荒木田です。お久しぶりです。はい。元気です。この間連絡があった件で電話しました。ペニスの先が腐って、切り落としてもすぐ腐りました。榊原の祖母の巫女の見立てでは天罰だそうです。はい。そうです。入院しています。転院ですか。本人の了解があれば構いませんが。同様の症状の者が警察に22人、勾留されています。7人追加になりましたが族仲間なようで警察にいます。そうです。はい。わかりました。よろしくお願いします」


「厄介払いができた。すぐ組織の者が迎えに来るそうだ」

「組織の者は警察だろうか」

「わからねえ。あの化け物には必要以上かかわり合わない方がいいな」


 一時間ほどして灰色の車両が病院に迎えにきた。あっという間に転院手続きを済ませ、患者は灰色車両に突っ込まれて去って行った。


 警察署にいた残り29人も灰色車両に詰め込まれ去って行った。

 昨日から関係している警察官は、署長が真っ青になってペコペコしていたから何か上の方の組織なのだろうと思った。


暇人医者

「お主のバイクはどこじゃ」

「あれです。Ninja H2 SX。かっこいい」


「運転させろ」

「ええ、免許あるんですか。大型ですよ」

「昔とったからな。何でも運転できる」


「足がつかないんじゃないですか」

「お主がつけばいい」

「危ないんじゃ」

「うるさい。早く鍵をよこせ」

「ええ」

「だいじょうぶじゃ。こんな街中では楽しい走りはできん」


「今回は後ろに乗ってください。買ったばかりでまだまだローンが」

「しょうがない。後ろに乗るか」

 婆さんが後ろに乗って出発した。


「ほれ、もっと出さんかい」

「ここは40キロですよ」

「そんなものはどうでもいいんじゃ。前のチンタラ走っている車を抜け」

「追い越し禁止です。捕まるのは私です」


 ギャーギャー婆さんに言われたが安全運転で稲荷神社階段下駐車場に着いた。

「それじゃこれで」


「待て。ここの神主は神聖な山を削るなんてもってのほかだと抜かしおって、上に上がるには階段しかない」

「そうですけど」


「鈍い奴だ。おぶってけ」

「えええええ」


「なんじゃ。診療科長に言いつけるぞ」

「あれは貸があるから大丈夫です」


「それじゃ孫だ」

「病理医ですから関係ありません」

「組織の検査を頼むんじゃろう」

 くそババア。よく知っている。


「わかりました。おぶえばいいんでしょう」

「わかればいいんじゃ」

 長い階段の途中までおぶって上がった。


「おい、待て。降ろせ」

「はいはい。どうぞ」


「神の息吹を感じる。こんなことはあった試しがない。この頃この神社に何か変わったことがあったか」

「さあ。わかりません。ああ、友達が学校の教師をやっていて子供が神主さんのところに引っ越してきたとか言っていた」

「そうか。行くぞ」


 婆さん、スタスタと階段を登っていく。最初から登ってよと思った。

 逃げてしまおうかと思ったが神の息吹などというから面白そうだからついていく暇人医者。


 階段を上り詰めて、婆さんが礼拝している。

「お前も手を合わせんか。馬鹿者」

 へ、帰りは乗せてやるものかと思った。しかし、手は合わせておく。


 婆さんは社殿の前で祈っている。

「お前も祈らんかい」


「ええと、二礼・・・」

「そんなものはどうでもいいんじゃ。祈ればいい」

『早く婆さんと別れられますように』


「何を祈った?」

「家内安全」

「嘘っぽいの。まあいい。次はあっちじゃ」

 全然祈りの効果がないと暇人医者。


「あっちはどこですか」

「神主の自宅じゃ」

「へえ。私はこの辺で」

「待て、お主は帰りの足じゃ」

「やっぱり」


「なんじゃ、社殿より自宅の方がやばいぞ」

「やばいってなに?」


「拝め、馬鹿者」

「賽銭箱は」

「そんなものいるか。だいたいさっきも賽銭を入れんじゃったろう」

 ババアよく見ている。


 手を合わせる暇人医師。願うのはもちろん無事解放である。

「稲本いるか?」

 爺さんが出てきた。


「おお、榊原か、久しいな。そっちは孫か?」

「親切な、足じゃ」


「上がってくれ」

「上がれるか。ここは神域化しているぞ」


「そうか。玄関を入ってこられたからまあ大丈夫だ。そちらの足さんも大丈夫だ」


「アッシは宗形といいます」

「宗像さんも上がってくれ」

「カタはカタチです」

「そうかい、宗形さん、上がってくれ」

 律儀に言い直す稲本である。発音は同じであるが。


 応接間に案内された榊原婆さんと暇人医師宗形。

「どうしたんだ。稲本、腰と膝は。再起不能であったろう」

「再起不能はひどいな。治った」

「そうか」


 宗形医師が「腰と膝は、軟骨がすり減るので治りません」

「治ったものは治った」

「MRIを」

「余計なことをせんでええ。ここは神域だ。神に認められれば治るのは当然だ。お前は宗形だろう。一族の年寄りにでも聞け」

「????」


 稲本奥さんがお茶を持って来た。

「いらっしゃい。随分お久しぶりですね。こちらは」

「宗形だ。今ワシの足をしておる」

「足ですか。お疲れ様です」

 足になってしまった暇人医師宗形、不服である。


「それで、どうしてこうなった」

「少し前に神様からお告げがあった」

「ほう、それで」

「この星は危機に直面している。この星の神は幼く対応できない。幼神が助け神を頼んだので泊めるようにとのことであった」


「それでいらっしゃったのか?」

 そんな妄想話をするな、精神科の領域だぞ。危なそうだから逃げようとそっと逃げかけた宗形。


「宗形がここにいるのも神の思し召しだろう。手伝えということだ」

「うんうん」

 稲本夫妻が頷いている。


 冗談ではないと宗形。スマホが鳴った。荒木田診療科長である。しめたと思った宗形、スピーカーフォンにして、電話をとる。


「はいはい。急患ですか。すぐ戻ります」

「おまえ、大学病院から出向だったな」

「そうですが」


「教授から電話があって、お前は今から山城稲荷神社に出向になった。病院の施設は自由にしていい」

「は、はあああ」


「だから、山城稲荷神社で働けということだ。巫女にしては薹が立ちすぎているな。あはははは」


 乾いた笑い声と共にブチっと電話が切れた。スピーカーフォンにしたのが仇となった。皆に聞かれた。


 ピロリン。スマホが鳴ってメールが来た。

『ローン完済のお知らせ』

「バイクの、300万ほどのバイクローンが完済になった」

 放心の宗形医師である。


「良かったの。足確定じゃ」


 妄想爺婆グループの仲間入りも確定した。グループ名を変えなくてはと、しょうもないことを考える宗形であった。

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