037 中間テスト評価会議で教員がエキサイトする
中間テストに関する会議
高三の部
教員会議で一悶着あった。あまりに神と朱の成績が良すぎるのである。満遍なく全ての教科でダントツの結果であった。
二人を担当していない帝都大学出の秀才を鼻にかけている教員が発言する。
「この二人の成績は良すぎる。カンニングか何かをしているのではないか。こんなに成績が良いはずはない。おかしいのではないか。俺ではあるまいに」
自称秀才にうんざりしている二人の教科を担当している教師が発言する。
「本当は満点が取れる。目立たないように少し回答しないようにしたのではないか。それで先生並みだ」
暗に自分より上と言われた自称秀才カチンと来る。
「二人は満点を取れなかった。それは事実だ。それに百歩譲って、自ら回答しないとして、そんなこと許していいのか。学生は持っている実力を全力で発揮すべきでないか」
「あのう」
体育の山田教師が発言しかける。
「なんだ」
自称秀才が体育教師が何を言うかと睨む。
「山田先生、どうぞ」
毛色の変わった体育で雰囲気を変えようと思ったのか学年主任が発言を促す。
「神様と朱様は、人類の記録を簡単に打ち破れる能力の持ち主と思います。実力を発揮されたら困るのではないでしょうか」
「何を寝ぼけたことを言っている。実技の体育教師は黙っていろ」
黙っていた実技の音楽教師が発言した。
「音楽は実技試験であった。歌を歌っても良し、楽器を奏でても良しだ。その二人は、朱様が琴を弾き神様が龍笛で合わせた。とても人が演奏したとは思えない。音楽の神が演奏している気がした。我々人の音楽を遥かに超えてしまっていた。私と生徒はそれに耐えられなかった。うすれていく私の意識が神々が二人が奏でる音楽に惹かれ、お集まりになってきたとわかった。そこで意識が途絶えた。神様、朱様は神だ。少なくとも神が愛でる才能の持ち主だ。その才能を発揮されたら我々は耐えられない。紙の試験は所詮上限は教員が出した問題を全て正解した満点だ。それ以上はない。実技はそうではない。体育も音楽も上限はない。その世界を経験したことのないペーパー満点欠け教師は黙ってろ」
普段接点のない体育と音楽教師が同じような感想である。教科を担当している教員は頷いている。
自称秀才教員は憤然とする。
「何を。満足にペーパーで点が取れなかった屑の体育と音楽教師が」
音楽教師が反撃する。
「なんだと。ろくに運動もできず、歌も歌えない、女も寄りつかない、人生を謳歌できない、運痴で音痴のただの点取り眼鏡野郎が」
慌てた学年主任、これは日頃思っている本音が出てしまった。仲裁不能だろうと、解散を目指す。
「まあ、その、神様と朱様が優秀なことはわかったので良しとして、今日は時間も押して来ましたので、この辺で終わりにしたいと思います」
エキサイトした教員たちはお互いそっぽを向いて出ていった。
「先生、ペーパー秀才にはわからないですよ。山田も俺も二人には一目で位負けしましたが、風も吹かない、温度変化も緩やかなハウス栽培のような点取り秀才には人の位は理解不能でしょう。理解したらポキンと折れてしまう。二人に近づけないようにして放っておけばいいのでは。二人は幸い高三で来春卒業してしまいますから少しの我慢です」
竹田教員に慰められる学年主任であった。
「ああ、それにあいつは試験で点は取れたろうが、それまでだ。自ら新しいものを生み出せない。大学に入ってただの点取り屋にすぎなかったとわかって愕然としたのだろう。そこから鬱屈を始めて、createできないから、知識があれば務まるだろうと思って高校の教師になっている。不本意であるが高校教師になるより仕方がなかった。単なる点取り秀才に過ぎなかったと認めるのも悔しくて、バカになれない。運動ができたり歌が歌えたりすれば楽しく過ごせたろうにそれもできない。女とよろしくやっている男を眺めてウジウジしている。石鹸ランドに行けば一皮剥けるかもしれないがそれもできない。拗らせドーテー三十路男だ。もう少しで四十だ。教員も先生と呼ばれるからには本当は知識だけあったのではいけない。生徒を人として理解して、向き合わなければならない。人が好きでなければならない。あいつにはそれが欠けている。本当は先生をやってはいけない人物だ。主任も大変ですね。あれは危ない」
なかなかよくわかっている三流大学出の意外と賢い竹田教員であった。
小学の部 5年生
学年主任が会を始める。
「ええと荒木田先生のところの龍姫さんの成績は抜群でしたね」
「はい。抜群です。三年の龍愛ちゃんを見てくれて龍愛ちゃんも数日で信じられないくらい進歩したそうです」
「それは良かった。噂では龍愛ちゃんは何もわからなかったみたいね。大したもんだわ」
「はい」
「他のクラスはどうかな」
こちらは何事もなく会議は進行した。
小学の部 3年生
学年主任が会を始める。
「ええと大井先生のところの龍華さん、龍愛ちゃんは成績良かったわね」
「はい。龍愛ちゃんは転校初日はほとんど何もわかっていませんでしたが、数日でよく理解するようになりました」
「不思議よねえ。どうしたのかしら」
「5年の龍姫さんが教え込んでくれました」
「何もわからない子に数日で授業が理解出来るようにしたのね。教育方法を教わりたいわ。数日でそんなに学力が上がるものかしら」
「龍姫さんが家でゴンゴン叩き込んだようです」
「なんだか比喩に聞こえないわね。大丈夫?虐待とか」
「大丈夫です。龍姫さんは、龍愛ちゃんの父親に厳しくやってくれと頼まれているようです」
「厳しくねえ」
「それに龍愛ちゃんは丈夫で学校で龍華さんがゴンゴンやっても涙目にはなるけど痛くはないみたいでたんこぶなどもできず、気分はすぐ回復します」
「ううん。怖い話ね。あまり言わないでね。虐待と思われてしまう」
「はい。クラスの中は大丈夫です」
一ヶ月前には大井先生からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。どうなっているのだろうと学年主任。
「そういえば、大井先生のクラスは大変だって話だったけど、このごろは全体的に成績が上がり大丈夫そうね」
「はい。龍華さんと龍愛ちゃんが来てからみんな静かになり、協力的になりました」
龍華さんが怖いのだろうとみんな思った。泣き虫大井先生がのほほん大井先生になってしまった。龍華さんは偉大である。さん付けで呼ぶ所以である。