035 警察は真っ裸な男23人を確保するも男たちは病気になる
県警通信指令室
110番通報があった。数十人の不審者が公園に集まっているという通報だ。名前も何も言わなかったが、ディスプレイ上の地図には武蔵西南市の山の上の公園が示されていた。念の為付近のパトカーと近くの警察署に出動を指令した。
まもなく、真っ裸な男23人を確保したと連絡があった。薬物パーティーでもやっていたのかと指令員は思った。一応一件落着なので次の通報に対応して、真っ裸案件は意識から外した。
警察署
地方都市の警察である。真っ裸で23人確保したが、困惑である。
現場検証では、バイクがバラバラに切り刻まれている。車一台もそうだ。
鋭い刃物でスパッと切られたようだ。切り口は真っ平。ありえない。
切り口は普通は筋がついていたり凹んだりしているものだ。磨いたように真っ平な切り口であり、少しの凹みも歪みもない。
スパッと、という言葉がこのくらい当てはまる切り口はこれまで見たことがなかった。最初から切られた状態で存在していたということならまだわかるが。
そして布の切れ端が風に舞っている。大半は風に飛ばされてしまった。
「布はどうする?」
「飛んでいってしまったものはなあ。困ったな」
「これはどうする?」
バイクと車の残骸を指さして警官が仲間に聞いた。
「どうすると言っても、みた通り記録するより他にない」
「そうだが、こんな切り口、あり得るのか」
「上に聞いて見ないと。片付けていいものかどうか」
署に問い合わせたがうまく処理しろと言われただけであった。今日は地元の団体と飲み会なので気もそぞろな幹部であった。
困ったが現場写真をとって、立ち入り禁止の黄色いテープを張って放置して忘れてしまった。
警察署では真っ裸な男にとりあえず灰色のスエットを貸し出した。23着などないから、服が行き渡らなかった男には当直用のシーツを配った。
今の所、公然わいせつの疑いで逮捕である。取り調べは緩い。
鬼頭元理事長の倅がいたが、鬼頭元理事長は目下刑事裁判中の過去の人である。鬼頭の倅かで終わってしまった。
「それで、お前らは何をしていたんだ」
「いや、ああ」
「何をしていたと聞いている」
「族の集会」
「それでなんで裸だ」
「うう。あのう。裸になりたかった」
「バイクと車が切り刻まれていたがどうしたのだ」
「ああ、わからない」
「わからないとはどういうことか」
「狐面をつけた子供が棒で切った」
「寝言を言うな。子供が棒で切れるわけがない」
「服はどうして切り刻まれていたのか」
「ああ、服を脱ぐのが面倒だったから切り刻んだ」
「嘘をつけ」
「子供が棒で着ている服を切り刻んだ」
「この嘘つきが。狐面の子供が棒でバイクと、車と、服を切り刻んだというのか」
「ああ。本当だ」
それっきり、ああ、本当だを繰り返す族たち。暗礁に乗り上げた警官である。
「トイレに行かせてくれ」
何人もから申し出があった。
真っ裸だったから冷えてそれもそうだろうとゾロゾロと腰縄付きでトイレに連れて行った。
小便器の前に立った鬼頭が悲鳴を上げた。
「ぎゃー、痛い、痛い」
「こいつ、逃げるか。迫真の演技だ」
集団逃亡かと思ったが、床を転げ回っているのを見ると違うようだ。それに、ナニの先がドス黒い。
「おい。どうした」
「助けてくれ、助けてくれ」
普段は熱?水でも飲んどけだが、警官も男である。ナニの先がドス黒くては被疑者といえども一大事だ。
「おう、わかった。医者に連れて行ってやる」
ただ田舎警察である。薬でも塗ってもらおうと手近な医院に連れて行った。
医者は患部をみて首を捻った。
「わからん。腐っていることはわかった。原因はわからん。紹介状を書くから泌尿器科のある帝都大学武蔵西南総合病院に行ってくれ」
患者第二陣がやって来た。全く同じ症状だ。医者は面倒だから一枚の紙に患者の名前を連名で書いて紹介状を作って警察官に渡した。警察官は腐っていると言われたので、警察署に連絡してその場から警察車両で紹介状の総合病院に連れて行った。
帝都大学武蔵西南総合病院
ゾロゾロやって来た腰縄付きの暴走族。患部が患部なのでおとなしい。人権などという奴はいない。そんなことで騒ぐより治療をしてもらいたい。
すでに時間外診療となってしまって、救急外来で受け付けた。担当は2年目の研修医である。
二十数人同じ症状ということで感染症を疑い、すぐ普段の診察室とは別の感染症用の診察室に案内した。2年目の研修医と看護師は感染症対策の防護服着用である。
診察するが、皆同じ。ペニスの先が腐っている。血液検査をしたが何も出ない。患部以外の自覚症状もない。
病理組織検査は、正常な組織はない。異常な組織もない。腐敗と回答があった。病理部はふざけているのかと思った。
困った研修医、指導医に助けを求めた。指導医が来たが、指導医でもわからない。
指導医は泌尿器科の外来医長を呼んだ。医長もわからない。診療科長を呼んだ。
「なんだ。大変な病気か?」
「それが、23人。ペニスの先が腐っています」
「なんだと。23人もか、感染症か?」
「それが血液検査では何もでません。病理からは腐っていると報告があっただけです」
診療科長が患部を診るが確かに腐っている。
「原因はわからんが、これは放っておけばだんだん腐っていきそうだ。切るか?」
「患者の了解を得ないと」
「それはそうだ」
待合室で待っていてトイレに行きたくなった暴走族。
「トイレに行かせてくれ」
腰縄付きでトイレに連れて行った警官。再び絶叫がトイレから響き渡る。
「おい、なんだ。行くぞ」
外国で野戦病院を経験している診療科長、トイレの手前の廊下の角まで急行する。廊下の角から顔を出し慎重にトイレの辺りを観察する。そっとトイレの入り口に近づき細めにドアを開けて中を覗く。
トイレでは患者が転げ回っている。
「痛い、痛い。助けてくれ」
「原因はわからない。できることは腐っている部分を切り落とすことぐらいだ」
「切ってくれ。切ってくれ。頼む」
「よし。手術室を確保しろ」
看護師が急いで出て行く。
「ストレッチャーを持って来い」
「そんなに数はありません」
「まずは一人切ってみよう。同意書を用意。説明してサインしてもらえ。あとはここに転がしておけ」
「俺からやってくれ。俺は鬼頭だ」
「いや俺だ。俺は族のリーダーだ」
「どっちでもいい。ジャンケンでもしろ」
鬼頭が勝った。
診療科長は鬼頭を乗せたストレッチャーを押して手術室に向かった。
警察官はオロオロ。警察署へ連絡するも幹部は飲み会である。良きに計らえと酔っ払い署長の返事であった。
暴走族がゴロゴロしているトイレは暴走族ごと閉鎖した。だいぶ密度が高い。




