032 理事長宅に挨拶しに行く
さて時間つぶしに理事長の自宅に行きますか。
観察ちゃんが案内してくれます。新市街だ。大きな家だ。業務上横領かな。
インターホンを押す。はーいと応答があった。お手伝いさんだろう。ふむふむ。お手伝いさんは学園の職員でしたね。へえ。
「どちら様ですか」
「龍組の神と申します。理事長にお会いしたい。先ほどアンポン組から電話があった龍組と言ってくれればおわかりになります」
「安本組です」
アカが訂正してくれる。
「少しお待ちください」
奥の方で話をしている。
「どうする。安本組が手付まで返した龍組だぞ」
「そんなこと言ったって知らなかったわ。安本組が手を引くような組だなんて」
「しらばっくれているとまずいだろう。お前出てくれ」
「安本組を使っているのはあなたじゃない。私は知らないわ」
インターホンを押してやろう。ピンポーン。
返事がないねえ。ドアをノックしよう。さっきと同じだ。
トントンと叩く。返事がない。ドンドン。返事がない。
それでは、ガンガンガンガンガンガン。
「お、お礼参りか」
「あなた出てよ。押し入ってくるわよ」
「警察へ電話しよう」
「まずいわよ。安本組との繋がりが表に出てしまう。出てよ出て」
出て来た、出て来た。ドアガードがかけてある。
「こんにちは」
「こんにちは」
「お話があるのですが」
「ありません」
「こちらにはあります。中に入れてくれますか」
「おかえりください」
ぐいっとドアを引く。ドアガードが壊れた。
「ヒッ」
「どうも。神です」、「朱です」
「・・・・」
小太りちょび髭理事長だな。
「中に入れてくれてありがとうございます」
睨んだら応接室に案内してくれた。
「お元気そうですね。ドリンクは効きましたか?もう一本いかがです?」
「何故知って・・・」
「何か用があるそうですね。安本組を仲介にして。安本組は仲介を断ったようですが」
「安本に頼んだのは、奥さんですか?」
「いいえ、私は違います。夫がかってにやりました」
「そうですか。安本組がどういう組かご存知でしょう?今まで仲良くしていろいろ仕事を頼んでいたのですか?」
「いや、それは」
「だいぶ立派なお家ですが、補助金が使われているんでしょうか」
「いや、・・」
「二人いるお手伝いさんは学園の職員のようですが」
「今日たまたま手伝ってくれていただけで」
「そうですか。こちらに寝泊まりしているようですが」
「いや、もう引き上げるところです」
「明日にはいないのでしょうね」
「もちろんです」
「補助金はたいへんですねえ。不正があって取り消しが行われたら返還するようですね。加算金つきで。刑事罰もあるし」
「・・・・・」
「それで僕と朱に用がありますか?」
「ありません」
「そうですか。それでは失礼します。玄関の経年劣化したドアガードの修理はご自分で修理費を出した方がいいですよ。だいぶ家賃を払っているんでしょう。まさかタダで住んでいるのではないでしょうね。電気、ガス、水道はご自分で払っているのでしょうね。それとも現物給与でしょうか。」
「・・・・」
「立派なお車が車庫に停まっていますが、学園のいわゆる公用車のようですね。こちらも家と同様現物給与ですか。税金はどうなっているのでしょうか。税務署はどこでしたっけね」
「あれはたまたま停まっているだけで、すぐ学園に戻ります」
ピンポーン。
「ちょうど事務局長がおいでになったようです」
事務局長が入ってくるまで待った。
「こんにちは。事務局長さん。理事長がお話があるようですよ」
「はい。なんでしょう」
「家にいる職員は、今日学園に戻る。ここは速やかに引き払う、車は乗って帰ってくれ。理事長は辞める。速やかに手続きしてくれ」
「評議員会、理事会を開くようですし、すぐと言うわけにはまいりません」
「早くしてくれ。税務署が」
「は。なんですか?」
事務局長はとぼけている。
「いや。なんでもない」
「では車は乗って帰りましょう。鍵をいただきましょう。引越し業者は市内に何軒かありますので、こちらに来るよう声をかけておきます。見積もりを取ったらいいのではないでしょうか」
「僕らは帰ります。お元気で」
それからしばらくして理事長に税務署からお尋ねがあり、税務調査が行われ、脱税が発覚し、悪質なので逮捕された。重加算税を含めてだいぶお支払いになったようだ。
学園は、理事長の住んでいた家について補助金の不正受給となり、加算金も含め返還した。理事長を懲戒解雇、退職金は支払われなかった。お手伝いさんは理事長の家を出てすぐ辞めた。見切りが早かった。退職金は支払われた。




