031 探偵社と安本組に挨拶する
尾行の人がどうしているか見てみよう。忘れていたのではありません。
今日は尾行氏は休みだ。雑居ビルの2階の武蔵東西探偵社と窓に書いてある事務所にいる。行ってみよう。
窓から見えるところにアカと立つ。観察ちゃんが窓を叩いてくれた。男が窓際に来てブラインドの隙間から外を見ている。こちらを見た。手を振ってやろう。
尾行氏が慌てて窓から離れた。ご挨拶に行こう。
雑居ビルに入って階段を登って2階に。武蔵東西探偵社とドアに書いてある。インターホンを押した。カメラ付きだ。出てこないなあ。それではドアをたたく。
トントン。出てこない。ドンドン。出てこない。ガンガン。出てきた。
「こんにちは」
「なんの用だ」
「仕事のことで」
「話すことはない」
「足を挫いたでしょう。お見舞いに」
「結構だ」
「医者に行きましたか」
「余計なお世話だ」
「中に入れてくれます?」
「ダメだ」
ちょっとドアを引いたら探偵さんつきでドアが開いた。
「ありがとうございます」
アカと室内に入る。
「出てけ」
「入れてくれてそれはないでしょう」
「警察に電話するぞ」
「どうぞ。警察がきたら困るんじゃないですか。あなたもいろいろあるでしょう。隣の部屋にいるお友達のその筋の人たちとか。ご承知と思いますが僕らもこの間警察と懇意になりましてね。警察を呼びましょうか」
「いやいい」
「そうですか。今日は日曜なのに出勤して、その筋の人と作戦会議ですか。その筋の人の事務所に挨拶に行きましょう。三階のようですね。案内してくれるかなあ、隣の部屋の人」
「ふざけるな」
髪の短い人が二人出てきた。
「案内していただけるようですね。行きましょう」
「野郎」
沸点が低い人だ。腕を後ろ手に捻りあげた。
アカは男が腰の後ろに刺していたドスを抜いて男に突きつけている。
「では三階に行きましょう」
男たちに三階に案内してもらった。
安本組武蔵東西支部と看板がかかっている。看板は簡単に外せるようになっている。何かあったら外すのだろう。
ドアを開けると2、3人屯していた。
僕が教えてやる。
「お客ですよ」
「兄貴、すまねえ」
案内してくれた二人は兄貴の方に行ってもらった。勢いつけて。兄貴の座っている机にぶつかった。グエと言っている。
アカは持っていたドスを投げた。兄貴の後ろの柱にかけてある偉そうな方の写真の額にブッスリと刺さった。
「何をする」
「その人たちはつまずいたみたいですよ」
「ドスはお返ししました」
兄貴はチラッと写真に刺さったドスを見た。
「その人たちが二階の探偵社の人とぼくらとどう接触するか考えてもまとまらないようなので、来てみました。何か用ですか」
「用はない。今手を引く」
兄貴が電話した。相手は理事長だろう。
「龍組から俺たちは手を引く」
龍組になってしまった。名前に龍が多いからだろう。龍の代紋でも作るかな。
理事長が慌てているようだ。
「手付けは返す。じゃあな」
「おい。手付けは返してこい」
「へい」
使いっ走りが隣の部屋に行って紙袋を持って出かけて行った。
「聞いた通りだ。すまなかった」
「いいですよ。楽しみました。では失礼します」
「昨日渋谷に行ったか?」
「ん?」
「いや、忘れてくれ」
僕はいたずらに騒ぎを起こさないのだ。大人しく部屋を出た。部屋の中から聞こえる。
「兄貴、良いんですかい?」
「叔父貴の写真に刺さったドスをみろ。根元まで刺さっている。コンクリートだぞ。俺たちのかなう相手ではない。チャカでもダメだろう。それと昨日叔父貴が亡くなった。渋谷の店にいたところをやられたらしい。テレビでやっていたな。暴力団の抗争事件で全員死亡だそうだ。抗争なんてない」
「何があったんでしょうか」
「わからない。何も漏れてこない。いつも情報を流してくれる警官もぴたりと口を閉ざしているらしい。おかしい。遺体も戻ってこない。司法解剖だと言っているが」
「叔父貴の写真の額にブッスリとは謎かけですか」
「わからないが、龍組とは関わり合わない事だ。うっかりすると写真の通りだ。女子高生が投げたのだぞ。誰も信用しない。殺され損だ」




