028 シン一行 渋谷に行く
それから数日何事もなく過ぎた。
龍愛は長足の進歩をしてすでに高校二年までの課程を修了した。
奥駈も神社裏から大峯奥駈道に転移して走っていると観察ちゃんが言っていた。えらいえらい。でも背は伸びない。すっかり末っ子ポジションが気に入ってしまったようだ。
勉強と朝練、夕練以外は甘やかしてくれるお姉ちゃんたちである。お姉ちゃん、お姉ちゃんといって龍姫と龍華の後をついていく。
土曜日。今日は休日である。東京へ行ってみるのだ。
僕と朱、龍姫、龍華、龍愛で神社を出る。途中舞さんと合流、円さんもいた。へえ。
参道を降りて大鳥居を潜って今日は学園と反対がわの駅方面へ。駅はなんと山城稲荷駅だ。
感心して駅舎にかかっている駅名をみていると肩を叩かれた。宗形さんだ。帝都大学に用があって、一緒に都内まで行こうと円さんに誘われたと言っていた。大井先生もいる。大井先生は気晴らしに円さんが誘ったのだそうだ。へえ。大所帯になった。
僕とアカはポケットに入っていたICカード乗車券で駅に入った。
電車を待つ間に宗形さんが鬼頭がどうなったか話してくれた。骨折箇所をプレートで繋いだそうだ。リハビリを含めてだいぶかかりそうだという話。あれ、守秘義務は。いいんだろう。知らん。
電車は空いていた。朝が早いからね。朝練が終わって出てきたから皆座れた。座れなかったのは尾行の方だ。今日も尾行、ご苦労様である。渋谷まで一時間ほどだ。
宗形さんとは渋谷駅で別れた。僕ら一家はお上りさんだからね。ハチ公を見にいく。
駅を降りてハチ公に会いにいく。龍愛がハチ公を撫でてやる。
ハチ公に教えてやろう。先生はもう来ないよ。空でハチを待っているよ。さあ行きな。ハチの魂が一生懸命尻尾を振って天に昇っていく。ありがとうってお礼を言われた。
見つめていた龍愛。
「龍愛、犬飼いたい」
「この頃一生懸命やっているからね。うちに帰ったら連れてきてやるよ」
「うん。お兄ちゃん。ありがとう」
お兄ちゃんになってしまった。
ハチ公に会ったので、円さんと大井先生は二人で買い物に行った。一応、昼頃集合とした。龍姫と龍華、龍愛は三人で走って行った。電車に乗っているのが退屈だったらしい。
残ったのは僕とアカと舞さんだ。尾行さん付き。面倒だからまいた。僕らが建物の角を曲がったら、尾行の人が靴が脱げて転んでしまった。おまけに足を捻挫したらしい。動けなくなった。ご苦労様。昼頃集合と聞いていたはずだから昼頃またハチ公のところに来るだろう。
三人でゆっくり渋谷の街を歩く。都会だねえ。武蔵西南市のほうがのんびりしていていいな。
「ちょっとそこの三人」
声をかけられた。
「はい。なんでしょう」
「私は、こういうプロダクションをやっているのですが、モデルになって有名になってみませんか」
名刺を出してくる。
「いえ。結構です」
「そんなこと言わずに、そこの店で話しましょう」
まあいいか。暇だし。
店と言ったが分厚いドアで高級クラブのようだ。
舞さんが後退りしている。
「大丈夫です」
舞さんが恐る恐るついてきた。
店の中に入って座るとすぐジュースが出てきた。睡眠薬入りの。若い女性を連れ込んでは睡眠薬を飲ませ暴行し、薬物中毒にして、客を取らせるらしいよ。男は男で、中年おばさんの相手をさせられるらしい。やだねえ。
「喉が渇いたわ」
「そうだね。せっかくだからいただこう」
三人でジュースを飲んだ。
しばらく、自称プロダクションの人からモデルの話を聞いた。
舞さんが居眠りを始めた。
頃合いだな。
「おかわりはいただけますか。しばらく歩いていたんで喉が渇いて」
ジュースが出てきた。
「あれ、今度は入っていないわ」
「そうだね。睡眠薬をケチったのか」
「眠ったふりをしなくてはいけないのかしら」
「そうだなあ。眠いなあ」
「お前ら、ほんとに眠くならないのか」
「そうですね。眠くありません。ジュースはなかなか良かったですよ」
「あたり前だ。フレッシュジュースだ。清涼飲料水ではない。商売物だ」
「ごちそうさまでした」
舞さんにはバリアをかけておく。
「そんなことより、おい」
黒服が囲んできた。
「みなさんはだいぶ悪いことをしているようですね」
「だったらどうしたというんだ」
「報いを受けてもらいます」
「おい、ひん剥いて何時もの一コースだ。ビデオを用意しろ」
「ヒーヒー泣け。ここは完全防音だ。遠慮するな」
「そうですか。完全防音ですか。手間が省けますね」
せっかくだから僕とアカは狐面をつける。
「変な仮面をつけて、やれ」
手を伸ばしてきたので引っ張ってやった。あれ勢いがつきすぎた。壁にぶっつかった。
アカがにこにこしている。
何人か襲ってくる黒服を投げ飛ばした。
「久しぶりに運動ですね」
「そうだけど、手応えがないな」
「おっと、拳銃を持ち出したよ。二丁だ」
撃ってきた。やりすぎはいけないねえ。
手刀で拳銃の弾丸をスパスパ切る。アカが拳銃を手ごと握りつぶした。僕も握り潰す。悲鳴が響き渡るが完全防音だそうだから気にしない。
ほどなく全員床に這いつくばった。うめいている。
さてと、薬物、注射器、書類など全部持ち出してカウンターに並べておく。しまってあるのを持ち出す過程でだいぶ部屋がメチャクチャになったがいいだろう。
アカが空中にスマホを作った。
「110番してあげます」
呼び出し音が鳴って、
「警察110番です。事件ですか、事故ですか」と聞いてくる。
僕がうめいている男の足を踏んでやる。ボキッと音がして悲鳴があがった。もう一度隣の男の足を踏んだ。また悲鳴が上がった。もう十分だろう。位置情報もきちんと送った。アカがスマホを消す。
指紋は最初から残っていないからね。防犯ビデオにも僕らは映っていない。こいつらの記憶は狐面しか残っていない。狐面が宙に浮いているというわけだ。舞さんの記憶はない。それでは、失礼しよう。おっと、筒腐らしだ。
「この国には筒枯らしというのがあるそうですね。敬意を払い筒腐らしと命名しました。筒腐らしを楽しんでください。筒腐らしと言ってもなんだかわからないでしょう。見本を一人。時間は縮めてあります。残りの皆さんはゆっくり楽しめます」
一人の男の服を消した。あそこの先から腐っていく。たちまち股まで進んであっという間に腐乱死体になった。うめいていた男たちは声を呑んだ。
救急車で来た人によくわかるようにみなさんの服は消しておこう。
「それじゃみなさん。ごきげんよう」
こいつらが今までに関係したビデオ、画像などは一切消した。




