026 シン 校長に呼ばれる
学校が終わり舞さんと三人で帰る。
「今日はなかなか忙しかったな」
「はい。楽しい一日でした」
「・・・・」
「鬼頭のボクちゃんはどうしたかな」
「手術は終わっているでしょう」
「見舞いに行くか」
「よした方がいいと思います」
舞さんが真っ当な意見を言う。
「そうか。前を行くのは取り巻きさんだな。おーい。君たち」
振り向いて、こちらを確認するとパラパラと逃げて行った。全速力であろう。ご苦労なことだ。
「嫌われたみたいですね」
「そうだなあ」
「あのう、鬼頭の親は理事長です。警察署も融通をきかせていて、鬼頭が起こす小さな事件をもみ消していました。大丈夫でしょうか」
「今回は、救急車が出動して総合病院に連れて行かれてしまったから、もみ消すのはなかなか難しいでしょう。それにあの宗形先生、強いから診断書の偽造も難しいでしょう。明日は理事長に呼ばれるかな。校長かな。副校長かな。楽しみだ」
「宗形先生はお姉ちゃんの高校の時の同級生です」
「神社に招待しておいたんですが、お姉さんも一緒に遊びに来てください。もちろん舞さんも」
「はい。言っておきます。それじゃあまた明日」
「また明日」
神社の階段下に着くと、今日は龍愛が龍姫の後をついて駆け降りてくる。さすが腐っても神。成長が早い。
その日は、龍愛に小学校卒業までの課程を叩き込み終えたとドラちゃん。
翌日、朝練を見ていると、ドラちゃんとドラニちゃんについて階段を二、三段飛ばして上り下りできるようになった。まだ飛び降りる時少し不安があるようだ。夕方には解決するだろう。
理事長や校長、警察からお呼びがなく、平和な一日がすぎた。
夕練の階段の上り下りを見ていると、二、三段問題なく飛べるようになった。明日には上から下まで飛べるだろう。よしよし。
夕飯後、龍愛はめでたく中学の課程を叩き込まれた。習得スピードがだんだん早くなる。結構結構。
予定を変更して高三までやろう。
翌日の朝練の時、龍愛は階段上から下まで飛び降りられるようになった。なかなかの進歩だ。夕練は、奥社まで奥駈としよう。
今日も舞さんと三人で登校。
朝、ショートホームルームの時、校長からお呼び出しがあると連絡をいただいた。楽しいな。一時間目は出なくていいそうだ。では行こう。担任の竹田先生と。
校長室は、入学の時に来た事務棟の二階、理事長室と隣同士だ。学校の教育の責任者は、高校、中学、小学のそれぞれの副校長だ。呼び出しは副校長でもいいのではないかと思ったが、校長だそうだ。
「失礼します。樹乃神、朱を連れて来ました。それでは失礼します」
「待て待て、担任も一緒だ」
「授業が」
「一時間目に授業がないことはわかっている。座りなさい」
「はい」
渋々座った竹田先生。
「樹乃神君、朱君は、学校に慣れたかね」
「はい。皆さん親切にしてくれます」
「それは良かった。鬼頭さんは知っているだろう」
「理事長は会ったことはないです」
「いや、生徒の方だ」
「ああ、僕を殴った鬼頭さんですか」
「理事長の倅なんだ」
「はいはい」
「それで、なるべく問題を起こさないようにしてもらえないか」
「シンは何もしていません。殴られたくらいですから。校長先生は事件の詳細をご存知でしょう?」
「事件か」
「そうです。シンを殴った傷害事件です」
「僕はなるべく穏便に済ませようと思っています」
「困ったな」
「先生もそろそろ覚悟を決めた方がいいですよ。いつまでも誤魔化しは出来ません。その時が来たらどうするのですか。ご家族もいらっしゃるのでしょう」
「ああ、まあ」
アカが追加する。
「綻びが見え始めると早いですよ」
「そうか。ありがとう。教室に帰って良い」
「竹田君は残ってくれ」
一緒に戻ろうとした竹田先生。残念であった。
「どう思うね」
「どうと言われてもなんでしょうか」
「二人のことだ」
「いままで担任したどの生徒とも異なっております」
「どう違うのだ」
「測れないです。学力も人間も計測不能です」
「そうか。そう言う人物が二人同時に現れたことは何か意味があるのかもしれないな。ありがとう。戻って良い」
「覚悟を決めた方が良いか。書いておくか」
呟いて辞表を書き始めた校長であった。
その日は、それ以上のことはなかった。
帰りはいつもになった三人である。
「尾行ありだねえ」
「下手ね」
「え、何?」
「僕たちの後をつけてくる人がいてね。あ、振り向かないでね」
「だれが派遣したかなと思っているんです」
「泳がせておきましょう。費用がかかって面白い」
「そうですか」
「ところで、僕たちは東京に行ったことがないのですが、今度の休みに一緒に行きませんか」
「行きます」
「案内してくれると助かります」
「渋谷がいいです。忠犬ハチ公という像があるそうですね」
「駅を降りてすぐです」
「そこに行ってみたいと思います」




