024 理事長夫人は警察に押しかける
帰ってしまった高校生二人。
警官は、理事長の倅を見に整形外来に行く。手術となったと言われてすごすごとパトカーに戻った。
「どうするよ。手術となると親がうるさい。絶対理事長から署長に電話がかかってくるぞ」
「とりあえず学校に戻ろう。他の生徒から事情を聞いてみよう」
学校に戻って、山田先生と竹田先生を引っ張り出し、目撃者の情報を集めた。皆一様に鬼頭が朱に付き合えと言って断られたから神を殴ったと証言した。
竹田先生は、うちの生徒は被害者のようだと逃げた。
困った警官と山田先生。
警官は、神が加害者で理事長の倅が被害者ということにして簡単に終わると思ったが、鬼頭理事長の倅の暴力行為の目撃者が多数いた。いかに理事長の倅といえど誤魔化せない。で、挙げ句の果てが理事長の倅が拳を手術中である。神という生徒は穏便に済ませると言っていたが、理事長夫妻が怒り狂って警察に押しかけるだろう。
山田先生は、神が加害者で坊ちゃんが殴られた、神は警察に逮捕されたと理事長に報告してお褒めに預かりたかったが、様子がまるで違う。叱責されそうである。
警察官は、早く戻って来いと警察無線で言われたが、帰りたくないからなるべく遠回りして警察署に戻った。
警察署に着くと案の定、署長室に呼ばれた。病院を抜けて来たらしい理事長夫人に睨まれて署長が青い顔をしている。
「うちのボクに怪我をさせた神を逮捕しなさい。すぐ行け」
「奥様、一応事情を聞きましょう。おい説明しろ」
「はい。生徒同士の喧嘩と通報があり、現場に急行中、ご子息が救急車で病院に向かったとの連絡を受け、何はともあれご子息の無事を確認しようと病院に向かいました」
「当たり前でしょう」
「病院に着いたところ、救急外来でご子息が拳の怪我で診察中とのこと、ご無事を確認し、一緒にいた生徒から聞き取った加害者と思われる樹乃神という生徒を確保しに学園に向かいました」
「それで」
「学園でご子息の友達から事情聴取、神が殴ったと証言がありました」
「そうよ。すぐ逮捕しなさい」
「それが、神の事情聴取をしたところ、神が鬼頭様に殴られたと証言しました。頬にあざがありました。それでもう一度、お友達に事情を聞くと、一人が神が鬼頭様に殴られたと証言を変えました。他の友達は黙秘し、最初の証言者も黙秘に転じました」
「脅迫したのよ」
「頬にあざがあったので、病院に連れて行き、鬼頭様を診断した救急外来の女医のところに連れて行きました。そうしたところ、鬼頭様は整形外科に紹介したと言われ、神は打撲で全治二週間の診断書を渡されました。お金がかかっているんですが」
「そんな診断書はもみ消しなさい」
署長が解説する。
「あの病院は、病院長は軟弱ですが、医者は武闘派が多いと評判で一度出した診断書を揉み消すのは難しいかと」
「診断書を書いた医者は誰だ」
「診断書には宗形薫と書いてあります」
「脅せ」
署長が再び解説する。
「それが武闘派の一味で、過去に何回か事件があり診断書を依頼しましたが、診断書はこちらに都合の良いようには書いてくれませんでした」
警官が続ける。
「それで学園に戻り、鬼頭様、神の双方の担任立ち合いのもと目撃者に事情聴取しましたが、一様に鬼頭様が神の連れの女に付き合えと言って断られたから鬼頭様が神を殴ったと証言しました。数が多くてもみ消せません。現状鬼頭様が傷害事件の被疑者になります」
「くそ、今までそんなことはなかったではないか」
署長が再び解説する。
「無理して小さい医院に頼んで診断書を作っていましたから。今回は救急車で総合病院に運ばれてしまいましたから難しくなりました。目撃者も多いので、いつもの適切な対応ができませんでした」
理事長夫人が電話を始めた。
「あなた、警察はダメよ。あとは神という生徒を退学にする他ないわ。それで神と一緒にいたという女性を倅にあてがえばいいわ。そう。やってちょうだい。署長はクズだわ。使い物にならない」