022 シン ガラの悪い同級生に絡まれる
お昼はいつも通り、舞さんと三人だ。たまに弁当だが今日は食堂。
食堂に行く途中、ガラの悪いのが絡んできた。
「よう、よう。新入りのお二人さん。だいぶ仲が良さそうだな。そちらのお姉さん、俺と付き合ってくれない」
僕らは無視。
「おい、返事をしろ。すましてんじゃねえぞ」
「何か用でしょうか。僕らには用はありません」
僕らの周りを声をかけて来た男の子分らしいのが囲む。
「食堂に行くのですが、邪魔です」
「通ってみろよ」
「そうですか。それでは」
僕が前に行く。邪魔をしている男がニヤニヤしている。僕はさらに前進、ニヤニヤ男が訝しがる。さらに前進。男にぶつかった。男は弾き飛ばされた。数メートル飛んで背中から落ちた。
「何をする」
「通ってみろというから通りました。そしたらその方が後ろ向きに飛んで落ちました。器用です」
「この野郎」
男が僕の顔に向けて拳で殴りかかってくる。悲鳴があちこちから上がる。
ボキッボキッと音がした。
「うわー。痛え、痛え」
殴りかかって来た男が拳を押さえて転げ回っている。
「鬼頭さんに何をした」
「何も。殴ってきたので僕は驚いてしまって動けず殴られてしまいました。見ていたでしょう。僕は被害者。痛がっているから見てやったら。僕らは食事だ。ほっぺたが痛いなあ」
頬をさすりながら食堂へ向かう。痣は作っておいた。
「あのう、さっきの男は鬼頭理事長の倅です。何かなければいいのですが」
舞さんが教えてくれた。
「僕は被害者だからなあ」
頬の痣をさすってみる。
「ほんとね。殴られて痛かったでしょう。殴り返してやろうかと思った」
アカがにこにこしている。
「舞さんが心配することはありませんよ。大丈夫です。そんなことより食事です。限りある昼休み、有意義に使いましょう」
後ろの方で救急車とか言っている。知りません。
食堂は空いていた。どうも殴打事件の観客が食堂に来ないでそのまま見ているらしい。
僕とアカは焼き魚定食。舞さんも同じにした。
いつもの隅の方が空いていたから三人で座った。
窓の外をみた舞さん。
「救急車が来たみたいです」
アカが惚ける。
「どうしたんでしょうか」
「急患でも出たんだろう」
僕も惚ける。
僕らは現場が見える窓を背にしているので舞さんが食事の合間に教えてくれる。
「ゴリラが来た」
「ゴリラというのは校門ゴリラか?」
「そうです。鬼頭の担任の山田春先生です。電話をかけ始めました」
「取り巻きがこっちを指差しています」
面白くなってきた。
「ゴリラが取り巻きと一緒にやってきます」
ほうほう、食事の邪魔をしようというのね。
「肩で風を切って取り巻きを従えてやってきます」
「校門ゴリラは奴らの親分かい?」
「理事長べったりで、手に負えない倅を引き受けて、給料は他の先生より良いという噂です」
「なるほどなるほど、理事長の腰巾着ですか」
「鬼頭とトラブルになった生徒が何人も退学に追い込まれています」
舞さんは中継の優秀な解説者だ。聞いてみよう。
「この学園に校長はいるんでしょうか」
「いることはいるんですが、理事長の言いなりです」
へえ。そう。
「食堂の入口まで来ました。探しています。取り巻きがこちらを指差して何か言っています」
「こっちに来ます。ゴリラが気がつきました」
「あ、歩みが止まりました」
「取り巻きに押されて嫌々こちらに来るようです」
手を振ってやろう。ゴリラくんの方を向いてひらひらと手を振る。
アカが声をかける。
「ボク、何か用?」
真っ赤になった。
「いや、あの、あの。あとで警察が来ると思います」
逃げて行った。
「ボクちゃんは教えに来てくれたのね」
取り巻きは悔しそうな顔をしている。
「ダメですよ。食券を買わなくては」
僕は親切だから食堂の利用方法を取り巻きに教えてやる。
取り巻きは覚えていろと出て行った。ええ覚えていますとも。
ゆっくり食事をして食堂を出た。パトカーのサイレンの音がする。ゴリラが電話してから随分経ったぞ。まずは病院に行って確認してきたか。