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002 予兆

北海道某市

 某医大法医

 警察から遺体が持ち込まれた。解剖室に運ばれる。


「先生、お願いします」

「なんだ。随分な遺体だな」


 遺体は、腕、足がもぎ取られたようだ。そのもぎ取られた腕と足は骨になっており、どう見ても齧られているように見える。頭部はない。残った首から判断するに何かに噛み切られたようだ。腹部も噛みつき、噛み切られたような状態だ。


「これは、何が噛んだのか、ヒグマではないだろう。もっと大きい。腕や足を抜くなんてヒグマはそんな器用ではないだろう」

「先生、北海道にはヒグマより大きい猛獣はいません」

「それはそうだがこれは」

「ではなんでしょうか。そんな動物はいませんよ。それにこれはどう見ても人の犯罪ではないです」

「そんなら検視でよかったんじゃないか」

「それがあまりに常識はずれなご遺体なので、いちおう記録を残しておけと署長が」

「それなら行政解剖だろう」

「それはそうですが、このご遺体を解剖できる医者はいませんので先生お願いします。犯罪かとおもったらヒグマに噛み切られたと言うことでお願いします」


「ヒグマより大型の動物ではだめかね」

「先生、いもしない動物のことなど書いてどうするんです?」


「それでは肉食獣による・・」

「先生、その肉食獣はなんだとなってしまいます。ヒグマです」

「うううん」

「研究室で待っています」


 警官達は法医の研究室に行った。ビールとちょっとした乾き物のつまみが出てくる。お清めである。古き良き習慣である。目くじらを立ててはいけない。もちろん運転者は飲まないが。


 どっかの爺さんが研究室に顔を出した。

「おい、今日は何かあるのか」

 助手が「なんか変な死体が持ち込まれて」

「おおそうか。行ってみる」


 警官が聞いた。

「あれはどなたですか?」

「帝都大学の法医の教授で、ここの教授の恩師です」


「おい。なんだ、これは」

「あ、先生。警察が持ち込んできてヒグマにしろと」


「これは、ヒグマではない。もっと大型だ。見ろ、頭を一口でバクリと食べたんだろう。腕と脚は握って引っこ抜いたのだろう。そして握って齧った。ヒグマはそういう手の構造をしていない」

「それはそうですが、そういう動物はいないのでは」


「お前は、この遺体から考えられることを書けばいいんだ。もっとも合理的に説明できることは何か。現場は見たか?」

「いえ、現場まで呼ばれることはほとんどありません。現場には行っていません」

「現場を見れば足跡とかあるだろう。惜しかったな。世紀の大発見に立ち会えるところだった。紙をかせ」


 爺さんが何か絵を描いている。

「こういう生き物だろう。背丈はヒグマの倍、口は人の頭をひとのみできる大きさ、かぶりつけるようにいくらか前に出ている。ワニの口を幅広くして短くしたものだ。前足はものを掴める構造」

「こういう動物は見たことはありません」

「動物かどうかわからない。生き物には違いない」


 そんな荒唐無稽な、と教授は思った。思い出した。この大先生、化け物とあだ名がついていた。化け物は化け物を知るということか。


 鑑定書を恩師の説を取り入れて作って提出しておくか。


 後日、恩師の絵をつけて鑑定書を作成して警察に提出したが、再度ヒグマにしてくれと依頼されてしまった教授。生き物の上に線をひいて、ヒグマと訂正し、訂正印を押して再び出した。見え消しである。原記入を見てくれとの気持ちがこもっている。恩師の絵は相変わらず添付した。絵の上に参考と書いておいた。


東北地方の小都市

 猿のようなものがいると警察に通報が相次いだ。


 警察が出動するとニホンザルより一回り大きい小熊のような動物が悠々と歩いている。

 網で捕まえようとすると簡単に網を食い破り何事もなかったように歩いていく。口は尖っていた。鰐の口を短くして幅を広くしたような口であった。


 あちこちから飼い犬が食われたと通報があった。公園で寝起きしていた浮浪者が消えている。血溜まりが残されていたとの通報もあった。


 警察は警官を増員して小熊のような動物を囲んだが囲まれたことを一向に気にする様子がなく進んでいく。警官は盾を持って前に進んで動物を囲もうとした。動物は進行方向の警官に向かって前足を振るった。盾が粉々に破壊され、警官は思わず拳銃を抜き発砲した。銃弾は動物に当たったが何事もなく警官に前足を振るった。ぐしゃっと警官が潰れた。動物はむしゃむしゃと警官を食べ始めた。


「撃て、撃て」

 指揮官の悲鳴のような声が響き一斉に拳銃を発砲した。弾倉が空になるまで撃ったが何事もなく食べ続ける。現場は打つ手がなくなった。


 本部からは警官を増員するから周りを囲んで逃すなとの指示だけであった。


 仲間が食われていくのを我慢できなかった血の気の多い警官がパトカーで体当たりを喰らわせた。誰も止めなかった。


 動物を弾き飛ばせるかと思ったら動物はそのまま食べ続けて、後ろを振り返って、前部が凹んだパトカーを持ち上げて叩きつけた。そして悠々と山の方へ立ち去った。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。


 応援のパトカーが現場に到着し、改めて報告を受けた県警本部。

 警官死者1名、重症者1名。一人は食べられ一人はパトカーごと叩きつけられ重症の大事件である。それも拳銃の銃弾およそ50発はくらっても何事もない動物の出現である。


 県警本部長が急ぎ現場に出向いた。すでに現場付近は立ち入り禁止になっていた。


 本部長は信じられない光景を目撃した。

 これは今までにない事件と直感し、直ちに東北管区警察局長に連絡した。局長はことの重大さをすぐ理解し、警察庁に連絡した。警察庁は合同捜査本部を作り極秘に対応にあたった。


 マスコミへは熊が街中に現れて被害者が出たと発表された。


 それから警察庁には生き物の大きさは異なるがあちこちから見たことのない生き物、その生き物が起こした事件の報告があがってくるようになった。いずれもその生き物に拳銃は全く通用しないとの報告であった。


 出没場所は今の所山中とか地方である。山中で出たときは自衛隊の出動を要請した。全ての武器が効かなかった。


 その生き物は異形と命名された。そして政府は密かに警察庁内部に異形等対策室を作った。


 室員は警察内部から集めた。自衛隊にも連絡員として出向者を依頼した。いずれも有能ではあるが血の気の多い問題児、かつ殉職しても家族構成上あまり問題がなさそうな者を集めた。


 ほぼ殉職前提の部署である。政府は後ろめたいので室員の多少の所業には目を瞑ることにした。

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